補完的保護対象者とは|令和5年改正で創設された保護の要件と手続
2026/09/04
補完的保護対象者とは、難民条約が定める5つの理由によるものではないものの、それ以外の理由により迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために本国に帰ることができない外国人として、認定を受けた者をいう。令和5年改正入管法により創設され、令和6年6月10日から施行されている。難民には該当しないが保護を要する人を受け止めるための制度である。
この記事の要点
- 補完的保護は、難民条約の5つの理由に結びつかない迫害のおそれを対象とする。
- 認定は難民認定申請の手続の中で行われ、別個の申請を要しない仕組みとなっている。
- 武力紛争から逃れてきた人などが、典型的に想定されている。
- 認定されると、難民の認定を受けた場合に準じた在留の安定が図られる。
- 認定されない場合には、難民の不認定と同様に審査請求をすることができる。
補完的保護対象者とは何か
補完的保護対象者とは、迫害を受けるおそれがあるという点では難民と共通するが、その迫害の理由が難民条約の掲げる5つの理由に当たらない者をいう。
難民条約は、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見という5つの理由による迫害を要件としている。そのため、無差別に危害が及ぶ武力紛争から逃れてきた人などは、迫害のおそれが現実にあっても難民の要件を満たさないと判断されることがあった。この隙間を埋めるために設けられたのが補完的保護の制度である。
どのような場合に認定されるか
認定の要件は、条約上の5つの理由によらない迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有し、そのために本国に帰ることができないことである。
実務上は、本国の武力紛争の状況、居住していた地域の危険の程度、本人と紛争との関わり、帰国した場合に具体的にどのような危害が及ぶおそれがあるかを示す必要がある。一般的な情勢の報道だけでは足りず、本人の立場に即した具体的な危険を、資料とともに説明することが求められる。この点は難民認定の審査と共通する。
どのように申請するか
補完的保護のためだけの独立した申請手続はなく、難民認定申請を行えば、難民に該当しない場合に補完的保護対象者に当たるかどうかが判断される。
したがって、申請者としては、まず難民該当性を主張しつつ、仮にそれが認められない場合に備えて、条約上の理由によらない迫害のおそれについても具体的に述べておくことになる。どちらの枠組みで保護を求めるかによって、必要となる資料の性質が異なる部分もあるため、主張の組立ては最初の段階から意識しておくべきである。
認定されるとどうなるか
認定を受けた場合には、難民の認定を受けた者に準じた在留の安定が図られる。
| 比較項目 | 難民の認定 | 補完的保護対象者の認定 |
|---|---|---|
| 迫害の理由 | 条約の5つの理由による | 条約の5つの理由によらない |
| 申請 | 難民認定申請による | 同じ申請の中で判断される |
| 判断の順序 | 先に判断される | 難民に該当しない場合に判断される |
| 認定の効果 | 在留資格が与えられる | これに準じた在留の安定が図られる |
くわしくは難民認定申請および送還停止効の各記事を参照されたい。
認定されない場合はどうなるか
補完的保護対象者にも該当しないと判断された場合には、難民の不認定と同様に、審査請求によって争うことができる。
審査請求でも認められなければ、処分の取消しを求める訴訟を検討することになる。あわせて、在留資格を有しない状態であれば退去強制手続が進むため、在留特別許可を求めるかどうかも並行して検討する必要がある。保護の枠組みを一つに絞らず、複数の道筋を同時に確保しておくことが実務上は重要である。
外国人の刑事事件との関係で注意すべき点は何か
刑事事件による処罰の有無は、迫害のおそれという要件そのものには直結しないが、送還が停止されるかどうかや、その後の在留の扱いに影響しうる。
また、退去強制手続と保護を求める手続が同時に進む場合、供述の一貫性が問題となる。刑事手続で述べた内容と、保護を求める手続で述べる内容が食い違えば、信用性を疑われる原因になる。通訳を介して説明する場面が続くことも踏まえ、事実関係を早い段階で整理しておくことが求められる。
よくあるご質問
Q1 補完的保護だけを申請することはできますか。
独立した申請手続は設けられていません。難民認定申請を行えば、難民に該当しないと判断された場合に、補完的保護対象者に当たるかどうかが判断されます。
Q2 戦争から逃れてきた場合は必ず認定されますか。
必ず認定されるものではありません。本国の状況に加え、帰国した場合にご本人が具体的にどのような危害を受けるおそれがあるのかを、資料とともに示す必要があります。
Q3 難民として認定されるのと何が違いますか。
迫害の理由が条約の5つの理由に当たるかどうかが違いです。認定された場合の在留の安定という点では、難民の認定に準じた扱いが図られます。
Q4 認定されるまでの間、日本にいられますか。
申請中は原則として送還が停止されますが、令和5年改正により例外が設けられています。ご自身が例外に当たらないかを確認しておく必要があります。
Q5 家族も一緒に保護されますか。
ご家族についても、それぞれの事情に応じて判断されます。家族関係を示す資料を整え、家族全体の状況を説明できるようにしておくことをお勧めします。
おわりに
補完的保護は、難民条約の枠組みでは救えなかった人を受け止めるために設けられた制度です。もっとも、迫害のおそれを具体的に示さなければならない点は難民認定と変わらず、資料の準備の負担は軽くありません。どの枠組みで保護を求めるかを最初に整理しておくことが、その後の手続を左右します。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
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