舟渡国際法律事務所

示談を一度断られた後にできること|財産犯の被害回復と、被害者側代理人の視点から見た再交渉

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示談を一度断られた後にできること|財産犯の被害回復と、被害者側代理人の視点から見た再交渉

示談を一度断られた後にできること|財産犯の被害回復と、被害者側代理人の視点から見た再交渉

2026/09/04

窃盗、詐欺、横領、器物損壊。財産犯でご相談をいただくとき、ご本人やご家族が最初に口にされるのは、前科がつくのか、勤務先や学校に知られるのか、日本にいられなくなるのか、という三つの不安です。この三つの答えは、被害者の方との示談が成立するかどうかで大きく変わります。そして、示談を一度断られた方から「もう手はないのでしょうか」とお尋ねいただくことがあります。この記事は、その問いに答えるために書いています。

本記事の要点

  • 示談と被害弁償は、刑事訴訟法248条の「犯罪後の情況」として、起訴・不起訴の判断に直接作用します。
  • 器物損壊などの親告罪では、告訴が取り消されると公訴を提起できなくなります(刑事訴訟法237条)。
  • 財産犯では、被害弁償が執行猶予の分かれ目になり得ます。もっとも、犯情が重い事案では限界もあります。
  • 外国籍の方は、不起訴を得られるかどうかが在留資格を左右します。入管法24条4号リ・4号の2は、いずれも「刑に処せられた」ことを要件としています。
  • 一度断られたことは、交渉の終わりではありません。断られた理由を分解すれば、条件と伝え方を組み替える余地が残っていることが少なくありません。

1 なぜ財産犯では、示談がこれほど重い意味を持つのか

財産犯は、失われたものを金銭で回復できる類型だからです。被害が回復されたという事実は、処分の判断にそのまま反映されます。

刑事訴訟法248条は、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」と定めています。示談と被害弁償は、この「犯罪後の情況」の中核をなす事情です。

令和7年版犯罪白書の資料(令和6年)から、白書自身の定義に従って起訴猶予の割合を算出すると、窃盗49.4パーセント、詐欺32.7パーセント、横領75.0パーセントとなります。詐欺が低いのは組織的・反復的な類型を多く含むためと考えられますが、裏を返せば、単発の財産犯では被害回復が処分を動かす余地が現実に存在するということです。

2 示談が成立すると、処分と量刑はどう変わるのか

作用する場面は三つあります。起訴前、親告罪、そして公判です。

起訴前であれば、起訴猶予による不起訴処分を求める最大の材料になります。前科がつかず、公開の法廷に立つこともありません。

親告罪では、効果はさらに直接的です。器物損壊等(刑法261条・264条)、名誉毀損・侮辱(同232条1項)、親族間の窃盗・詐欺・横領(同244条2項ほか)では、告訴がなければ公訴を提起できません。刑事訴訟法237条1項は告訴を公訴提起まで取り消せると定め、2項は取り消した者の再度の告訴を認めていません。示談で告訴が取り消されれば、起訴の道は閉ざされます。

公判段階では量刑上の事情として作用します。司法研修所刑事裁判教官室『プラクティス刑事裁判』は、被害弁償や被害感情を「一般情状」に位置づけ、刑量を調整する二次的な要素としつつ、事案によっては一般情状が量刑判断において最も重要な意味を持つ場合もある、としています。

裁判例にも現れています。大阪高等裁判所平成27年7月30日判決は、詐欺の事案について、被害の全額が弁償されたことは「刑の執行を猶予するか否かの判断において分水嶺ともなるべき重要な事情」であるとし、実刑とした原判決を破棄しました。他方、広島高等裁判所令和5年11月30日判決は、全額弁償がされていても「考慮するにも限度のある一般情状事情」であるとして実刑を維持しています。示談は万能ではなく、犯情の重い事案では、犯情そのものに対する主張と組み合わせる必要があります。(いずれも令和7年6月1日より前の事案で、判文の「懲役」の表記は当時のものです。現行法では拘禁刑に相当します。)

3 外国籍の方にとって、示談はなぜさらに重いのか

執行猶予でも足りず、不起訴でなければ在留を維持できない場面があるからです。

入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とし、ただし書で全部執行猶予の場合を除外しています。他方、同条4号の2は、別表第一の在留資格(技術・人文知識・国際業務、留学、家族滞在など)の方が、住居侵入、傷害、窃盗、詐欺、恐喝、横領などにより拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由としており、こちらには執行猶予の除外規定がありません。

もっとも、いずれも「刑に処せられた」ことを要件としています。不起訴となれば、条文上これらの退去強制事由には該当しません。さらに、出入国在留管理庁の在留資格変更・在留期間更新のガイドラインは、退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為があれば初犯であっても素行が不良と判断されるとしており、更新・変更の場面まで視野に入れれば、なおさら不起訴を目指す実益があります。

4 被害者の方の連絡先が分からないとき、どう始めるのか

捜査機関を通じて、被害者の方のご意向を確認していただくところから始まります。

加害者側が被害者の連絡先を直接知る手段は、通常ありません。実務では、弁護人が検察官または警察官に示談交渉の申入れの取次ぎを求め、被害者の方が同意された場合に限って連絡先が伝えられます。法律上の制度ではなく実務上の運用であり、拒まれればそこで止まります。だからこそ、最初の申入れが決定的です。誰が、何について、どのような形で謝罪と賠償を申し出ているのかが伝わらなければ、応じる理由がないからです。

5 一度断られた示談は、もう成立しないのか

断られたという事実だけで、交渉が終わるわけではありません。重要なのは、なぜ断られたのかを特定することです。

お断りの理由は、おおむね次のいずれかに整理できます。提示額が被害感情と釣り合っていない。謝罪が定型的で、何をどう反省しているのかが伝わっていない。加害者本人と接触することへの不安が解消されていない。被害から間もなく、応じる心境になれない。あるいは、被害者の方が求めているのが金銭以外のこと――二度と接触されないこと、勤務先や家族に知られないこと、投稿や画像が確実に削除されること――であるのに、それが条件に入っていない。

理由が特定できれば、組み替える余地が見えてきます。金額であれば、原資の作り方と支払の確実性の担保。伝わり方であれば、事実関係を特定した謝罪。接触への不安であれば、窓口を弁護人に限る取決めと接触禁止条項。金銭以外のご要望であれば、それを条項として明記すること。額を上げることよりも、条項を整えることの方が成立に近づく場合があります。示談は起訴後・判決後でも可能です。当事務所は、一度お断りがあった事案についても、その理由を分解し、条件と伝え方を組み替えたうえで改めて申し入れる方針を採っています。

6 被害者側の代理人としての経験が、交渉にどう活きるのか

被害者の方が本当に何を求めているのかを、内側から知っているからです。

当事務所は、被害者側の代理人としての事件も数多く取り扱ってきました。盗撮の被害について刑事告訴と示談交渉を担当し、慰謝料300万円の支払を内容とする示談を成立させた事例。長期間のストーカー行為について、被害者代理人として解決金1,000万円を獲得した事例。取り込み詐欺の被害について、刑事告訴を端緒に相手方を特定し、被害額を大きく上回る7,500万円の解決金を獲得した事例があります。

被害者側に立って分かるのは、求められているものが金額だけではないということです。二度と接触されないこと、事実が広がらないこと、再発しないという確約。これらは加害者側から見えにくい要素であり、示談案の段階で織り込めるかどうかが、応じていただけるかどうかを分けることがあります。なお、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

7 示談書に何を入れるか、刑事和解という選択肢

支払額・支払方法・期限のほか、宥恕文言、清算条項、接触禁止条項、守秘条項、親告罪であれば告訴取消しの条項、分割払であれば期限の利益喪失条項を検討します。「宥恕」は刑法にも刑事訴訟法にも存在しない実務上の用語ですが、法務省の法制審議会部会の資料でも、起訴猶予の考慮要素として、被害回復やそれに伴う示談がなされたこと、被害者が宥恕していることが挙げられています。

分割払で支払の確実性を高めたい場合には、刑事和解という制度があります。犯罪被害者保護法19条により、被告人と被害者の方が共同で申し立て、合意を公判調書に記載してもらうと、その記載は裁判上の和解と同一の効力を有し、確定判決と同一の効力をもつ債務名義となります。もっとも令和6年の利用は19件(制度導入以降の累計801件)にとどまり、実務では裁判外の示談書によるのが通常です。

なお、被害者の方が刑事手続の中で賠償を求める損害賠償命令の制度(同法24条1項)は、故意に人を死傷させた罪や性犯罪等に対象が限られ、財産犯は対象外です。財産犯の被害者の方にとって、示談は早期に被害を回復する数少ない手段でもあります。双方にとって交渉の実益がある、ということです。

8 当事務所の体制

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と、出入国管理関係の行政訴訟を主たる注力分野としています。刑事事件では、特殊詐欺の出し子とされた事案で不起訴処分を獲得した例、受け子として複数回再逮捕された事案で全件について不起訴処分を獲得した例があります。接見・取調べ・打合せに対応できる中国語の通訳体制を備え、刑事手続終了後の在留資格の更新・変更は、提携する行政書士と連携して対応いたします。

9 よくあるご質問

Q1 示談金に相場はありますか。

一律の相場はありません。被害額、被害の性質、被害感情、事案の経緯によって幅があります。財産犯では被害額の回復が出発点ですが、それだけで足りるとは限りません。

Q2 被害者の方が示談を断っています。もう不起訴は難しいですか。

直ちにそうとは言えません。断られた理由によって、条件を組み替えて再度申し入れる余地があります。被害弁償の意思を示すために供託や贖罪寄付を用いる方法もあり、これらも検察官の判断材料となり得ます。

Q3 起訴された後でも示談はできますか。

できます。公判段階の示談は量刑上の事情として考慮されます。控訴審における被害弁償が考慮された裁判例もあります。

Q4 示談が成立すれば、強制送還は避けられますか。

示談それ自体が退去強制を止めるわけではありません。示談によって不起訴を得られれば、入管法24条4号リ・4号の2の「刑に処せられた」という要件を満たさないことになります。ただし、他の退去強制事由に該当する場合もあり、結論は事案によります。

10 おわりに

示談交渉は、金額を提示する作業ではありません。被害者の方が何を求めているのかを把握し、それを条項の形にして、応じていただける形で届ける作業です。一度お断りがあった事案でも、その工程をやり直す余地が残っていることは少なくありません。

本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年9月時点の情報です。

執筆者情報

弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
刑事手続と在留資格の問題を一体としてお取り扱いしております。

舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119

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