「外国人特権」は存在するのか|統計で検証し、通訳・故意・文化慣習をどう争うかを解説
2026/09/04
「外国人は逮捕されても不起訴になる」「外国人には特権がある」。近年、こうした言説を目にする機会が増えました。ご相談にお越しになったご家族から、「本当にそうなのですか」とお尋ねいただくこともあります。
結論から申し上げます。そのような特権は存在しません。公式統計を確認すると、外国人はむしろ起訴されやすく、身柄を拘束されやすく、そして刑事処分に加えて在留資格の喪失という不利益まで重ねて受けています。
もっとも、それは「外国人事件では打つ手がない」という意味ではありません。むしろ逆です。外国人事件には、日本人の事件には存在しない争点があります。通訳です。本記事では、前半で「外国人特権」という言説を統計に即して検証し、後半で、弁護人の側から見たときに何をどのように争えるのかを、実務に即して述べます。
本記事の要点
- 令和5年の統計では、刑法犯の起訴率は全体が36.9%であるのに対し、来日外国人は41.1%である。外国人の方が起訴されやすい。
- 特別法犯で外国人の起訴率が低く見えるのは、入管法違反という罪名の比重による。入管法違反を除けば、全体との差は0.1ポイントにとどまる。
- 入管法違反で不起訴となる場合の多くは、刑罰に代えて退去強制という行政処分が行われている。処分がないのではない。
- 外国人被疑者・被告人は、勾留されやすく、保釈が通りにくく、有罪となれば在留資格を失う。不利益はむしろ重い。
- 弁護の実務では、取調べ通訳の構造的な問題を突くことにより、供述調書が作成された後であっても、故意や文化的背景を争える場面が少なくない。
1 「外国人は不起訴だらけ」は、統計に反する
法務省『令和6年版犯罪白書』により、令和5年の数値を確認します。
| 区分 | 全体 | 来日外国人 |
|---|---|---|
| 刑法犯の起訴率 | 36.9% | 41.1% |
| 特別法犯の起訴率 | 45.4% | 41.9% |
| 特別法犯(入管法違反を除く) | ー | 全体との差0.1ポイント |
刑法犯については、来日外国人の起訴率が全体を4.2ポイント上回っています。過去10年をみても、全体が30%台、来日外国人が40%台で推移しており、逆転した年はありません。
特別法犯についてのみ、来日外国人の起訴率が3.5ポイント低くなりますが、入管法違反を除いて計算すると、その差は0.1ポイントまで縮小します。つまり、差を生んでいるのは「外国人であること」ではなく、「入管法違反という罪名が大量に含まれていること」です。
2 では、なぜ「不起訴が多い」と見えるのか
⑴ 罪名の構成が違う
令和5年の来日外国人被疑事件の検察庁終局処理人員は1万7,512人で、終局処理人員の総数28万5,423人の6.1%を占めます。国籍別の新規受理人員は、ベトナムが37.9%、中国が18.9%、ブラジルが5.3%であり、ベトナム国籍の事件では入管法違反が最も多い罪名となっています。
このように、入管法違反という単一の罪名が母集団に大量に含まれるため、総計同士を比較すると、その罪名の処理方針が全体の数字を支配してしまいます。罪名を揃えずに総計だけを比べることは、統計の扱いとして適切ではありません。
⑵ 退去強制という、刑罰に代わる制裁
これが本質的な点です。
不法残留(入管法24条4号ロ)などの類型では、刑事罰を科すよりも、退去強制手続によって身柄を国外に退去させる処理が優先されることがあります。この場合、検察官は起訴猶予(刑事訴訟法248条にいう「訴追を必要としないとき」)として不起訴とし、身柄は入管当局に引き継がれます。
そして退去強制を受けた者は、原則として5年間、過去に退去強制歴がある場合等には10年間、日本に上陸することができません(入管法5条1項9号)。生活の基盤、家族との同居、就労、そのすべてを失うことになります。
「不起訴であるから、お咎めなしである」という理解は、ここで誤ります。刑罰に代わる、場合によっては刑罰より重い帰結を、別の手続で受けているのです。
⑶ 立証の壁と、訴追の不能
外国人事件には、日本人同士の事件にはない立証上の困難があります。通訳を介した供述の信用性、国外にある証拠の収集、共犯者が国外にいる場合の捜査、そして被疑者自身が出国してしまった場合の所在不明。これらはいずれも、嫌疑不十分やその他の不起訴を増やす方向に働きます。
しかしこれは優遇ではありません。捜査機関が立証できなかった、あるいは手続を進められなかった結果にすぎません。
⑷ 統計の定義が異なる
「来日外国人」という統計上の概念は、永住者、特別永住者、在日米軍関係者等を除いたものです。日本人に関する統計とは母集団の性質が異なります。また、日本人側の起訴率は、道路交通法違反(その大半が略式起訴です)を含めるか否かによって大きく変動します。この点を揃えないまま、図表の一部だけを切り出した比較が広まっていることがあります。
3 むしろ、外国人は不利益を重ねて受けている
実務の感覚としては、こちらの方が実態に近いと考えています。
第1に、身柄拘束です。外国人被疑者は、住居の定めがないこと(刑事訴訟法60条1項1号)や、逃亡すると疑うに足りる相当な理由があること(同項3号)を理由として、勾留が認められやすい立場にあります。
第2に、保釈です。権利保釈の除外事由(刑事訴訟法89条)の判断においても、裁量保釈(同法90条)の判断においても、国外に生活基盤がある、あるいは在留資格を失う可能性があるという事情が、逃亡のおそれとして重く評価されがちです。
第3に、有罪となった後です。薬物関係の罪では、執行猶予判決であっても退去強制事由に該当します(入管法24条4号チ)。無期又は1年を超える拘禁刑の場合も同様です(同号リ。ただし刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者は除かれます)。退去強制事由に直接該当しない場合であっても、有罪判決は在留資格の更新・変更の判断において不利に働き、結果として在留の継続が困難になることが少なくありません。
同じ事実について、日本人であれば罰金や執行猶予で終わるところ、外国人は、刑事処分に加えて在留資格の喪失と上陸拒否期間という不利益を重ねて受けます。「特権」という語で説明できる状態ではありません。
4 議論の中に、一つだけ残る論点
もっとも、この議論の中に、検討に値する指摘が一つだけ含まれていると考えています。
不起訴処分の理由が公表されないため、検察官の判断を外部から検証することができない、という点です。この不透明性が、さまざまな憶測を生む土壌になっていることは否定できません。
ただし、これは外国人に固有の問題ではありません。起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)と処分理由の非開示という、日本の刑事司法全体の構造の問題です。そして「検証できない」ということは、「優遇されている」ということの根拠にはなりません。立証責任の所在の問題です。
なお、被害者の側から見て実在する困難として、加害者が退去強制により出国してしまうと、民事の損害賠償を事実上回収できなくなるという問題があります。これは「特権」ではなく、犯罪被害者の救済制度の不備であり、対処すべき方向がまったく異なります。
5 ここからが実務です
外国人特権は存在しません。だからこそ、弁護人は、外国人事件に固有の防御方法を尽くさなければなりません。その最大のものが通訳です。
取調べの通訳人は、被疑者が選んだ人ではありません。選任するのも、報酬を支払うのも捜査機関です。法廷の通訳人が、裁判所法74条及び刑事訴訟法175条以下の規律の下に置かれ、鑑定に関する規定の準用(同法178条)を受けて宣誓のうえ職務を行うのに対し、捜査段階の通訳人を直接規律する条文は、刑事訴訟法に存在しません。宣誓の制度も、除斥・忌避の手続もありません。
そして、供述調書の作られ方には、二重のずれが生じる余地があります。①捜査官が日本語で調書を作成し、②通訳人がこれを口頭で訳して読み聞かせ、③被疑者は自分では読むことのできない日本語の文書に署名・押印する、という流れです。この過程を後から再現する手段は、録音録画がなければ存在しません。
6 調書を巻かれた後でも、争える
ご相談の際に、「もう調書に署名してしまいました。手遅れでしょうか」とお尋ねいただくことがあります。手遅れではありません。
⑴ 翻訳に完全な等価性はない
当職が担当した国家賠償請求事件において、明治大学法学部教授で法と言語科学研究所代表を務める堀田秀吾教授に、鑑定意見書を作成していただきました。中国語を母語とする依頼者が日本語で送ったメッセージの意味が争点となった事案です。
同意見書は、言語学・翻訳学の知見として、同一言語内においてすら完全な同義語は存在せず、異なる言語の間ではなおさら意味の等価性が欠けることを指摘します。原文の形式を忠実に再現しようとする「形式的等価性」と、原文の意味や効果を伝えることを重視する「動的等価性」のいずれによっても、完全な等価性は達成されないとされます。
そのうえで同意見書は、具体的な発話を分析します。「捨てる」という日本語について、中国語の「丟」が人を目的語に取る場合に、恋愛関係において「一方的に別れを告げる」意味で用いるのは一般的とはいえず、その意味では「甩」が用いられること。したがって、発話者が「甩」のニュアンスで日本語を発したのであれば、「捨てる」という語は選ばれないはずであること。同じ日本語の一文が、母語話者の語感でそのまま読まれるか、発話者の母語からの直訳として読まれるかによって、まったく別の意味になるということです。
これは、取調室で日々起きていることでもあります。
⑵ 「はい」は、同意とは限らない
同意見書はさらに、語用論の観点から、短い応答の危険性を指摘しています。取り上げられているのは、アメリカの言語学者プリンスが関与した殺人事件の例です。
共犯者とされた人物が「そして我々はそのXを殺したわけだ」と述べたのに対し、被告人が「Yeah」と応じた録音がありました。捜査機関側は、この応答を、共に殺人を行ったことを認めた証拠であると主張しました。しかし語用論の観点からは、相手の発言内容を肯定する応答である可能性と、単に会話の流れを途切れさせないための相づち(バックチャネル)である可能性の双方が成り立ちます。裁判所はこの分析を受け入れ、被告人を無罪と判断しました。
取調室で発せられた中国語の「是」「对」「嗯」も同じです。それが質問への同意なのか、聞き取れたという合図なのか、単なる相づちなのかを、日本語の調書の記載から区別することはできません。ところが調書の上では、それが「私に間違いありません」という一文になり得るのです。
⑶ これを、どのように主張に組み立てるか
具体的な弁護活動としては、次の手順を踏みます。
- 取調べの録音録画の記録媒体について、類型証拠の開示(刑事訴訟法316条の15)を請求する。
- 記録媒体がある場合には、通訳人が実際に何をどのように訳したかを逐語で検証し、調書の記載と対照する。
- 取調べに立ち会った通訳人自身の証人尋問を請求する。
- 言語学の専門家による意見書を作成し、証拠として請求する(証拠とすることに同意が得られない場合には、専門家の証人尋問を請求する)。
- 以上を踏まえ、供述調書の任意性(刑事訴訟法319条1項)及び信用性を争う。
供述調書は、署名押印があるというだけで動かせない証拠になるわけではありません。何がどのように訳されたのかを具体的に特定することができれば、争う余地は残ります。
7 故意を争う
外国人事件では、故意の争い方が、日本人の事件とは異なる様相を呈する場面があります。
第1に、事実の認識そのものが、通訳を介して記録されているという問題です。「知っていました」という調書の一行が、実際には「後から知りました」「そうかもしれないと思った程度です」という供述の訳し戻しである可能性があります。未必の故意が争点となる類型、たとえば薬物の運搬、特殊詐欺の受け子・出し子、不法就労助長、偽造文書の行使等では、この一行の意味が結論を左右します。
第2に、規範的な構成要件要素の認識です。「不法就労であることを知っていたか」「その物が規制薬物であると認識していたか」といった認識は、日本の法制度についての理解を前提とします。日本の在留資格制度、資格外活動許可の仕組み、廃棄物処理、銃砲刀剣類、風俗営業等の規制は、母国に対応する制度が存在しない、あるいは大きく異なることが少なくありません。
第3に、違法性の意識の可能性です。刑法38条3項は、法律を知らなかったとしても、そのことによって罪を犯す意思がなかったとすることはできないとしつつ、情状により刑を減軽することができると定めています。もっとも、裁判例の中には、違法性の意識を欠いたことについて相当の理由がある場合に、故意責任を否定し、あるいはこれを重要な量刑事情として考慮したものがあります。公的機関や雇用主から誤った説明を受けていたような場合には、この観点から主張を組み立てる余地があります。
8 文化・慣習を争う
文化や慣習を持ち出すことは、しばしば「言い訳」と受け取られます。しかし弁護の技術としては、次の三つの水準を区別して用いることが重要であると考えています。
第1は、事実の認識の水準です。母国では合法とされ、あるいは事実上放任されている行為が、日本では規制されている場合、行為者が当該行為の意味をどのように認識していたかは、故意の内容そのものに関わります。
第2は、コミュニケーションの水準です。前記のとおり、同じ言葉が、母語の語感によって別の意味を持ちます。取調べにおける「謝罪した」「認めた」という記載が、実際には対立を避けようとする応答様式の表れであることがあります。
第3は、量刑の水準です。行為に至った経緯、送出国での事情、来日の経緯、家族の状況は、いずれも量刑上の情状です。ここでは文化的背景を、責任の減少としてではなく、行為の理解可能性として提示することになります。
いずれの水準においても、「文化が違うのだから許される」という主張はいたしません。そのような主張は通りませんし、通すべきでもありません。争うのは、「日本の法が要求する認識が、この方に、この時点で、本当にあったのか」という一点です。
9 刑事で故意を争うことは、入管手続の防御にもなる
外国人刑事事件の弁護は、刑事手続だけを見ていては足りません。当事務所では、次の三重の防御線を意識して活動しています。
第1の防御線は、刑事手続における故意・過失の争いです。
第2の防御線は、退去強制手続です。入管実務においては、退去強制事由の判断にあたり故意・過失は要件とされないという運用が長年踏襲されてきました。当職は、この運用に対し、責任主義の射程は制裁的な行政処分にも及ぶべきであるという主張を、現に係属中の事件において展開しています。これは現在進行形の議論であり、結論が確定したものではありません。
第3の防御線は、在留特別許可です。出入国在留管理庁が公表する許可事例から同種の事情を抽出し、平等原則の観点から許可を求める手法です。
刑事段階で故意を徹底して争い、その記録を残しておくことは、第2・第3の防御線の準備としても意味を持ちます。逆に、刑事段階で安易に認めてしまえば、その後の入管手続における主張の基礎が失われます。
そして、外国人刑事事件の目標は、執行猶予判決ではなく、起訴前段階での不起訴処分に置かれるべきです。執行猶予判決を得ても在留を継続できない類型が存在する以上、目標の設定を誤ると、依頼者の生活そのものが失われます。
10 よくあるご質問
Q1 「外国人は不起訴になりやすい」と聞きましたが、本当ですか。
刑法犯については、統計上、外国人の方が起訴率は高くなっています(令和5年で、全体36.9%に対し来日外国人41.1%)。特別法犯で低く見えるのは入管法違反の比重によるものであり、これを除けば差はほとんどありません。
Q2 不起訴になれば、日本に住み続けられますか。
不起訴処分と在留資格は、別の手続です。不起訴となっても、退去強制事由に該当すれば退去強制手続が進みます。もっとも、不起訴処分を得ておくことは、その後の在留特別許可の判断において重要な意味を持ちます。
Q3 すでに調書に署名してしまいました。もう争えませんか。
争える場合があります。録音録画の有無、通訳の内容、調書の記載と実際の供述との対応関係を、具体的に検討する必要があります。早期にご相談ください。
Q4 日常会話程度の日本語はできます。通訳なしで取調べを受けても構いませんか。
お勧めいたしません。日常会話ができることと、法律用語を含む取調べのやり取りを正確に理解し、自分の言い分を正確に述べられることとは、まったく別の能力です。
Q5 家族が逮捕されました。何からすればよいですか。
まず弁護人を選任してください。通訳を伴う接見をどれだけ行えるか、どの通訳人を用いるかは、弁護人の体制によって変わります。
11 おわりに
「外国人特権」という言葉は、統計を見る限り、実体を持ちません。外国人被疑者・被告人が置かれているのは、優遇された立場ではなく、日本語という言語への通路を、取り調べる側だけが握っているという、構造的に不利な立場です。
だからこそ、弁護人にできることがあります。通訳を争い、故意を争い、その方がその時点で何をどのように認識していたのかを、丁寧に復元していくことです。これは形式的な作業ではなく、外国人事件においては結論を分ける実質そのものです。
外国人の刑事事件は、諦める必要はありません。
大切な人を守るために弁護士をやっています。
当事務所では、松村大介弁護士が、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続の全般にわたってご利用いただけます。外国人の刑事事件、とりわけ中国語圏の方の刑事弁護と、その後の在留資格の問題については、外国人事件に注力してきた当事務所にご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、結果を保証するものではありません。個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
舟渡国際法律事務所
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