舟渡国際法律事務所

強制送還と言われても|日本で生まれ育ち、国籍だけが外国というあなたへ

お問い合わせはこちら

強制送還と言われても|日本で生まれ育ち、国籍だけが外国というあなたへ

強制送還と言われても|日本で生まれ育ち、国籍だけが外国というあなたへ

2026/09/01

日本で生まれた。あるいは物心つく前に親に連れられて来日した。話す言葉は日本語で、通ったのは日本の小学校・中学校・高校で、友人も家族も仕事もこれからの人生もすべて日本にある。それなのに、刑事事件をきっかけに「強制送還になります」と告げられる。パスポートに書かれた国籍だけが外国であるという、その一点によって。

こうしたご相談は珍しいものではありません。そして、告げられた時点で終わりではありません。日本の入管法は、まさにこのような方を念頭に置いた救済の制度を用意しています。在留特別許可です。以下、幼少期から日本で生活してきた方が刑事事件をきっかけに退去強制手続に乗ってしまった場合を念頭に解説します。

なぜ日本で生まれ育っても退去強制の対象になるのか

出入国管理及び難民認定法(入管法)24条は退去強制事由を列挙しています。刑事事件との関係では主に3つが問題になります。

第1に、24条4号リ。無期または1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者です。執行猶予付き判決は含まれません。在留資格の種類を問わず作動しますので、永住者でも定住者でも日本人の配偶者等でも、1年を超える実刑を受ければ該当します。

第2に、24条4号の2。別表第一の在留資格(技術・人文知識・国際業務、留学、家族滞在、特定技能など、活動に基づく資格)の方が、窃盗・強盗・詐欺・恐喝・傷害・住居侵入・文書偽造・盗品等といった刑法の特定の章の罪により拘禁刑に処せられたときです。決定的に重要なのは、この号は執行猶予付き判決でも該当することです。別表第二(永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者)の方はこの号の適用から除外されています。

第3に、24条4号チ。麻薬取締法・大麻取締法・覚醒剤取締法などの薬物関係法令に違反して有罪判決を受けた者です。「有罪の判決」で足りますから、執行猶予付きでも、理論上は罰金でも該当します。別表第二であっても例外ではありません。

なお特別永住者(入管特例法の適用を受ける在日コリアンの方など)は別で、同法22条により退去強制事由は内乱・外患に関する罪などと、無期または7年を超える実刑を受けて日本国の重大な利益が害された場合に限定されています。

つまり、日本で生まれ育ったという事実それ自体は、退去強制事由への該当を妨げません。多くの方が「日本で生まれたのになぜ」と感じられる所以です。救済は、該当性の段階ではなく、その次の段階で図られる仕組みになっています。

救済の入口は在留特別許可(入管法50条)

退去強制事由に該当しても、法務大臣は在留を特別に許可することができます。これが在留特別許可です。

令和5年法律第56号による改正(2024年6月10日施行)で制度は大きく変わりました。従前は法務大臣の職権発動を待つほかない恩恵的措置でしたが、改正により申請手続が新設され(入管法50条1項)、考慮すべき事情が条文に明示されました(同条5項)。条文が挙げるのは、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間とその間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性などです。

ただし例外があります。無期もしくは1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた方などについては、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限って許可されます(50条1項ただし書)。実刑を受けた方の場合、ハードルはこの水準まで上がります。

どのような事情がどう評価されるかを示したものが、出入国在留管理庁の「在留特別許可に係るガイドライン」です。2006年策定、2009年改定を経て、改正法の施行に合わせ2024年6月に全面改定され、積極要素と消極要素が具体的に列挙されています。

過去の許可事例・不許可事例は、入管の判断を拘束する

ここからが当事務所の立論の中核です。

出入国在留管理庁は毎年「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例」を公表しています。ガイドラインと併せて読むと、どのような事情の組合せが許可に結びつき、どこで不許可に転ぶのかが相当程度まで具体的に見えてきます。

私たちは、これらの公表事例が単なる参考資料にとどまるものではないと考えています。行政庁が自ら基準を定め、自ら公表し、多数の事案をその基準に従って処理してきた以上、その運用は後続の同種事案に対して事実上の拘束力を持ちます。同じ事情の組合せを持つ事案を合理的な理由なく異なって扱うことは、法の下の平等を定める憲法14条1項に反するというべきです。

これは机上の議論ではありません。名古屋高等裁判所は平成25年6月27日の判決で、ガイドラインから大きく離れた判断は平等原則ないし比例原則に違反するとして退去強制令書発付処分を違法としました。大阪高等裁判所も平成25年12月20日の判決(判例時報2238号3頁)で、ガイドラインが手続の透明性・公平性の確保を目的とすることに着目した裁量統制を行っています。

したがって、申請や不許可を争う場面で最初にすべきことは、公表事例の網羅的な洗い出しです。違反態様、在日期間、家族構成、発覚の経緯、素行、人道的配慮の必要性の各項目についてご本人の事案に近接する許可事例を複数抽出し、対照表の形で提示する。そのうえで「同種の事情を有する事案について許可の実績があるにもかかわらず本件についてのみ不許可とすることは、合理的な理由のない別異取扱いである」と主張する。抽象的な人道論を並べるよりもはるかに強い攻め方です。

幼少期に来日した方には、特別の配慮がある

2024年6月改定のガイドラインは、家族関係の積極要素として、本邦の初等中等教育機関で相当期間教育を受けており、本国での教育の受講が困難で、地域社会に溶け込んでいる子との関係を挙げています。素行の項目でも、本邦の初等中等教育機関で相当期間教育を受けているなどの事情により現に相当程度に地域社会との関係が構築されていることが積極要素とされています。

行政実務も動いています。出入国在留管理庁は2023年8月、送還忌避者のうち日本で出生し小学校・中学校・高校で教育を受けている子どもとその家族について在留特別許可を与える方針を打ち出しました。2024年9月27日公表の結果によれば、対象となった子ども201人のうち171人に在留特別許可が付与され、111世帯のうち73世帯は世帯全員が在留資格を得ています。

なぜ日本の学校で教育を受けたことがこれほど重く評価されるのか。ここには「自国」の解釈の転換を読み取るべきだと考えます。

市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)12条4項は「何人も、自国に戻る権利を恣意的に奪われない」と定めます。この「自国」について、規約人権委員会の一般的意見27は、その範囲は「国籍国」の概念より広く正式な意味での国籍に限られないと述べ、さらに長期在留者を含むという広い解釈が可能であるとしています。生まれてから一度も本国で暮らしたことのない人、言葉も文化も日本のものとして育った人にとって、「自国」は日本ではないのか。ガイドラインが教育歴を積極要素として明示したことは、この問いに実務の側から一定の答えを与えたものと解することができます。

比較法も同じ方向を指しています。欧州人権裁判所は2008年6月23日のマスロフ対オーストリア事件大法廷判決(Maslov v. Austria、申立番号1638/03)で、幼少期および青年期の全部または大部分を受入国で過ごした定住移民を退去させるには「非常に重大な理由」が必要であるとの原則を示しました。6歳でオーストリアに移住したブルガリア国籍の男性が少年期の窃盗等で有罪となり退去処分を受けた事案で、裁判所は欧州人権条約8条(私生活・家族生活の尊重)違反を認めています。

実際に何が見られるのか|本国との距離を具体的に示す

抽象論では動きません。実務では次の各点を具体的な資料で埋めていく作業が勝負になります。

第1に、本国との行き来。出入国記録を取り寄せ、来日後に本国へ渡航した回数と滞在日数を確定します。渡航歴が皆無であること、あっても短期の親族訪問にとどまることは、本国に生活基盤がないことの直接的な裏付けになります。

第2に、本国の言語能力。単に「話せません」ではなく、家庭内でも日本語を使っていた経緯、母語の学習歴がないこと、通訳を介さなければ手続ができない実態まで落とし込みます。

第3に、本国の家族・親族。受け入れてくれる親族がいるのか、交流はあるのか、住居や就労の当てがあるのか。ここが空白であれば、送還は生活基盤の完全な喪失を意味します。

第4に、日本での教育歴と地域社会との結びつき。卒業証書、通知表、部活動の記録、恩師や近隣の方の陳述書。ガイドラインが明示的に積極要素とした項目ですから、丁寧に積み上げる価値があります。

第5に、家族関係。日本人や別表第二の在留資格を持つ配偶者・実子との関係、監護・養育の実態。従来から最も強力な積極要素です。

刑事事件の供述調書が、そのまま入管の証拠になる

見落とされがちで、しかし決定的に重要な点です。

刑事事件が先行する場合、捜査段階の供述調書、公判での被告人質問、入管に移送された後の違反審査の調書、口頭審理の調書は、いずれもその後の判断の基礎資料となります。

量刑を軽くしたい一心で「刑を終えたら国に帰ります」「本国には親戚もいるので生活できます」と述べてしまう。あるいは違反審査で早く出たい一心で口頭審理請求権を放棄してしまう。こうした一言が、後の在留特別許可の場面で、本国との結びつきを認めた証拠として、あるいは手続を尽くさなかった事情として、ご本人に不利に働くことがあります。

逆に言えば、刑事弁護の段階から入管手続を見越して動ければ大きな違いが生まれます。示談書、被害弁償の資料、贖罪寄付の受領証明、身元引受書、更生環境に関する陳述書、そして何より、日本での生育歴と本国との断絶を正確に記録した供述を残しておく。刑事手続と入管手続を一体として設計することが、外国人刑事弁護の核心です。

なお、口頭審理請求権の放棄については、通訳が不十分であった、内容を理解していなかったなどの事情があれば、放棄が真意に基づかず無効であるとして退去強制令書発付処分が取り消された裁判例が複数あります(名古屋地判平成30年4月11日、東京地判平成22年2月19日、東京地判平成17年1月21日など)。すでに放棄してしまった場合でも、諦める前にご相談ください。

実際に救済された例

出入国在留管理庁が公表した令和7年分の事例集には、窃盗により拘禁刑1年6月の実刑判決を受けた方について「日系人として本邦で出生し、本邦の教育機関で教育を受けたもの」であることを特記事項として、在留特別許可(定住者・1年)が付与された事例が収録されています。1年を超える実刑という50条1項ただし書の壁を越えた事例であり、日本での出生と教育歴がただし書の「特別の事情」の認定において積極的に機能したことを示しています。

裁判例では大阪高等裁判所平成20年5月28日判決が代表的です。8歳で来日し約8年間在留、日本の小中高で成育した中国籍の子について、本人に帰責性がないことなどを重視し、子についてのみ原判決を覆して裁決および退去強制令書発付処分を取り消しました。

前科があっても道は閉ざされていません。東京地方裁判所平成29年6月16日判決は、19歳で来日して約20年在留し、定住者の妻と日本育ちの子2人がいる中国籍男性について、傷害(重傷)による懲役2年6月・執行猶予5年(現行法の拘禁刑に相当)の判決と罰金前科があり、国が「在留状況は相当に悪質」と主張した事案で、裁決および退去強制令書発付処分を取り消しました。

さらに遡れば、東京地方裁判所平成15年9月19日判決(判例時報1836号16頁)は、2歳で来日し10年以上在住した子を含むイラン人家族について、送還は「これまで築き上げてきた人格や価値観等を根底から覆すもの」であるとし、児童の権利に関する条約3条や比例原則に照らして退去強制令書発付処分を取り消しています。

いずれも、日本での生育という事実を抽象的な同情の材料としてではなく、法的な評価を受けるべき具体的事実として構成し、資料で裏付けた結果です。

よくあるご質問

実刑判決を受けてしまいました。もう手遅れですか。

いいえ。1年を超える実刑の場合は入管法50条1項ただし書の「特別の事情」を要しますが、公表事例には拘禁刑1年2月から1年6月の実刑で許可された例が複数あります。他方、拘禁刑2年6月の実刑については日本人実子の監護養育があっても不許可とされた例があります。量刑の水準は現実に大きな意味を持ちますので、判決前、さらには起訴前の段階での弁護活動が決定的です。

執行猶予がついたので大丈夫ですか。

在留資格の種類によります。別表第一の在留資格(就労資格・留学・家族滞在など)の方が窃盗・傷害・詐欺などで拘禁刑の判決を受けた場合、執行猶予でも入管法24条4号の2により退去強制事由に該当します。薬物事件は在留資格を問わず、執行猶予でも4号チに該当します。

在留特別許可が不許可になったら争えますか。

不許可処分や退去強制令書発付処分については取消訴訟を提起し、併せて執行停止を申し立てる方法があります。送還が迫っている場合は時間との勝負ですので、早期にご相談ください。

日本語しか話せません。有利に働きますか。

有利に働き得る事情です。ただし「話せない」と述べるだけでは足りません。母語の学習歴、家庭内で使用していた言語、本国の教育制度への編入可能性まで具体的に示して、はじめて送還後の生活が成り立たないことの立証になります。

最後に

日本で生まれ、日本で育ち、日本語で考え、日本で人生を組み立ててきた。それなのに国籍という一点で、見たこともない国に送り返されようとしている。この理不尽に、法は答えを用意していないわけではありません。入管法50条の在留特別許可、公表事例の集積が持つ拘束力、憲法14条の平等原則、そして「自国」をめぐる国際人権法の到達点。使える道具はあります。

大切なのは、告げられた時点で諦めないこと、そして刑事事件の段階から入管手続を見越して手を打つことです。

舟渡国際法律事務所は、外国人の刑事弁護と入管手続を一体として取り扱ってきました。中国語については専属の通訳が常駐しており、その他の言語についても事案に応じて通訳を手配します。在留資格・ビザに関する手続は提携の行政書士と連携して対応いたします。

強制送還と言われても、まずはご相談ください。


舟渡国際法律事務所
弁護士 松村 大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119

Other languages / 他の言語 / 其他语言: English简体中文繁體中文한국어Tiếng ViệtनेपालीPortuguêsFilipinoEspañol

----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639


東京にて中国人の方をサポート

東京を中心に刑事事件の弁護

東京にて行政事件に関する対応

----------------------------------------------------------------------

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。