偽装結婚を疑われたとき 依頼した外国人本人と、相手役となった日本人配偶者は何を問われるのか
2026/09/09
在留資格を得るために形だけの婚姻届を出したとして、外国籍の方と日本人の方が同時に逮捕される。本年に入ってからも、そうした類型の事案が各地で報じられています。報道で大きく扱われるのは仲介したブローカーの摘発ですが、私どもが実際にご相談としてお受けするのは、頼んだ側であるご本人と、相手役を引き受けた日本人配偶者の方からのものが大半です。ご家族からは、名前を貸しただけなのになぜ逮捕されるのか、というお問い合わせをよくいただきます。本記事では、依頼した側と相手役の側が、それぞれどのような罪に問われ、在留資格にどのような影響が及ぶのかを整理します。
本記事の要点
- 婚姻の意思がないまま婚姻届を提出する行為は、刑法157条1項の公正証書原本不実記録(電磁的公正証書原本不実記録)に当たり得る。
- 不実の記録がされた戸籍が使用可能な状態に置かれれば、刑法158条1項の供用(不実記録公正証書原本供用)も問題になる。
- 依頼した外国人本人には、これに加えて入管法70条1項2号の2(偽りその他不正の手段による許可の取得)が視野に入る。
- 相手役となった日本人配偶者も共犯として立件されるのが通例であり、報酬を受け取っていれば量刑上不利に働く。
- 刑事処分とは別に、入管法22条の4第1項1号から4号による在留資格の取消しがあり、そこから退去強制手続に接続する。
どのような行為が、どの罪に当たるのか
婚姻の意思がないまま婚姻届を提出する行為は、戸籍という公の記録に虚偽の内容を記録させるものとして、刑法157条1項に当たると解されています。現在の戸籍は電磁的記録として管理されていますから、実務上は電磁的公正証書原本不実記録として扱われる例が多く、法定刑は5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。
さらに、不実の記録がされた戸籍が備え置かれ、証明書の交付などに用いられる状態に置かれると、刑法158条1項の供用にも当たります。この二つは一連の行為として併せて起訴されるのが通例です。
依頼した外国人ご本人については、そうして得た婚姻関係を前提に、日本人配偶者等の在留資格への変更や在留期間の更新を受けた点が加わります。入管法70条1項2号の2は、偽りその他不正の手段により許可を受ける行為を処罰の対象としており、法定刑は3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科です。どの条文がどの範囲で適用されるかは行為の態様によって異なりますので、具体的な適用条文は弁護人にご確認ください。
相手役となった日本人配偶者の責任
相手役を引き受けた日本人配偶者の方も、同じ刑法157条1項・158条1項の共同正犯として立件されるのが通例です。名前を貸しただけという説明は、届出人として自ら署名し役所に届け出ている以上、そのまま通ることは多くありません。
量刑の場面では、報酬の授受が認定されるかどうかが大きく効きます。金銭を受け取っていた場合、動機が経済的な利得にあったと評価され、犯情を重くする方向に働きます。仲介者から継続的に紹介を受け、複数回にわたって同種の届出をしていた事案では、常習性が問われ、いっそう重い処分に傾きます。
他方で、生活に困窮していた事情、交際関係の延長として頼まれた経緯、報酬を受け取っていないことなどは、有利に働き得る事情です。日本人配偶者の方に退去強制の問題は生じませんが、前科が残ることによる職業上・社会生活上の不利益は決して小さくありません。
想定される刑事手続の流れ
この類型の捜査は、戸籍の記載、入管への申請書類、送金記録といった書面の裏付けから入ります。捜査機関は、届出の前後にどこに住み、どのように生活していたかを外形から固めたうえで、逮捕に踏み切ります。
逮捕後は原則10日、延長を含めて最大20日の勾留の中で、取調べが集中します。共犯事件ですから、双方の供述の食い違いを突く取調べが繰り返されます。外国籍の方は住居や身元引受けの事情から勾留されやすく、共犯者との口裏合わせを防ぐという理由で接見等禁止が付く例も少なくありません。
起訴された場合、初犯で報酬額も大きくない事案であれば執行猶予付きの判決となることもあります。もっとも、次に述べるとおり、執行猶予は在留の問題を解決しません。
外国人事件特有のリスク 在留資格の取消しと退去強制
この類型で最も重い結果は、刑事処分そのものではなく、在留資格を失うことです。
入管法22条の4第1項は、偽りその他不正の手段によって許可を受けた場合の在留資格の取消しを定めています。1号と2号は上陸許可の場面を、3号は不正の手段によらずに虚偽の事実を前提として許可を受けた場面を、4号は在留資格の変更、在留期間の更新、永住許可などの場面を、それぞれ対象としています。形だけの婚姻を前提に日本人配偶者等の在留資格への変更や更新を受けたと認定されれば、4号に該当し得ます。加えて、日本人配偶者等の在留資格で在留する方が、配偶者としての活動を正当な理由なく6月以上行っていない場合も取消しの対象となり得ます(同項7号)。
取消しの効果は、根拠となった号によって分かれます。1号又は2号による取消しであれば、入管法24条2号の2により直ちに退去強制手続の対象となります。3号以下による取消しでは出国のための期間が指定され、その期間を経過して残留すれば同条2号の3に当たります。いずれにしても、在留資格を失った後もなお日本にとどまれば、同条4号ロの不法残留の問題が生じます。
刑事の側からは、同条4号リが問題になります。同号は、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、全部執行猶予の言渡しを受けた場合は除かれます。したがって刑事裁判で執行猶予を得られれば、4号リには当たりません。ところが、在留資格の取消しは4号リとは別の経路をたどりますから、執行猶予の獲得によって回避できるものではありません。この点が、本類型で最も誤解されやすいところです。
不起訴処分を最優先の目標に置く理由
以上の構造からすれば、弁護活動は、起訴前の段階で不起訴処分を得ることを最優先の目標として組み立てる必要があります。執行猶予付きの判決は、4号リを回避するにすぎません。
有罪判決が確定したという事実そのものが、その後の在留資格の取消しの判断にも、退去強制手続に進んだ場合の在留特別許可の判断にも、素行の評価として持ち込まれます。逆にいえば、起訴前の段階で、婚姻の意思をめぐる事実関係、報酬の有無、関与の程度について主張と資料を尽くしておくことには、刑事の帰結を超えた意味があります。執行猶予の獲得を最終目標に据える発想では、守るべきものを守れません。
婚姻の実体があるのに疑われている場合
実体のある婚姻でありながら、年齢差、交際期間の短さ、住居の状況、収入の差といった外形から疑いを向けられる例も、相当数あります。この場合に効くのは、愛情があるという抽象的な説明ではなく、日々の生活が残した痕跡です。
同居の実態を示すもの(賃貸借契約、公共料金の支払、宅配や郵便の記録、近隣の方の陳述)、生計の実態を示すもの(送金の記録、共同の口座、家計の支出)、交流の実態を示すもの(通話やメッセージの履歴、写真、双方の親族との往来)。この三つの層をどれだけ具体的に積み上げられるかが分かれ目になります。
大切なのは、疑われてから作るのではなく、婚姻の当初から自然に残しておくことです。そして、取調べにおいて、実は形だけであったという趣旨の調書に安易に署名しないこと。いったん作成された供述調書を後から覆すのは、容易ではありません。
初動対応で押さえておきたい3つのポイント
第1に、黙秘権の行使です。共犯事件では、双方の供述の食い違いが決定的な証拠になります。記憶が曖昧なまま迎合的に答えることは避け、方針が定まるまで供述しないという選択も、十分に合理的です。
第2に、早期の弁護人選任です。勾留の期間は限られており、不起訴を目指すのであれば、その20日ほどの中で主張と資料を整えなければなりません。ご家族からのご連絡が早いほど、打てる手は広がります。
第3に、通訳の質です。婚姻の意思という微妙な内心が問題になる類型では、通訳の精度が結論を左右します。一緒に住むつもりはなかった、という訳と、すぐには一緒に住めなかった、という訳とでは、意味がまったく異なります。当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、ご本人のために動く通訳を刑事手続の全般にわたってご利用いただけます。
当事務所のご案内と解決事例
当事務所では、接見の初動から公判の結審まで、松村大介弁護士が直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更についても、提携の行政書士とともに対応いたします。
在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された方について、婚姻及び認知の手続を実現させたうえで、入管当局の過去の許可事例を分析して主張を組み立て、1回の申請で在留特別許可を獲得した事案があります。婚姻関係の実体をどう示すかが正面から問われた事案でした。
冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機にあった女性の事案では、退去強制事由の判断に故意・過失は不要とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
特殊詐欺の出し子に関わったとされた20代の女性については、指示役からの欺罔や脅迫的な状況といった主観的な事情を総合的に主張し、不起訴処分を獲得しました。関与の程度と内心の認定が争点になるという点で、本記事の類型と共通する事案です。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
結語
婚姻届という一枚の紙が、その後の人生の在り方を大きく変えてしまうことがあります。すでに届出をしてしまった方も、実体のある婚姻でありながら疑いを向けられている方も、まずは事実関係を弁護人と一緒に整理するところから始めてください。早い段階であれば、打てる手は思っているよりも広いことが多いものです。本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
中文版(简体字):被怀疑假结婚时 委托方外国人本人与充当配偶角色的日本人各自要承担什么责任
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