舟渡国際法律事務所

旅券や査証の偽造・変造と行使 刑の重さを問わない退去強制事由(入管法24条4号ニ)の構造

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旅券や査証の偽造・変造と行使 刑の重さを問わない退去強制事由(入管法24条4号ニ)の構造

旅券や査証の偽造・変造と行使 刑の重さを問わない退去強制事由(入管法24条4号ニ)の構造

2026/09/09

在留カードの偽造をめぐる摘発が続いていることは、本ブログでもこれまでに触れてきました。もっとも、ご相談の場面でより深刻な結果を招きやすいのは、旅券(パスポート)、査証(ビザ)、上陸許可の証印に関わる事案の方です。理由は単純で、旅券法違反は、刑の重さを問わずに退去強制事由となり得る仕組みになっているからです。罰金で終わったのだから大丈夫だろう、執行猶予がついたのだから在留は守られるだろう。そのようなお考えでご相談にみえる方は少なくありませんが、旅券に関わる事案では、その見通しは当てはまりません。本記事では、その構造を条文に即して丁寧に説明します。

本記事の要点

  • 旅券の不正取得、偽造・変造、偽造旅券の行使・譲受け・所持は、旅券法23条1項により5年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科の対象となる。
  • 営利の目的で一定の号の罪を犯した場合は、法定刑が加重される(同条2項)。
  • 入管法24条4号ニは、旅券法23条1項(6号を除く)から3項までの罪により刑に処せられた者を退去強制事由に掲げており、刑の重さも執行猶予の有無も問わない。
  • これに対し同号リは無期又は1年を超える拘禁刑に限られ、全部執行猶予の場合は除外される。両者は構造が根本的に異なる。
  • 偽物と知らなかったという弁解が通るかは、未必の故意の認定次第である。

どの行為が、どの条文に当たるのか

旅券法23条1項は、虚偽の申請により旅券や渡航書の交付を受ける行為、行使の目的で旅券を偽造・変造する行為、偽造・変造された旅券を譲り渡し、貸与し、譲り受け、借り受け、又は所持する行為などを処罰しています。法定刑は5年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科です。営利の目的で一定の号の罪を犯した場合には、7年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はその併科に加重されます(同条2項)。

刑法の側では、日本の旅券について公務員に虚偽の申立てをして不実の記載をさせた場合に同法157条2項(1年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金)が、旅券そのものを偽造した場合に同法155条の公文書偽造等が、査証の申請に添える在職証明書や卒業証明書などを偽造した場合に同法159条の私文書偽造等が、それぞれ視野に入ります。

入管法の側では、営利の目的で他人の不法入国や不法上陸の実行を容易にした行為が同法74条の6により処罰され、偽造旅券を提供した行為がこれに当たると評価される場合があります。偽造された旅券を用いて上陸許可の証印を受けた場合には、同法70条各号の問題にもなります。どの条文が適用されるかは行為の態様によって異なりますので、具体的な適用条文は弁護人にご確認ください。

刑の重さを問わないということの意味 4号ニと4号リの対比

ここが本記事の核心です。入管法24条4号ニは、旅券法23条1項(6号を除く)から3項までの罪により刑に処せられた者を、退去強制事由として明文で掲げています。刑の重さは問われていません。

つまり、罰金刑であっても、また執行猶予付きの判決であっても、その判決が確定すれば同号に該当し得ます。刑に処せられたとは、刑を言い渡す判決が確定したことをいい、現実に刑の執行を受けたことまでは必要とされていません。

これに対し、同条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とし、しかも全部執行猶予の言渡しを受けた者を除いています。多くの罪名では、この4号リが唯一の入口ですから、執行猶予さえ得られれば退去強制は避けられる、という説明が成り立ちます。ところが旅券法違反はそうではありません。同じ執行猶予付き判決であっても、たとえば窃盗であれば4号リに当たらないのに対し、旅券法違反であれば4号ニに当たり得るのです。

同じ構造は、薬物事犯についての4号チ(麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、あへん法、覚醒剤取締法などの違反により有罪の判決を受けた者)や、入管法自体の一定の罪についての4号ホにも見られます。号ごとに入口の作りが違うのです。ここを取り違えると、事件の見通しを根本から誤ることになります。

刑事処分がなくても退去強制事由になり得る場合

見落とされがちですが、刑事処分を受けていなくても退去強制事由に当たり得る経路があります。

入管法24条3号は、他の外国人に不正に在留資格認定証明書の交付、上陸許可の証印、在留特別許可などを受けさせる目的で、文書や図画を偽造し、変造し、虚偽の文書を作成し、又はこれらを行使し、所持し、提供し、あるいはこれらの行為を唆し、助けた者を退去強制事由としています。ここでいう文書には旅券が含まれます。

この号は、刑に処せられたことを要件としていません。不起訴となった場合でも、そもそも刑事事件として立件されなかった場合でも、入管の認定によって同号該当と判断される余地が残ります。刑事と入管は別個の手続であり、判断の枠組みも時間軸も異なる。この前提を最初に押さえておく必要があります。

上陸拒否事由への波及と、再入国の可否

退去強制を受けて出国すると、その後は入管法5条1項の上陸拒否事由の問題になります。退去強制を受けて出国した方は、原則として出国の日から5年間、過去にも退去強制を受けたことがある方は10年間、上陸を拒否されます(同項9号)。

これとは別に、同項4号は、日本国又は日本国以外の国の法令に違反して1年以上の拘禁刑に処せられたことのある者を、期間の定めなく上陸拒否事由としています。旅券法違反で実刑を受けた場合には、退去強制歴に基づく期間の経過を待っても、なお4号が残るという事態があり得ます。

拒否期間中に再び入国するには、上陸特別許可(同法12条1項)を求めるほかありません。その認容は容易ではなく、日本にご家族や事業を残す方にとっては、刑事処分そのものより重い意味を持つことがあります。

頼まれて預かっただけ、偽物とは知らなかった、という弁解

実務上、最も激しく争われるのは故意の有無です。もっとも、知らなかったという説明がそのまま通ることは、残念ながら多くありません。

故意は、確定的な認識がなくても、未必の故意で足ります。偽物かもしれないと思いながら、それでも構わないと考えて所持していたと認定されれば、故意は肯定されます。裁判所は、報酬の有無と金額、受渡しの態様(深夜、人目を避けた場所、現金)、依頼者との関係の薄さ、名義人の記載や写真の相違に気付き得たかといった外形的な事情を積み上げて、内心を推認します。

したがって、弁解を通そうとするのであれば、抽象的に否認するのではなく、なぜそう信じたのかを裏付ける具体的な事情、すなわち依頼の経緯、やり取りの記録、報酬がないことなどを示していく必要があります。

ここで、当事務所が現在も争っている論点に触れておきます。入管実務では、退去強制事由の判断に故意や過失は要件とされないとされてきました。刑事では故意が否定されても、入管では該当と判断される場合があるということです。当事務所は、この実務に対して責任主義の射程を問う訴訟を提起し、現在も係争中です。結論を断定することはできませんが、少なくとも、刑事で争う内容と入管で主張する内容とを、最初から一体のものとして設計しておく必要がある、ということは申し上げられます。

不起訴処分を最優先の目標に置く理由

4号ニの構造からすれば、この類型で守るべき一線は、有罪判決の確定そのものを避けることに尽きます。執行猶予の獲得を最終目標に据える発想は、旅券法違反の事案では機能しません。

そこで弁護活動は、起訴前の段階に重心を置きます。所持や交付に至った経緯、故意の有無、関与の程度について、供述と客観資料の双方から主張を尽くし、不起訴処分の獲得を目指すことになります。仮に退去強制手続に進んだ場合でも、在留特別許可の判断では違反の態様と素行が正面から評価されますから、刑事段階で整えた資料は、そのまま入管手続の資料として生きてきます。

初動対応で押さえておきたい3つのポイント

第1に、黙秘権の行使です。故意が争点になる事件では、初期の供述が後々まで効きます。記憶が整理されないまま経緯を語ると、後に説明を補ったときに変遷と評価されかねません。方針が定まるまで供述しないという選択は、十分に合理的です。

第2に、早期の弁護人選任です。旅券が押収されている事案では、鑑定の結果や偽造の程度によって見通しが大きく変わります。何が争えて何が争えないのかを早い段階で見極めることが、方針決定の前提になります。

第3に、通訳の質です。旅券事案では、名義、生年月日、写真、押印の相違について細かな説明が求められる場面があり、通訳の精度がそのまま事実認定に反映されます。当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、ご本人のために動く通訳を刑事手続の全般にわたってご利用いただけます。

当事務所のご案内と解決事例

当事務所では、接見の初動から公判の結審まで、松村大介弁護士が直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更についても、提携の行政書士とともに対応いたします。

冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機にあった女性の事案では、退去強制事由の判断に故意・過失は不要とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。本記事で述べた故意の論点と、正面から重なる事案です。

在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された方については、婚姻及び認知の手続を実現させたうえで、入管当局の過去の許可事例を分析して主張を組み立て、1回の申請で在留特別許可を獲得しました。退去強制手続に進んだ後でも打てる手があることを示す事案です。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者については、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得しました。所持しているものが何であるかの認識という内心が争点になった点で、旅券事案の争い方に通じるものがあります。

過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

結語

一冊の旅券をめぐる事件は、罰金や執行猶予で終わったように見えても、在留の面では終わっていないことがあります。刑事の見通しと入管の見通しを、最初から並べて考えておく必要があるのはそのためです。ご本人やご家族だけで判断なさらず、早い段階でお声がけください。本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年9月時点の情報です。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

微信ID:matsumura1119

中文版(简体字):旅券与查证的伪造变造及行使 不问刑罚轻重的退去强制事由(入管法24条4号ニ)之构造

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