「不起訴になれば入管には何も伝わらない」という誤解 入管法62条2項の通報と不起訴処分の類型
2026/09/05
「不起訴になったのだから、入管には何も伝わらない」。外国人の方の刑事事件で、ご家族から最も多くいただくお尋ねです。もっとも、刑事手続と入管手続は別の法律による別の手続であり、情報が入管に伝わりうる仕組みが法律上あります。本記事では、入管法62条2項の通報と同法63条の構造を条文で確かめ、不起訴処分の類型ごとに在留審査での意味がどう変わりうるのかをご説明します。
本記事の要点
- 入管法62条2項は、国又は地方公共団体の職員に通報の義務を課しています。
- 入管法63条により、刑事手続の進行中でも退去強制手続を進められます。
- 不起訴処分には嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予の区分があり、在留審査での意味が異なりえます。
- それでも不起訴の獲得は、在留を守るうえで最も確かな足場になります。
通報と告発の仕組みを条文で確かめる
結論から申し上げます。刑事事件の情報が入管に届かない、という前提は成り立ちません。入管法62条1項は、何人も同法24条各号のいずれかに該当すると思料する外国人を知ったときは通報できると定め、同条2項は「国又は地方公共団体の職員は、その職務を遂行するに当つて前項の外国人を知つたときは、その旨を通報しなければならない」と、職員に義務を課しています。
さらに入管法63条1項は、刑事訴訟に関する法令による手続が行われる場合でも、「その者を収容しないとき」でも退去強制の手続を行うことができると定め、同条4項は、入国審査官が「容疑者が罪を犯したと信ずるに足りる相当の理由があるとき」は検察官に告発するものとしています。
不起訴処分は一つではありません
刑事訴訟法248条は「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」と定め、これが起訴猶予の根拠です。実務ではほかに嫌疑なし、嫌疑不十分という運用上の区分が用いられます。前の二つは事実が認定されていないことを示しますが、起訴猶予は犯罪の成立自体が否定されたわけではありません。
内容の確かめ方も実務的な問題です。刑事訴訟法259条は、被疑者の請求があるときは速やかに不起訴の「その旨」を告げなければならないと定めるにとどまり、理由は含まれません。理由の告知を定める同法261条は告訴人らについての規定です。弁護人が担当検察官に確認し、経緯を記録に残しておくことが実際的です。
在留への影響 更新の審査と在留資格の取消し
入管法21条3項は、在留期間の更新を「適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り」許可できると定めます。起訴猶予か嫌疑不十分かは、この素行の評価で意味を持ちえます。あわせて入管法22条の4第1項5号・6号は、別表第一の在留資格の方が対応する活動を行っていない場合や、継続して3月以上行わない場合を取消事由としています。
退去強制事由の構造(入管法24条)
- 4号イ 資格外の収入を伴う活動を専ら行っていると明らかに認められる場合
- 4号ロ 在留期間を経過して残留する場合
- 4号チ 覚醒剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法等に違反して有罪の判決を受けた場合。刑の軽重を問いません。
- 4号リ ニからチまでのほか、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合。刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者は除かれます。
- 3号の4 外国人に不法就労活動をさせるなど、不法就労助長に当たる行為
薬物事犯(4号チ)は執行猶予でも該当し、そうでない類型(4号リ)は全部執行猶予なら該当しません。罪名により、刑事の結果と在留の帰趨がずれます。
だからこそ、不起訴を最優先に据えます
多くの類型では、公判で執行猶予付き判決を得ても在留資格を守り切れません。当事務所が起訴前から不起訴処分の獲得を最優先の目標に据えるのは、このためです。なお、入管実務は退去強制事由の判断に故意・過失を要件としない扱いを続けてきました。松村大介弁護士は、責任主義がこの場面にどこまで及ぶのかを問う訴訟を係争中です。結論を断定できる段階ではありませんが、故意・過失が刑事の争点となる類型では、刑事段階で争っておくことが後の入管手続の土台になります。
初動でお願いしたい三つのこと
逮捕後、警察の段階で最大48時間、送致後にさらに最大24時間の中で勾留の要否が判断されます。この72時間で供述の骨格ができあがることが少なくありません。
- 黙秘権 何を話し何を話さないかを弁護人と決めるまで、供述を急がないこと
- 早期の弁護人選任 勾留が決まる前に動けるかどうかで、選べる手段が変わること
- 通訳の質 捜査機関が用意する通訳とは別に、ご本人の側に立つ通訳を確保すること
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全ての工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐し、提携する行政書士と連携して在留資格の手続にも対応します。
- 特殊詐欺のいわゆる出し子とされた20代の女性の事案で、指示役から受けていた欺罔や脅迫的な状況、犯意が認められないことを主張し、不起訴処分を獲得しました(事例B-1)。
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案で、責任主義の射程を問う訴訟を提起し上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています(事例D-2)。
おわりに
「不起訴になれば入管には何も伝わらない」という理解は、制度の実際とは異なります。もっとも、不起訴に意味がないということでは決してありません。どの類型の不起訴を得るのか、その事情をどう記録に残すのかが、在留を守る出発点になります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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