「認めた方が早く出られる」は本当か 外国人の刑事事件で認否を決める前に
2026/09/09
留置場で最初に頭をよぎるのは、「いつ帰れるのか」という一点だと思います。取調べで「認めれば早く出られる」「否認していると長引くぞ」と告げられ、身に覚えのない部分まで認めてしまう。接見でお会いする方の中には、そうした経緯をたどった方が少なくありません。しかし、釈放の時期を決めているのは、認めたかどうかではありません。本稿では、逮捕から釈放までの仕組みを確認し、認否の選択が在留にまで及ぶ理由をご説明します。
本記事の要点
- 逮捕後の身柄拘束の期間は法律で枠が決まっており、認めたからといって自動的に短縮される仕組みではありません。
- 勾留の判断は罪証隠滅のおそれと逃亡のおそれを軸に行われ、外国人の場合は逃亡のおそれが形式的に重く見られやすい実情があります。
- 認めたことで共犯者関係の捜査が広がり、かえって身柄が長期化したり再逮捕に至ったりする場合があります。
- 一度作成された供述調書を後から覆すことは容易ではありません(刑事訴訟法322条1項)。
- 認否の選択は、退去強制事由に当たるかどうかにも直結します。
逮捕から勾留まで、時間の枠は法律で決まっている
「認めれば数日で帰れる」という理解は、制度の仕組みと合致しません。逮捕後、警察は48時間以内に事件を検察官に送致し、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内に、勾留を請求するか釈放するかを判断します(刑事訴訟法203条、205条)。逮捕の時から起算すると72時間が上限です。裁判官が勾留を認めれば、原則10日間(同法207条、208条1項)、やむを得ない事由があるときは延長によりさらに最大10日間続きます(同条2項)。自白を理由に期間が自動的に短くなる仕組みは、この枠組みの中にありません。
釈放の時期を決めるのは、勾留の要件である
勾留が認められるのは、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、住居不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれのいずれかが認められる場合です(刑事訴訟法60条1項各号)。認めたかどうかは、これらの要件の評価に影響することはあっても、要件そのものではありません。
ここで外国人の方が直面するのが、逃亡のおそれの評価です。海外に生活の基盤があること、ご家族が国外にいること、在留資格の期間が限られていることなどが、実務上、逃亡のおそれを基礎づける事情として形式的に重く扱われやすい現実があります。認否にかかわらず、この点への反論が用意されていなければ、身柄は解かれません。住居の実在、家族との同居、勤務の継続、身元引受人の存在を丁寧に積み上げることこそが、釈放への近道です。
認めたことで、かえって長引く場合がある
自白は、捜査の終わりではなく、しばしば次の捜査の入口になります。共犯者の関与を認める供述をすれば、捜査は共犯者関係へと広がり、その裏付けのために拘束が続くことがあります。特殊詐欺のような組織的類型では、別の被害事実について改めて逮捕状が請求され、再逮捕を重ねて拘束が数か月に及ぶことも珍しくありません。早く帰るために認めるという選択が、結果として最も長い拘束を招くのは、こうした構造によります。
一度作成された調書は、後から覆すことが難しい
取調べで作成された供述調書は、公判で証拠として用いられることがあります。被告人の供述を録取した書面は、不利益な事実の承認を内容とするときなど、一定の要件のもとで証拠とすることができるとされています(刑事訴訟法322条1項)。公判になってから「あれは事実と違います」と述べても、なぜ当時そのように述べたのかの説明を求められ、その説明が十分でなければ、後の弁解の方が信用されないという評価につながりかねません。
通訳を介した取調べで起きること
中国語と日本語の間には、そのまま置き換えられない語がいくつもあります。「知っていた」と「分かっていた」と「思っていた」の区別、「頼まれた」と「指示された」の差。こうしたわずかな違いが、故意の有無や共謀の成否という核心を左右します。取調べの通訳は捜査機関が手配しますので、ご本人の言い分に沿った訳出かを確かめる手立ては限られています。調書の内容に納得できないときは、署名押印を拒むことができます(刑事訴訟法198条5項)。分からないまま署名しないでください。
黙秘すると不利になるのか
不利益な推認の根拠にはなりません。憲法38条1項は、何人も自己に不利益な供述を強要されないと定めています。刑事訴訟法311条1項も、被告人は終始沈黙し、また個々の質問に対し供述を拒むことができると定めています。権利を行使したこと自体を理由に不利益に扱うことは許されません。もっとも、早い段階で事実関係を説明した方が有利に働く事案もあります。話すか黙るかは弁護人と相談して決める事柄であり、取調べ室で一人で決めることではありません。
外国人事件特有のリスク
認否の選択は、刑事処分だけにとどまりません。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由と定めます。全部執行猶予が付されればこの号からは除かれますが、同条4号チは、薬物に関する罪や銃砲刀剣類所持等取締法違反などについて、刑の重さを問わず退去強制事由となり得る構造です。また、拘束が長期化すればその間に在留期間が満了し、不法残留(入管法24条4号ロ)の問題が加わることもあります。
なお、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする入管実務については、当事務所が責任主義の射程を問う訴訟を提起し、現在も係争中です。確立した結論として申し上げるものではありません。
不起訴処分の獲得を最優先に置く
以上を踏まえると、外国人の刑事事件で執行猶予判決を最終目標に据えるのは適切ではありません。目指すべきは、起訴前の段階で不起訴処分を得ることです。前科が付かなければ、在留期間の更新や在留特別許可の審査における素行の評価は大きく変わります。限られた時間で事実関係を整理し、被害者対応を進め、検察官に意見書を提出する。この密度が結論を分けます。
初動対応で押さえておきたい3つのポイント
- 黙秘権を知っておく。話す内容と話す時期は、弁護人と相談してから決めます。
- 早期に弁護人を選任する。勾留の判断までの時間は極めて短く、この間の活動が身柄の行方を決めます。
- 通訳の質を確保する。ご本人のために動く通訳を用意できるかで供述の正確さは変わります。当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が常駐しています。
当事務所のご案内と解決事例
松村大介弁護士が、初回接見から公判の結審まで直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。刑事手続の見通しと在留への影響を同じ図面の上で検討し、刑事手続終了後の在留資格については提携の行政書士と連携します。
B-2 特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案です。取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得しました。
A-1 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された事案です。証拠を徹底的に分析し、被告人質問と反対尋問を通じて無罪判決を獲得しました。
D-2 冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機にあった女性の事案です。退去強制事由に故意・過失は不要とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
結語
取調べ室では、時間の感覚が失われます。今日認めれば明日帰れるように思えてしまうのは、無理からぬことです。けれども、その一言は調書として残り、公判でも、その後の在留の審査でも、ご本人についてまわります。認めるか、争うか、黙るか。それは証拠を見たうえで組み立てる戦略です。決める前に、まず弁護人にお会いください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
中文版(简体字):「认了就能早点出去」是真的吗 外国人刑事案件在决定认否之前
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