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通訳を介した供述調書はどこまで信用できるのか 外国人刑事事件における調書の証拠能力

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通訳を介した供述調書はどこまで信用できるのか 外国人刑事事件における調書の証拠能力

通訳を介した供述調書はどこまで信用できるのか 外国人刑事事件における調書の証拠能力

2026/09/09

「署名した記憶はあるが、何が書かれていたのかは分からない」。通訳を介した取調べを受けた依頼者から、接見の場でこう伺うことは珍しくありません。供述調書は事実認定の中心的な資料です。その調書が、ご本人の中国語そのものではなく、通訳と要約を経た日本語の文章であること。外国人事件の防御では、この点を避けて通れません。

本記事の要点

  • 通訳を介した取調べでは、中国語の発話が日本語に訳され、日本語で調書が作られ、中国語に訳し戻されます。
  • 刑事訴訟法198条3項から5項までは読み聞け、増減変更の申立て、署名押印の拒絶を定めます。
  • 調書の証拠能力は刑事訴訟法322条1項等で判断され、任意性が争点となります。
  • 通訳の正確性は証人尋問や録音・録画の精査で争えますが、外国人事件の多くは義務の対象外です。
  • 刑事段階の調書は、退去強制手続の事実認定にも影響し得ます。

供述調書はどのように作られるのか

供述調書は、被疑者が自分で書くものではありません。取調官が聴取内容を要約し、一人称の物語として日本語で作成する書面です。刑事訴訟法198条3項は読み聞かせて誤りがないかを問うべきものとし、同条4項は増減変更の申立てがあればその供述を調書に記載すべきものとし、同条5項は署名押印を拒絶した場合はこの限りでないと定めます。署名押印は義務ではありません。

通訳人が入ると、過程はさらに複雑になります。中国語で話す、通訳人が日本語に訳す、取調官が日本語で調書を作る、それが中国語に訳し戻されて読み聞かされる、署名押印する。2回の翻訳と1回の要約が挟まり、記録に残るのは日本語の完成物です。

二重の翻訳過程で失われるもの

  • 一人称の主体性。「気づいたら荷物を預かっていた」という語りが、「私は荷物を預かることにしました」と整えられます。
  • 時制と相。中国語は語形変化で時制を示さず了・過・着で相を表すため、いつの時点の認識かが曖昧になります。
  • 婉曲と留保。「たぶん」「よく覚えていない」が、断定形に置き換わります。
  • 法律用語への置換。「まずいと思った」が「違法であると認識していた」になると、故意の有無の評価が一変します。

公判で調書はどう扱われるか

被告人の供述を録取した書面は、刑事訴訟法322条1項により、不利益な事実の承認を内容とするとき等に証拠とすることができますが、任意にされたものでない疑いがあると認めるときは証拠とできません。この任意性の要求は、憲法38条2項及び刑事訴訟法319条1項に根拠を持ちます。被告人以外の者については同法321条1項2号、3号が要件を定めます。通訳を介した調書では、3号書面に要求される「特に信用すべき情況」の評価で、翻訳過程の正確性が問題となり得ます。

通訳の正確性を争う方法

  • 通訳人の証人尋問。通訳人も証人となり得ます(刑事訴訟法143条)。用いた語彙や訳し方を確認いたします。
  • 取調べの録音・録画の精査。刑事訴訟法301条の2は、裁判員裁判対象事件等に録音・録画を義務付けます。外国人事件に多い入管法違反、窃盗、薬物の単純所持は対象外です。
  • 原音と調書の対照。録音があれば逐語的に突き合わせ、訳し落としを可視化します。
  • 法言語学的な検討。調書の語彙や文型が、ご本人の話し方と整合するかを見ます。

前提として、日本に司法通訳の国家資格制度は存在しません。裁判所の候補者名簿や捜査機関の登録制度はありますが、法定の資格試験を経た専門職ではないのです。中国語にも普通話、広東語、上海語、福建語など通じにくい差があり、未必の故意や共謀を日常語に噛み砕けるかも個々の力量次第です。市民的及び政治的権利に関する国際規約14条3項(f)は、無料で通訳の援助を受けることを最低限の保障として定めます。

捜査機関が手配する通訳人は、取調べのために選任された者であって、被疑者の側に立つ者ではありません。弁護人が独自に通訳を確保する意味は、ここにあります。

外国人事件特有のリスク 調書は入管手続にも引き継がれる

退去強制手続は、入国警備官による違反調査(入管法27条以下)に始まり、入国審査官の認定、特別審理官の口頭審理、法務大臣への異議の申出(入管法47条から49条まで)と進み、各段階の事実認定に刑事記録が用いられ得ます。

退去強制事由の該当性は号ごとに構造が異なります。入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者が対象で、全部執行猶予を除きます。薬物事犯等に関する同号チは有罪の判決を受けたこと自体で該当し得ます。

ここで重要になるのが、故意・過失の問題です。入管実務では、退去強制事由の該当性判断に故意・過失は要件とされないという運用が長く採られてきました。当事務所は、この運用に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起し、現在も係争中です。結論は予断できません。もっとも、刑事段階で「知らなかった」と争い記録に残すことが、後の在留特別許可(入管法50条)に向けた防御線の準備になる。これは実務上、確かに言えます。

不起訴処分の重要性

多くの罪名では、執行猶予付きの判決を得ても退去強制の対象となり得ます。執行猶予を最終目標とせず、起訴前段階から不起訴処分の獲得を最優先目標に据えます。その可否を左右するのが、取調べの場で作られていく調書です。

初動対応で押さえておきたい3つのポイント

  • 黙秘権の行使。読み聞かされた内容が自分の話したことと違うと感じたら、署名の前に増減変更を申し立て、直らなければ署名押印を拒めます。
  • 早期の弁護人選任。逮捕直後の72時間に何が調書に残るかで、方針が事実上決まります。
  • 通訳の質。誰が、どの言語で訳し、法律用語をどう伝えているのか。確かめずに供述を重ねるのは危険です。

当事務所のご案内と解決事例

当事務所では、松村大介弁護士が初動から結審まで直接担当いたします。捜査機関の通訳とは別に、ご本人のために動く通訳をご利用いただけます。

  • 冤罪により不法就労助長罪に問われた女性の事案では、退去強制事由の判断に故意・過失は不要とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、在留特別許可が認められました。
  • 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者の事案では、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により、無罪判決を獲得いたしました。
  • 国際刑事事件、裁判員裁判対象事件、世界的に報道された事件についても、通訳体制を含む態勢を整えて対応した経験があります。

過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

結語

調書の1行は、読み上げられた瞬間には小さな違和感にすぎないかもしれません。しかしその1行が公判の争点を形づくり、やがて入管の審査官が読む記録にもなります。取調べが始まった後でも、できることは残っています。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。

過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年9月時点の情報です。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

微信ID:matsumura1119

中文版(简体字):经翻译制作的供述笔录究竟有多可信 外国人刑事案件中笔录的证据能力

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