舟渡国際法律事務所

配偶者に無断で子を中国へ連れ帰ろうとしたとき|未成年者略取罪と国際的な子の連れ去りをめぐる法的な整理

お問い合わせはこちら

配偶者に無断で子を中国へ連れ帰ろうとしたとき|未成年者略取罪と国際的な子の連れ去りをめぐる法的な整理

配偶者に無断で子を中国へ連れ帰ろうとしたとき|未成年者略取罪と国際的な子の連れ去りをめぐる法的な整理

2026/09/10

夫婦の関係が行き詰まり、母国の家族のもとへ子どもと一緒に帰りたい。そう考えることは、決して珍しいことではありません。しかし、他方の親の同意を得ないまま子を連れて出国しようとした場合、日本の刑法には未成年者略取罪という重い規定が置かれています。空港の出国手続の段階で止められ、その場で身柄を拘束されるという事態も現実に起きています。他方で、背景に暴力があり、その場を離れること自体が必要であった、という場合もあります。この記事は、どちらか一方の親を責めるためのものではありません。法的にどのような整理がされるのかを、できるだけ落ち着いた形でご説明します。

本記事の要点

  • 親であっても、他方の親の監護権を侵害する態様で子を連れ去れば、未成年者略取罪(刑法224条・3月以上7年以下の拘禁刑)が成立しうるとされています。
  • 国外に移送する目的で略取・誘拐した場合は、所在国外移送目的略取・誘拐罪(刑法226条)として、2年以上の有期拘禁刑という格段に重い法定刑が定められています。
  • 刑法229条により、224条の罪は原則として告訴がなければ公訴を提起できない親告罪とされています。もっとも226条等については扱いが異なるため、個別の確認が必要です。
  • 国際的な子の連れ去りについてはハーグ条約と国内実施法がありますが、中国本土は同条約の締約国ではないとされており、実務上の困難があります。
  • 背景に暴力や虐待がある場合には、連れ去りではなく避難として評価されるべき場面があります。正規の保護手続を経ておくことには大きな意味があります。
  • 身分系の在留資格の方は、事件が離婚に発展することで在留の基礎そのものが失われる、という二重の危険を抱えます。

親が自分の子を連れて行くことが、なぜ罪になるのですか

未成年者略取罪が守ろうとしているのは、子ども自身の自由と安全に加え、監護する側の権利であると理解されています。したがって、親権者であることは、それだけで違法性を否定する事情にはならないと考えられています。

最高裁も、別居中の親が子を連れ去った事案について、未成年者略取罪の成立を認めています(最決平成17年12月6日刑集59巻10号1901頁)。もっとも、親による連れ去りが常に処罰されるわけではありません。実力を用いた態様であったか、子の年齢と意思がどうであったか、それまでの監護の現状がどうであったか、その行為に必要性・相当性が認められるか。こうした事情が総合的に考慮されます。同じ「連れて行った」という事実でも、経緯と態様によって、法的な評価は大きく変わります。

国外に連れ出そうとした場合はどうなりますか

所在国外に移送する目的があった場合には、刑法226条の所在国外移送目的略取・誘拐罪が問題となり、法定刑は2年以上の有期拘禁刑と、格段に重くなります。

この差は小さなものではありません。国内での連れ去りと、国外への移送とでは、子どもが元の生活へ戻ることの困難さが大きく異なると考えられているためです。実務上は、空港での出国手続の段階、あるいは搭乗前の保安検査の前後で事態が発覚することがあります。他方の親が事前に相談していた場合には、旅券や渡航に関する対応があらかじめ取られていることもあります。出国を止められたその場で身柄を拘束され、幼い子どもと引き離されるという事態は、ご本人にとっても子どもにとっても極めて過酷なものです。

相手が告訴しなければ、事件にはならないのですか

刑法229条により、224条の罪は原則として告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪とされています。したがって、他方の親が告訴をするかどうかが、手続の起点になりうる場面があります。

このことは、当事者間の協議・調整が刑事手続の帰趨に影響しうることを意味します。子の監護をめぐる取決め、面会交流の在り方、生活費の分担といった点について合意が形成されれば、刑事手続の見通しも変わってきます。もっとも、告訴の取下げだけを目的として直接に働きかけることは、かえって事態を悪化させます。必ず弁護人を通じ、子の利益を中心に据えた協議として進めるべきです。なお、226条等については親告罪としての扱いが異なりますので、どの条文が問題となる事案であるのかを、個別に確認する必要があります。

民事の手続にはどのようなものがありますか

刑事手続とは別に、家庭裁判所における監護者の指定の審判、子の引渡しの審判、その結論を待てない場合の審判前の保全処分といった手続があります。事案によっては人身保護請求が用いられることもあります。

国境をまたぐ場合については、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)と、その国内実施法があります。ただし、中華人民共和国本土は同条約の締約国ではないとされており、香港およびマカオについては適用があるとされています。そのため、中国本土へ子が連れ去られた場合には、条約に基づく返還申立てという道を利用できないという実務上の困難があります。この場合には、現地の弁護士との連携、領事機関を通じた対応、日本国内での手続の組合せを検討することになります。いずれにしても、時間の経過とともに解決は難しくなりますので、早い段階でのご相談が重要です。

暴力から逃れるために子を連れて家を出た場合は

背景に配偶者からの暴力や子どもへの虐待がある場合、その行為は連れ去りではなく、避難として評価されるべき場面があります。危険から逃れること自体を否定的に評価することは、決してあってはなりません。

もっとも、後になって「一方的な連れ去りであった」と主張されることを防ぐためには、正規の手続を経ておくことが大きな意味を持ちます。配偶者暴力相談支援センターへの相談、一時保護の利用、裁判所への保護命令の申立て、子どもについては児童相談所の関与といった経路があります。あわせて、診断書、写真、相談の記録、やり取りの履歴といった資料を保全しておくことも大切です。言葉の壁があるために相談をためらってこられた方も少なくありませんが、通訳を介した相談は可能です。まずは安全を確保した上で、記録を残していくことをお勧めします。

想定される刑事手続の流れ

逮捕された場合、警察は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内に、引き続き身柄を拘束する手続(勾留)を裁判官に請求するかどうかを判断します。裁判官が勾留を決定すると、原則10日間、延長により最大20日間、身体の拘束が続きます。

この類型では、最初の72時間が特に重要です。この間は弁護人のみが本人と面会でき、他方の親との連絡調整も、弁護人を通じてしか現実的には行えません。子どもがどこで誰と過ごしているのかという不安を抱えたまま、取調べで動揺した供述をしてしまう例は少なくありません。また、これまでの監護の実態、暴力の有無、出国に至った経緯を裏づける資料は、時間とともに失われていきます。早期に弁護人が入り、事実関係を整理しておくことが、刑事手続にとっても、その後の家庭裁判所の手続にとっても、大きな意味を持ちます。

外国人事件特有のリスク(退去強制・在留資格)

この類型では、在留への影響が二重にあらわれます。

  • 第1に、刑事処分そのものによる影響です。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とし、全部執行猶予の言渡しを受けた者を除いています。未成年者略取罪、とりわけ所在国外移送目的の場合は法定刑が重く、実刑となれば同号に該当しうることになります。
  • 第2に、在留資格の基礎そのものが失われるという影響です。日本人の配偶者等、家族滞在、定住者といった身分系の在留資格は、家族関係の存在を基礎としています。事件が離婚に発展すれば、入管法22条の4による在留資格の取消しや、在留期間更新の不許可が問題となります。

他方で、日本国籍の子を現に監護養育しているという実体は、在留特別許可の判断において重視される事情です。入管庁は許可・不許可の事例を年度別に公表しており、これは行政自身が許可相当と判断した先例にほかなりません。同種の事情の下で許可された実績を丁寧に抽出し、憲法14条1項の平等原則の観点から主張していくことが考えられます。つまり、刑事事件をどのように処理したかが、その後の在留に関する主張の基礎を左右します。

不起訴処分の重要性

多くの罪名において、執行猶予判決を得ても在留資格を守り切れない場面があります。刑事弁護は、起訴された後の量刑ではなく、起訴前の段階から不起訴処分の獲得を最優先の目標として組み立てる必要があります。

この類型では、親告罪という構造がある以上、子の監護をめぐる当事者間の合意形成が、そのまま刑事手続の見通しに直結します。同時に、監護の実績、出国に至った経緯の合理性、暴力の有無に関する客観的な資料の提出も、処分の判断に影響します。入管法24条各号の構造を正確に把握していない弁護人の選任は、刑事事件としては終わったのに在留資格を失うという結果につながりかねません。

初動対応で押さえたい3つのポイント

  • 黙秘権の行使。動機や経緯は、感情が高ぶった状態で語ると、意図しない形で記録に残ります。まずは弁護人と事実関係を整理してから話す姿勢が重要です。
  • 早期の弁護人選任。他方の親との連絡、子どもの所在の確認、家庭裁判所の手続の準備は、いずれも弁護人を通じて進める必要があります。最初の72時間に動けるかどうかが分かれ目になります。
  • 通訳の質。家族関係や暴力の経緯といった繊細な内容は、正確な通訳がなければ伝わりません。捜査機関が用意する通訳とは別に、本人のために動く立場の通訳が必要です。

当事務所のご案内と解決事例

舟渡国際法律事務所は、東京都豊島区高田に事務所を置き、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。接見の初動から公判の結審まで、松村大介弁護士が直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件専属の中国語通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を刑事手続の全般で利用していただけます。刑事手続の後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士とともにワンストップで対応します。

家族関係と在留資格が絡み合う事案には、繰り返し取り組んでまいりました。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻・認知の手続が未了で一旦は不受理とされたところ、憲法的な観点から当局と交渉して婚姻と認知を実現しました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析した上で、1回の申請で在留特別許可を獲得しています(事例D-1)。

また、国際的な刑事事件、裁判員裁判の対象となる事件、世界的に報道された事件への対応経験を有しており、中国籍の方の重大事件にも多数対応しています(事例E-1)。

民事手続を組み合わせた解決にも力を入れています。卸業を営む依頼者が取り込み詐欺の被害に遭った事案では、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、被害額を大きく上回る7,500万円の解決金を獲得しました(事例C-1)。刑事と民事の双方から道筋を立てる姿勢は、家族をめぐる事件においても変わりません。

結語

子どもを思う気持ちそのものは、どちらの親にとっても正当なものです。それでも、その思いの表し方によっては、刑事責任を問われ、子どもと会えない期間が長引き、日本に在留する基礎までも失われてしまうことがあります。今まさに空港で止められた、あるいは連れ去られてしまったという方は、時間が経つほど選択肢が狭まります。どうか早い段階でご相談ください。本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年9月時点の情報です。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

微信ID:matsumura1119

中文版(简体字):未经配偶同意欲带子女返回中国时|未成年者略取罪与跨国带走子女之法律梳理

----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639


東京にて中国人の方をサポート

東京を中心に刑事事件の弁護

----------------------------------------------------------------------

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。