起訴状や判決書を中国の家族が読むには|刑事記録の入手方法、翻訳、そして中国での手続に使う場合の認証
2026/09/10
中国本土でこの記事をお読みのご家族へ。日本にいるご家族が逮捕され、その後起訴されたという連絡を受け取ったものの、手元にあるのは日本語で書かれた書面の写しだけで、そこに何が記されているのかが分からない。当事務所は、そうしたご相談を数多くお受けしてまいりました。日本の刑事手続では、逮捕状も、起訴状も、判決書も、すべて日本語で作成されます。中国語訳が自動的に用意されるわけではありません。この記事では、日本の刑事事件でどのような書面が作られるのか、それをどうすれば入手できるのか、どのように中国語にするのか、そして中国での手続に使う場合に何が必要になるのかを、順を追ってご説明いたします。
本記事の要点
- 起訴状には「何をしたとされているのか」が、判決書には「どのくらいの刑になったのか」が書かれており、ご家族が最も知りたい事項は、この2通でおおむね把握できます。
- 起訴状の謄本は被告人に送達され(刑事訴訟法271条1項)、裁判書または裁判を記載した調書の謄本・抄本は、被告人その他の訴訟関係人が自己の費用で交付を請求できます(同法46条)。実務上は弁護人を通じて取得するのが最も確実です。
- 裁判所や検察庁が中国語訳を作成してくれるわけではありません。ご家族への説明のための私的な翻訳と、公的な手続に提出する翻訳とでは、求められる形式が異なります。
- 日本の公文書を中国の手続で用いる場合、従来は公証・外務省の公印確認・領事認証という段取りが必要とされてきましたが、中国についてはアポスティーユ条約が2023年11月に発効しており、対象となる公文書では領事認証に代えてアポスティーユで足りる場合があるとされています。
- 判決書は、退去強制手続や在留特別許可の判断において刑の内容と情状を示す中心的な資料になります。主文の刑期と全部執行猶予の有無が、入管法24条4号リの該当性を左右します。
日本の刑事事件では、どのような書面が作られるのでしょうか
ご家族が最も知りたい「何をしたとされているのか」「どのくらいの刑になりうるのか」は、起訴状と判決書を読めばおおむね分かります。手続の各段階で作られる主な書面は、次のとおりです。
- 逮捕状・勾留状:どのような事実を疑われて身柄を拘束されているのか(被疑事実)、引き続き身柄を拘束される理由と、その期間が記されています。
- 起訴状:検察官が裁判所に対して審判を求めた事実(訴因)と、罪名・罰条が記されています(刑事訴訟法256条)。証拠そのものは添付されず、裁判官に予断を生じさせる書類を添えてはならないとされています。
- 冒頭陳述・証拠等関係カード:検察官が公判で証明しようとする事実の骨格と、取調べを請求する証拠の一覧です。事件の見取り図として役立ちます。
- 判決書:主文(言い渡された刑)と理由(認定された事実、量刑の理由)が記されています。争いのある事件では、なぜその事実が認定されたのかが具体的に書かれます。
整理いたしますと、起訴状は「これから何が審理されるのか」を示す書面であり、判決書は「結局何が認定され、どう評価されたのか」を示す書面です。ご家族への説明としては、まずこの2通を確保することをお勧めしております。
起訴状や判決書は、どうすれば入手できるのでしょうか
起訴状の謄本は、公訴の提起後、遅滞なく被告人に送達されます(刑事訴訟法271条1項)。したがって、起訴されたご本人の手元には必ず起訴状の写しがございます。また、裁判書または裁判を記載した調書の謄本・抄本については、被告人その他の訴訟関係人が自己の費用でその交付を請求することができます(同法46条)。
もっとも、留置施設や拘置所にいるご本人が、自ら請求書を作成し、費用を納め、書面を受け取って中国のご家族に郵送するという一連の作業を行うことは、現実には容易ではありません。実務上は、弁護人を通じて取得するのが最も確実で、かつ速い方法です。
事件が終結し裁判が確定した後の記録については、刑事確定訴訟記録法に基づき、記録を保管する検察庁に対して閲覧を請求する制度が設けられています。ただし、閲覧が制限される場合があり、また記録には被害者や第三者の氏名その他の情報が含まれていることがあります。入手した書面をどこまで、誰に見せてよいのかは、必ず弁護人にご確認ください。
ご本人以外のご家族が受け取ることはできるのでしょうか
弁護人が選任されていれば、ご本人の同意のもとで、弁護人からご家族に対して内容をご説明し、必要な範囲で書面をお送りすることができます。当事務所でも、中国本土のご家族に対し、通訳を介して起訴状の内容をご説明する対応を日常的に行っております。
他方、ご本人の同意なしに第三者へ刑事記録を渡すことは適切ではありません。ご本人のプライバシーに関わるだけでなく、記録に含まれる関係者の情報を保護する必要があるためです。ご家族であっても、まずはご本人の意思を確認する手順を踏むことになります。ご不便をおかけいたしますが、これはご本人を守るための手順であるとご理解いただければと存じます。
中国語への翻訳は、どのようにすればよいのでしょうか
裁判所や検察庁が中国語訳を作成してくれるわけではありません。法廷には通訳人が付きますが、それは口頭のやり取りを通訳するものであって、書面の翻訳文が交付されるわけではないのが通常です。
翻訳には、目的の異なる2種類があるとお考えください。1つは、ご家族に内容を理解していただくための私的な翻訳です。正確でありさえすれば、形式は問われません。もう1つは、公的な手続に提出するための翻訳です。この場合には、翻訳者の氏名・連絡先・署名を付した翻訳証明、すなわち原文の内容を正確に翻訳した旨を翻訳者が明らかにする書面の添付を求められることが多くございます。提出先によっては、翻訳会社の資格や公証を求めることもあります。
加えて、刑事記録の翻訳は日常会話の通訳とは性質が異なります。「共謀」「幇助」「訴因」「未必の故意」「全部執行猶予」といった語は、日本と中国とで条文上の対応関係が単純ではなく、逐語的に置き換えると意味が変わってしまいます。訳文をそのまま中国の機関に提出する場合には、法律用語の扱いに慣れた者の確認を経ることが望ましいと考えております。
中国での手続に使う場合、認証は必要でしょうか
日本の公文書を中国国内の手続で用いる場合、従来は、公証役場での公証、外務省の公印確認、そして駐日中国大使館・領事館における領事認証という段取りが必要とされてきました。
もっとも、中国については「外国公文書の認証を不要とする条約」(いわゆるアポスティーユ条約)が2023年11月に発効しており、対象となる公文書については、領事認証に代えて外務省が発行するアポスティーユで足りる場合があるとされています。全体として、手続が簡略化される方向にあると理解されています。
ただし、どの書面が対象になるのか、翻訳文にも認証が必要かは、書面の種類と提出先によって取扱いが異なります。同じ中国国内でも、公安機関、法院、民政部門、勤務先で求められるものが同一とは限りません。準備を始める前に、必ず提出先に対して、どの形式の認証が必要かをご確認ください。本記事の記載も、一般的な説明にとどまるものです。
その書面は、何のために使うのでしょうか
ここで、書類の流れが2つの方向に分かれることを整理しておきたいと存じます。
- 中国から日本へ:ご親族が中国で戸口簿、結婚証、在職証明、嘆願書といった資料を準備し、日本の刑事手続における情状立証や、入管手続における在留特別許可の申請等で用いる流れです。日本語訳を添えて提出します。
- 日本から中国へ:日本で作成された起訴状や判決書を中国に送り、勤務先や学校への説明、離婚・親権など中国での家事手続、保険や資産に関する手続に用いる流れです。この場合に、上記の認証が問題になります。
この2つは方向が逆であり、必要な翻訳も認証も異なります。混同しやすいところですので、いま準備している書類がどちらの方向のものかを最初に確認しておかれると、無駄な手戻りを避けられます。
想定される刑事手続の流れ
日本の刑事手続は、逮捕からの時間の区切りが厳格に定められています。逮捕後、警察は48時間以内に事件を検察官へ送致し、検察官は24時間以内に、引き続き身柄を拘束する手続である勾留を請求するか否かを判断します。この最初の72時間のあいだ、原則としてご家族は面会できず、弁護人のみがご本人と会うことができます。ここで何を話し、何を話さないかが、その後の事件の方向を決めてしまうことが少なくありません。
勾留が決定されると原則10日間、延長されるとさらに最大10日間、身柄の拘束が続き、この期間内に検察官が起訴・不起訴を判断いたします。起訴されれば起訴状の謄本が送達され、公判を経て判決に至ります。ご家族が起訴状を目にするのは、この流れの中間地点にあたります。逆に申しますと、その前の段階でご家族が動けることは多く、情状に関する資料の準備は、起訴を待たずに始めておく意味がございます。
外国人事件特有のリスク(退去強制・在留資格)
判決書は、その後の入管手続において、刑の内容と情状を示す中心的な資料になります。とりわけ重要なのが、主文に書かれた刑の重さと、全部執行猶予が付いているかどうかです。
入管法24条4号リは、「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者(全部執行猶予の言渡しを受けた者を除く)」を退去強制事由として定めています。したがって、拘禁刑が1年以下であるか、1年を超えても全部執行猶予が付いていれば、この号には当たりません。主文のわずか1行が、日本に残れるかどうかを分けることになります。
他方、入管法24条の各号は、号ごとに構造が異なります。同条4号チに当たる薬物事犯については、刑の軽重や執行猶予の有無を問わず、有罪判決を受けたこと自体が退去強制事由となります。ほかにも、同号ロは不法残留、ハは資格外活動、ニは旅券法違反、ヌは不法就労助長等に関するもので、それぞれ要件が異なります。ご家族の事件がどの号に関係するのかを特定しないまま、「執行猶予が付いたから大丈夫だろう」と考えることは危険です。判決書を早く入手し、内容を正確に理解しておくことが、その後の在留に関する主張の出発点になります。
不起訴処分の重要性
以上を裏返せば、そもそも起訴されずに事件が終わることの意味が見えてまいります。不起訴処分であれば、有罪判決を前提とする退去強制事由には当たりません。多くの罪名において、執行猶予判決を得ても在留資格を守れない類型があることを踏まえれば、刑事弁護は起訴前の段階から、不起訴処分の獲得を最優先の目標として組み立てる必要がございます。
入管法24条各号の構造を正確に把握していない弁護人を選任した場合、刑事事件としては軽い処分で終わったにもかかわらず、在留資格を失うという結果につながりかねません。ご家族が弁護人を探される際には、外国人事件の経験の有無を確認していただきたいと存じます。
初動対応で押さえたい3つのポイント
- 黙秘権の行使:憲法38条1項および刑事訴訟法198条2項により、ご本人には供述を拒む権利があります。事実関係が整理されないまま作られた調書は、後から訂正することが困難です。
- 早期の弁護人選任:最初の72時間はご家族が面会できません。弁護人だけがご本人に会い、方針を伝え、外部との橋渡しをすることができます。
- 通訳の質:捜査機関が用意する通訳とは別に、ご本人の立場で動く通訳を確保することが重要です。刑事訴訟法175条は、国語に通じない者に陳述させる場合に通訳人に通訳をさせる旨を定めていますが、訳出の微妙な違いが供述の意味を変えてしまうことは現実に起こります。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所は、東京都豊島区に事務所を置き、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としております。松村大介弁護士が、接見の初動から公判の結審まで直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行っておりません。外国人事件専属の中国語通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を刑事手続全般でご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士とともにワンストップで対応いたします。中国本土のご家族への状況説明も、通訳を介して随時行っております。
解決事例D-1。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻・認知の手続が未了で一旦は不受理とされましたが、憲法的な観点から当局と交渉して婚姻と認知を実現し、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集いたしました。さらに入管当局の過去の許可事例を分析し、1回の申請で在留特別許可を獲得しております。
解決事例B-2。特殊詐欺の受け子とされ、複数回にわたって再逮捕された事案です。徹底した取調べ対応と、不当な取調べに対する抗議を積み重ね、全件について不起訴処分を獲得いたしました。
解決事例C-1。卸業を営む依頼者が取り込み詐欺の被害に遭った事案です。刑事告訴を端緒として相手方を特定し、被害額を大きく上回る7,500万円の解決金を獲得いたしました。加害者とされた側だけでなく、被害に遭われた方の代理人としてもお力になれる場合がございます。
ご家族が今できること
- ご本人に弁護人が選任されているかを確認し、選任されていなければ、日本の弁護士に相談できる窓口を早めに確保してください。
- 弁護人を通じて、起訴状(起訴されている場合)と、判決が出ていれば判決書の謄本を入手し、内容の説明を受けてください。
- 中国側で用意できる資料(戸口簿、婚姻関係の証明、在職証明、ご家族の嘆願書等)の準備を、判決を待たずに始めてください。いずれも日本語訳が必要になります。
- 中国国内の手続で日本の書面を使うご予定がある場合は、その提出先に対し、翻訳と認証の形式を先に確認してください。
遠く離れた場所からでも、できることは少なくありません。順序を整えて一つずつ進めていけば、状況は動いてまいります。
結語
日本語の書面を前にして何もできないと感じられるお気持ちは、よく分かります。しかし、起訴状と判決書という2通の書面の意味が分かれば、事件の輪郭は見えてまいります。そして、その輪郭が見えてはじめて、ご家族が準備すべき資料も定まります。本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
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