不法残留の知人を泊めた場合、仕事を紹介した場合の刑事責任(入管法74条の8、73条の2、刑法103条)
2026/09/05
「在留カードの期限が切れた」と同じ国の知人に頼まれ、行き場がないというので数日だけ泊めた。あるいは「仕事がない」と言われ、知り合いの現場を紹介した。そうした助け合いが、ある朝、警察の取調べという形で問い直されることがあります。近時、不法残留の外国人の住まいや就労先の手配に関与したとされる摘発も報じられております。本記事では、雇用主ではなく、頼られた個人の立場から、どこからが犯罪となるのかを整理いたします。
本記事の要点
- 入管法74条の8の蔵匿・隠避罪の対象は不法入国者と不法上陸者です。在留期間を過ぎた方を泊めた場合は刑法103条の問題になります。
- 入管法73条の2の不法就労助長罪は、事業活動としての就労、支配下に置く行為、業としてのあっせんを対象とします。
- いずれも、相手が正規の在留資格を持たないと知っていたかどうかが最大の争点です。
- 入管法24条4号ホは刑の重さを限定していません。罰金でも在留を失い得ますので、不起訴処分が目標となります。
1 泊めた相手によって、適用される条文が変わります
入管法74条の8第1項は、退去強制を免れさせる目的で、同法24条1号又は2号に該当する外国人(不法入国者と不法上陸者)を蔵匿し、又は隠避させた者を、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処します。営利目的の場合は加重され、未遂も処罰されます。他方、正規に入国して在留期間を過ぎた方は同法24条4号ロの不法残留であり、同条の対象ではありません。もっとも不法残留は同法70条1項5号の罪ですから、かくまえば刑法103条の犯人蔵匿等の罪(3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)が問題となります。
蔵匿は場所を提供して匿う行為、隠避はそれ以外の方法で発見や身柄の拘束を免れさせる行為とされます。ただし、いずれも退去強制や捜査を免れさせる方向の行為であることを要し、一晩の宿を貸した事実だけで直ちに成立するものではございません。
2 「仕事を紹介しただけ」と不法就労助長罪の距離
入管法73条の2第1項は、事業活動に関し外国人に不法就労活動をさせた者、これをさせるために支配下に置いた者、業としてあっせんした者を、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処すると定めます。1号は事業を営む側を、3号は反復継続の意思による行為を捉えており、知人に一度現場を紹介した場面が当然に当てはまるわけではありません。もっとも、紹介料の受領や継続的な送り込みがあれば「業として」が肯定される余地が生じます。雇用主側の罪について刑法60条の共同正犯や62条の従犯を問われる筋道もございます。
3 最大の争点は「知っていたか」です
入管法73条の2第2項は、在留資格に応じた活動でないこと等を知らなかったことを理由に処罰を免れることはできない、ただし過失のないときはこの限りでない、と定めています。在留カードの原本を確認したかという記録が、そのまま防御の材料になります。他方、蔵匿・隠避は故意犯です。取調べでは「うすうす気づいていたのでは」という追及が繰り返され、通訳を介した曖昧な表現が調書に残る例が見られます。
4 逮捕からの72時間
逮捕されますと、警察は48時間以内に検察官へ事件を送り、検察官は24時間以内に勾留を請求するか釈放するかを判断します。合わせて72時間です。勾留は原則10日間、延長で更に10日間続きます。通訳を介する外国人事件では、本人の意図とずれた調書が残るおそれがございます。
5 在留資格への影響
押さえるべき条項は次のとおりです。
- 24条4号ホ 74条の8等の罪により刑に処せられた者。刑の重さの限定がなく、罰金や執行猶予でも該当し得ます。
- 24条3号の4 不法就労活動をさせる行為等を行い、唆し、又は助けた者。刑事処罰を要件としていません。
- 24条4号リ 無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者。全部執行猶予は除かれます。刑法103条の罪はこの枠組みで判断されます。
- 21条3項・22条の4 更新は相当の理由があるときに限り許可でき、在留資格の取消しも併せて検討を要します。
6 不起訴処分を最優先の目標に据える理由
24条4号ホは罰金でも該当し得ますから、執行猶予を得れば足りるという発想では在留を守れません。認識の有無を客観的な資料で示し、検察官が処分を決める前に提出できるかどうかが結論を分けます。
なお、入管の実務は、退去強制事由の判断に故意や過失を要件としない立場を取ってきました。当事務所は、冤罪により不法就労助長罪に問われた依頼者の事案でこの点を問う訴訟を提起し、上訴審まで争いました。同じ方について、その後、在留特別許可が認められています。論点は議論の途上にあり結論を断定できませんが、刑事段階で認識を争っておくことが、入管手続での主張の土台になります。
7 初動でお願いしたい三つのこと
- 黙秘権を行使する 供述の要否は、事実と法的構成を確認してから判断すれば足ります。善意を伝えようと経緯を長く語り、認識を認めた調書が残る例が多く見られます。
- 早期に弁護人を選任する 勾留が決まってからでは、論点が調書の形で固まっていることがあります。
- 通訳の質を確かめる 捜査機関の通訳は、捜査のための通訳です。依頼者本人のために動く立場の通訳が必要です。
8 当事務所のご案内
当事務所では、松村大介弁護士が最初の接見から公判の結審まで全ての工程を直接担当いたします。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐し、捜査機関の通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場で同席いたします。
解決事例を二件ご紹介いたします。在留資格を失い不法滞在で起訴された方の事案では、婚姻と認知の手続を実現させ、過去の許可事例を分析して主張を組み立て、在留特別許可を一度の申請で獲得いたしました。特殊詐欺の受け子とされ複数回再逮捕された方の事案では、不当な取調べに抗議を重ね、全ての事件で不起訴処分を得ることができました。
おわりに
善意で手を差し伸べただけなのに、と多くの方がまずおっしゃいます。ただ、どの条文で見られているのかを特定し、認識の有無という争点に事実を正確に対応させていけば、結論が変わることは珍しくありません。まずはご自身の行為が置かれた枠組みを知るところから始めていただければと思います。
善意で手を差し伸べただけなのに、と多くの方がおっしゃいます。ただ、どの条文で見られているのかを特定し、認識の有無という争点に事実を正確に対応させていけば、結論が変わることは珍しくありません。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
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