住んでいない住所への転入届と「住所貸し」 電磁的公正証書原本不実記録罪と在留資格
2026/09/05
「知人に頼まれて、自分の部屋の住所を会社の登記に使わせただけです」。そうしたご相談は珍しくありません。ご本人には軽い頼まれごとでも、住所の届出は住民票という公的な記録を動かす行為ですので、法律上の評価は思いのほか重くなります。近時は、住所を偽った届出が端緒となって国際的な犯罪組織の関係者が摘発されたとする報道も見られます。外国籍の方には、刑事責任に加えて在留資格を失う危険が重なります。どこからが犯罪となり、在留手続にどう影響するのかを整理いたします。
本記事の要点
- 居住の実体がない場所への転入届は、刑法第157条第1項の電磁的公正証書原本不実記録罪に当たりうる。
- 住民基本台帳法第22条の届出義務違反や虚偽の届出には、同法第52条が5万円以下の過料を定める。
- 住所を貸した側も、実体がないと知りながら協力していれば共犯となる余地がある。
- 虚偽の住居地の届出は、入管法第22条の4第1項の在留資格取消事由に当たる。
- 執行猶予判決では在留資格を守れない類型があるため、起訴前の不起訴処分の獲得が最優先となる。
住んでいない場所へ転入届を出すと、どの罪に問われるのか
電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法第157条第1項)と、その記録を公正証書の原本としての用に供した罪(同法第158条第1項)が問題となります。法定刑はいずれも5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。住民票は選挙人名簿の登録など行政サービスの基礎となる電磁的記録ですから、実体がないと分かったうえで届け出れば、同罪の成否が正面から問われます。住民基本台帳法第22条は転入から14日以内の届出を義務付け、同法第52条は虚偽の届出等に5万円以下の過料を定めております。
「住所を貸しただけ」は、どこから犯罪になるのか
分かれ目は、届出や登記の内容が実体と食い違うと認識していたかどうかです。刑法第157条第1項は登記簿を明文で掲げておりますから、事業の実体がないと知りながら住所を提供し、虚偽の本店所在地を登記させれば、共犯となる余地があります。郵便物の受取も、口座開設書類や犯罪による収益に関わるものであれば、別の犯罪の幇助が問題とされかねません。他人の名義で承諾書を作成すれば、私文書偽造罪(同法第159条、3月以上5年以下の拘禁刑)が加わります。
在留手続における住居地の届出義務
中長期在留者は、住居地を定めた日から14日以内(入管法第19条の7)、変更したときは移転の日から14日以内(同法第19条の9)に届け出る義務があります。勤務先や配偶者との関係の変更については、同法第19条の16が届出義務を定めます。届出をしなければ20万円以下の罰金、虚偽の届出をすれば1年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金という罰則が、同法第71条の2及び第71条の3に置かれております。
在留資格の取消し(入管法第22条の4)
虚偽の住居地の届出は、それ自体が在留資格の取消事由です。出入国在留管理庁の説明によれば、同条第1項は、新たに中長期在留者となった方が許可から90日以内に住居地を届け出ない場合、届け出た住居地から退去した日から90日以内に新住居地を届け出ない場合、虚偽の住居地を届け出た場合を、いずれも取消事由として掲げております。虚偽の書類を提出して上陸許可の証印等を受けた場合について、同庁は「申請人に故意があることは要しません」と説明しております。
逮捕された場合の手続と、最初の72時間
逮捕されますと、警察は原則48時間以内に検察官へ送致し、検察官は原則24時間以内に勾留を請求するかを判断いたします。合わせて72時間です。勾留されれば原則10日間、延長で更に10日間、拘束が続き、その間に勤務先を失って在留資格の基礎となる活動が途切れる例も少なくありません。この72時間に弁護人が接見できるかどうかが、その後の全体を規定いたします。
退去強制事由の構造と、不起訴処分の重み
入管法第24条は退去強制事由を列挙し、同条第4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を掲げつつ、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者を除いております。もっとも、同号ロは資格外活動に関する類型を、同号チは薬物関係法令等の違反による有罪判決を掲げ、後者は刑の軽重を問いません。同号ヌは不法就労助長に関する類型です。退去強制を免れても、在留期間の更新は同法第21条の審査を経ますので、当事務所は起訴前の不起訴処分の獲得を最優先の目標に据えております。
故意と過失をめぐる、現在係争中の論点
入管の実務は、退去強制事由の判断に故意や過失を要件としない立場を長く採ってまいりました。松村大介弁護士は、この点について責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争っております。結論を断定できる段階ではございませんが、住所の届出をめぐる事案は知らなかったという点が争いになりやすく、刑事段階で丁寧に争っておくことが、後の入管手続における主張の基礎になります。
初動で押さえていただきたい3点
- 黙秘権を行使すること。曖昧な記憶のまま頼まれてやったと述べた調書が、認識を認めた証拠として扱われます。
- 早期に弁護人を選任すること。勾留の可否や在留カードの取扱いは、初期の対応で結論が変わります。
- 通訳の質を確かめること。微妙な言い回しの訳し違いが、認識の有無の判断を左右いたします。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐し、依頼者ご本人のために動く立場から通訳を行います。
冤罪により不法就労助長の罪に問われ、強制退去の危機に直面された女性の事案では、退去強制事由の判断に故意も過失も要しないとする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争いました。その後、この方については入管から在留特別許可が認められております。
虚偽の株主総会決議により代表取締役を解任されたとする事案では、決議の実体がなかったことを立証し、東京地方裁判所と東京高等裁判所のいずれにおいても勝訴いたしました。実体の側から事実を積み上げる手法は、住所や登記をめぐる事件にも通じます。
おわりに
住所は、生活の実体を示す最も基本的な情報です。その届出に虚偽があると認定されれば、影響は刑事と在留の双方に及びます。頼まれごとの延長のつもりであっても、早い段階で法的な整理を受けておかれることをお勧めいたします。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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