貸金の取立てが逮捕監禁罪になるとき 同胞間の金銭トラブルと刑事責任、そして在留資格
2026/09/05
「貸した金を返してもらうために話をしただけです」。同じ国の出身者どうしの金銭トラブルでは、当事者としては話合いのつもりであった行為が、外形的には逮捕監禁と評価されてしまう場面が含まれます。近時は、いわゆる闇バイトの報酬をめぐる金銭トラブルから、同じ国籍の者どうしの間で監禁事件に至ったとする報道も見られます。取立てがどの時点で犯罪となり、示談にどこまでの意味があり、在留資格にどう跳ね返るのかを整理いたします。
本記事の要点
- 部屋やホテルに留め置く行為、車に乗せて移動する行為は、逮捕監禁罪(刑法第220条)に当たりうる。
- 義務のないことを行わせれば強要罪(同法第223条)、畏怖させて金銭を交付させれば恐喝罪(同法第249条第1項)が問題となる。
- 自らに債権があっても、手段が社会通念上許容される程度を逸脱すれば恐喝罪が成立しうる(最高裁昭和30年10月14日判決)。
- これらの罪は親告罪ではないため、示談が成立しても当然に不起訴となるわけではない。
- 入管法第24条第4号リの退去強制事由と、同法第21条の更新審査を通じて、在留に直接の影響が及ぶ。
部屋やホテルに留め置く行為は、どの時点で監禁になるのか
相手が自由に立ち去ることが著しく困難な状態を作り出した時点で、監禁罪が成立しうると考えられております。刑法第220条は、不法に人を逮捕し、又は監禁した者を、3月以上7年以下の拘禁刑に処すると定めております。鍵をかけたかどうかは決定的ではございません。出入口の前に人が立っている、携帯電話を取り上げられている、複数人に囲まれているといった事情が重なれば、施錠がなくとも同様に評価される余地があります。
走行中の自動車に乗せて移動する行為も同じ問題を含みます。相手が納得して乗り込んだ場合であっても、降ろしてほしいという求めを拒み続ければ、その時点から監禁と評価されうる、という整理になります。
強要罪・恐喝罪との関係
話合いの過程で、借用書に署名させる、謝罪文を書かせる、在留カードを預からせるといった行為に及べば、強要罪(刑法第223条)が問題となります。同罪は、脅迫又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者を、3年以下の拘禁刑に処します。さらに、相手を畏怖させて金銭を交付させれば恐喝罪(同法第249条第1項)が成立し、法定刑は10年以下の拘禁刑です。監禁と恐喝とが併せて問われる事案では、量刑は相当に重くなります。
自分に債権があれば許されるのか
債権があることは、手段の違法性を当然に消し去るものではございません。最高裁判所は、昭和30年10月14日の判決において、債権取立てのために採った手段が、権利行使の方法として社会通念上一般に許容すべきものと認められる程度を逸脱した恐喝手段である場合には、債権額のいかんにかかわらず、交付を受けた金員の全額について恐喝罪が成立すると判断しております。弁護活動の力点は、債権の存否よりも、採られた手段の態様、時間、人数、有形力の有無の再構成に置かれます。
怪我をさせてしまった場合
監禁の過程で相手に怪我をさせた場合には、逮捕等致死傷罪(刑法第221条)となり、傷害の罪と比較して重い刑により処断されます。もみ合いで生じた擦過傷であっても傷害の結果として扱われますので、診断書が提出された時点で見通しは大きく変わります。
逮捕された場合の手続と、最初の72時間
逮捕されますと、警察は原則48時間以内に検察官へ送致し、検察官は原則24時間以内に勾留を請求するかを判断いたします。合わせて72時間です。勾留されれば原則10日間、延長で更に10日間、拘束が続きます。監禁の事案は複数人が関与する類型が多く、接見等禁止が付されることも少なくありません。ご家族が面会できない状態が続きますので、弁護人が事実上唯一の連絡経路となります。
示談にどこまでの意味があるのか
示談は処分を軽くする方向に働く重要な事情ですが、それだけで不起訴が確定するものではございません。逮捕監禁罪も強要罪も恐喝罪も、告訴がなければ起訴することができない親告罪ではないためです。実務上は、示談の成立に加えて、犯行に至った経緯、有形力の程度、主導的な立場であったかどうか、再発を防ぐ体制を、資料の形で提出していく作業が必要です。示談書の文言や宥恕の意思の記載を、処分を判断する側に伝わる形で構成することが要となります。
在留への影響と、不起訴処分の重み
入管法第24条第4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由として掲げつつ、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者を除いております。監禁と恐喝とが併せて起訴された事案では量刑が実刑の域に近づきますので、この規定は絵空事ではございません。
退去強制事由に当たらない場合でも、在留期間の更新は入管法第21条の審査を経ますので、有罪判決の事実は素行の評価で不利に働きます。身体の拘束が長引いて勤務先を失えば、同法第22条の4による在留資格の取消しが問題となる余地もございます。執行猶予判決では在留を守り切れない場面が現に存在する以上、当事務所は起訴前の不起訴処分の獲得を最優先の目標に据えております。
故意と過失をめぐる、現在係争中の論点
入管の実務は、退去強制事由の判断に故意や過失を要件としない立場を長く採ってまいりました。松村大介弁護士は、この点について責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争っております。結論を断定できる段階ではございませんが、共犯者の行為をどこまで認識していたのかという点は、刑事の争点であると同時に、後の入管手続における主張の基礎になります。
初動で押さえていただきたい3点
- 黙秘権を行使すること。共犯者とされる方の供述と食い違わないように話そうとして、かえって不正確な調書が残る例が目立ちます。
- 早期に弁護人を選任すること。接見等禁止が付く前に方針を定められるかどうかで、その後の見通しが変わります。
- 通訳の質を確かめること。取立ての場面での言葉づかいは、訳し方ひとつで脅迫の有無の評価が変わります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐し、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場から通訳を行います。
当事務所は、加害者とされた側の刑事弁護のみならず、被害を受けた側の代理人としての活動にも力を入れております。ストーカー被害を受けられた依頼者の代理人として、1,000万円の解決金を獲得した事案がございます。
また、取り込み詐欺の被害に遭われた事案では、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、7,500万円の解決金を獲得いたしました。適法な回収の道筋を早い段階でお示しできることは、取立てを行う側が加害者になる事態を防ぐ意味でも重要です。
おわりに
貸した金を返してもらいたいという思いそのものは、正当なものです。けれども、その手段を誤れば、債権者であったはずの方が被疑者となり、在留資格まで失いかねません。相手と直接向き合う前に、法的な回収の手段について弁護士にご相談いただきたいと考えております。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
中文版(简体字):讨债何时变成逮捕监禁罪:同胞之间的金钱纠纷、刑事责任与在留资格
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舟渡国際法律事務所
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