「自分は末端の実行役だから軽く済む」は本当か|組織的な犯罪における量刑の考え方と、退去強制事由との関係
2026/09/10
特殊詐欺の受け子や出し子、あるいは組織的な窃盗の運搬役として身柄を拘束された方のご家族から、次のようなご相談をいただくことがあります。本人は末端の実行役にすぎず、上から言われたとおりに動いただけである、受け取った報酬もわずかであった、それなら刑も軽く済むのではないか、というものです。こうした事情が量刑上有利に働く場面は、確かにございます。もっとも、末端だから軽いと単純に言い切れない構造が、いくつも存在いたします。とりわけ外国人の方の場合、刑の重さがそのまま日本に残れるかどうかを左右いたします。本記事では、その構造を正面から整理いたします。
本記事の要点
- 共謀共同正犯の下では、実行役も指示役と同じ罪名で処断されうる。役割の軽重は量刑の問題であって、成立する罪名を自動的に軽くするものではない。
- 上位者が検挙されない事件では、組織全体が生んだ被害額が、そのまま末端の実行役の量刑事情として扱われる危険がある。
- 入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とし、全部執行猶予の言渡しを受けた者を除く。刑期が1年を超えるかどうかが分水嶺になる。
- 全部執行猶予が付いても、在留期間の更新や在留資格の変更の審査では前科が正面から評価される。退去強制事由に該当しないことと、更新が認められることは別問題である。
- 末端であることは有利な事情の出発点にすぎず、結果に結び付けるには、証拠に基づく具体的な主張が必要である。
末端の実行役であれば、罪名も軽くなるのでしょうか
結論から申し上げますと、罪名が自動的に軽くなるわけではありません。刑法60条は、2人以上共同して犯罪を実行した者は全て正犯とする旨を定めており、実務上は、実行行為そのものを分担していなくとも謀議に加わっていれば正犯となるという共謀共同正犯の考え方が確立しております。裏を返せば、指示役の描いた計画に従って現金の受領や引出しを担った方も、指示役と同じ罪名で処断されうるということです。
役割が従属的であったこと、報酬が少額であったことは、量刑を判断する際の事情として考慮されます。しかし、それは成立する犯罪そのものを軽くするものではございません。他方、関与の程度が正犯というほどには至らず、他人の犯罪を容易にしたにとどまると評価されれば、幇助犯(刑法62条1項)となり、刑は減軽されます(刑法63条)。もっとも、幇助にとどまるという評価は自然に与えられるものではなく、その旨の具体的な主張と、これを裏付ける証拠を弁護人の側から示す必要がございます。
上位者が捕まっていない事件では、なぜ負担が重くなるのでしょうか
事件全体の責任が、事実上、末端の方お一人に集まってしまうためです。
指示役が国外にいる、匿名性の高い通信アプリで指示が出されていた、関係者が既に出国している、といった事案では、捜査機関が上位者に到達できません。その結果、立件されるのは目の前の実行役のみとなり、組織全体が生み出した被害額が、そのまま実行役の量刑事情として扱われる危険がございます。
だからこそ、上位者の存在を示す客観的な資料を、早い段階で確保しておくことに実務上の意味がございます。指示のやり取りが残る通信記録、報酬の送金記録、指示内容の履歴、勧誘に用いられた求人の投稿画面などは、時間の経過とともに失われてまいります。ご本人の記憶だけに頼るのではなく、弁護人の側で保全を図ることが、役割の限定を主張する土台になります。
被害額が大きい事件では、実行回数が少なくても重くなるのでしょうか
重くなる場合がございます。量刑は、実行回数のみで決まるものではないためです。
詐欺罪や窃盗罪の量刑では、被害額の大きさ、被害者の属性、犯行の計画性や組織性が重視されます。加えて、団体の活動として、組織により行われた詐欺については、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律に、刑を加重する定めが置かれております。組織的な形態で行われたと認定されますと、同法が定める加重の規定により、通常の詐欺罪よりも重い法定刑が適用されうるということです。
一度きりの受領行為であっても、それが高齢の被害者から多額の現金をだまし取る計画の最終工程を担うものであった場合、量刑上は軽微な関与とは評価されにくくなります。回数の少なさを述べるだけでは足りず、関与の期間、離脱の有無、実際に得た利得の額、被害弁償の可能性といった要素を併せて主張する必要がございます。
何を運ぶのか知らなかった、という説明は通るのでしょうか
それだけでは通りにくいものの、周辺の事実の積み上げによって評価が動く余地はございます。
捜査機関は、通常の労働と比べて不自然に高い報酬、身分証の提出を求められた経緯、指示の具体性、対面を避ける連絡方法といった事情を挙げて、少なくとも違法な仕事であると認識していたはずだと迫ってまいります。これに対して、勧誘を受けた経緯、報酬の額と支払方法、指示の内容がどこまで具体的であったか、途中で不審を抱いて確認や離脱を試みた形跡があるかといった事実を丁寧に拾い上げてまいりますと、故意の有無、共謀の射程、幇助にとどまるかどうかの評価は動きうるのです。
犯意そのものを否定しきれない場合であっても、離脱の意思を示していた経緯が量刑上の意味を持つ場面がございます。逆に、取調べの初期に不正確な供述を残してしまいますと、後からこれを覆すことは容易ではありません。
想定される刑事手続の流れ
逮捕後の72時間が、その後を大きく左右いたします。
逮捕されますと、警察の段階で48時間以内に検察官へ送致され、検察官は24時間以内に、引き続き身柄を拘束する手続である勾留を請求するかどうかを判断いたします。裁判官が勾留を認めますと、原則10日間、延長を含めて最大20日間、身柄を拘束されたまま取調べが続きます。組織的な事案では、被害者ごと、被害日ごとに逮捕と勾留が繰り返され、身柄の拘束が数か月に及ぶことも珍しくございません。
この72時間のうちに弁護人が接見に入り、供述をどう組み立てるか、何を語り何を語らないかを整理できるかどうかが、その後の見通しを大きく左右いたします。ご家族からご連絡をいただければ、当日中の接見にも対応いたします。
外国人事件特有のリスク(退去強制と在留資格)
量刑の分水嶺は、そのまま在留の帰趨に直結いたします。
入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由として定めており、全部執行猶予の言渡しを受けた者はここから除かれます。すなわち、末端であることを理由に刑期が短くなったとしても、1年を超える実刑となれば退去強制の対象となりえます。他方、全部執行猶予が付きますと、同号による退去強制の対象からは外れます。
入管法24条は、号ごとに構造が異なります。薬物事犯に関する4号チは、刑の軽重を問わず有罪判決を受けたこと自体で該当いたしますし、4号ロは不法残留、4号ハは資格外活動、4号ニは旅券法違反、4号ヌは不法就労助長等を対象といたします。当該事件がどの号に関わるのかを特定しないまま弁護方針を立てますと、刑事事件では望ましい結果を得ながら在留資格を失う、という事態が起こりえます。
したがって、末端だから軽いという漠然とした期待に寄りかかるのではなく、不起訴となるか、起訴された場合に全部執行猶予が付くか、実刑となる場合に刑期が1年を超えるか、という具体的な地点を目標に据えて弁護活動を設計する必要がございます。
不起訴処分の重要性
最優先の目標は、起訴そのものを避けることです。
執行猶予付きの判決を得て退去強制事由に該当しなかったとしても、それで在留が安泰になるわけではありません。在留期間の更新(入管法21条)や在留資格の変更(同法20条)の審査では、素行が善良であることが求められ、前科の存在は正面から評価の対象となります。退去強制事由に該当しないことと、更新が認められることは、別の問題なのです。
前科そのものを残さない唯一の道が、起訴前の段階における不起訴処分の獲得でございます。組織的な事案では、被害弁償や示談の可能性、関与の限定を示す客観資料、勧誘の経緯を示す記録を、検察官が処分を決める前に届けられるかどうかが結果を分けます。処分が決まってから動き始めたのでは、間に合いません。
初動対応で押さえたい3つのポイント
- 黙秘権を行使する。あいまいな記憶のまま調書に署名いたしますと、後から訂正することは容易ではありません。とりわけ共犯者の関与や自らの認識に関する部分は、弁護人と方針を確認してから話すべきです。
- 早期に弁護人を選任する。逮捕直後の72時間はご家族の面会が制限されますので、この時間に接見できる弁護人がいるかどうかが分かれ目になります。
- 通訳の質を確かめる。捜査機関が手配する通訳は、あくまで捜査のための通訳です。ニュアンスの取り違えが供述調書に残りますと、争点そのものが変わってしまいます。ご本人のために動く立場の通訳を確保することが重要です。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、中国籍の方をはじめとする外国人の刑事弁護と入管手続を、主たる注力分野といたしております。接見の初動から公判の結審まで松村大介弁護士が直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件専属の中国語通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、ご本人のために動く立場の通訳を刑事手続の全般でご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新や変更につきましても、提携の行政書士とともにワンストップで対応いたします。
特殊詐欺の出し子行為に関わったとされた20代の女性の事案では、指示役から欺罔的かつ脅迫的な状況に置かれていた経緯、犯意が存在しなかったことなどを総合的に主張し、不起訴処分を獲得いたしました(事例B-1)。
特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案では、徹底した取調べ対応と、不当な取調べに対する抗議を積み重ね、全ての事件について不起訴処分を獲得いたしました(事例B-2)。
また、国際的な刑事事件、裁判員裁判の対象事件、世界的に報道された事件についても対応の経験があり、中国籍の方の重大事件にも多数対応してまいりました(事例E-1)。
結語
末端の実行役であったという事情は、有利な出発点ではございますが、それ自体が結果を導くものではありません。役割の限定を示す客観資料を確保し、故意や共謀の射程について具体的に主張して初めて、量刑や処分に反映されてまいります。そして外国人の方にとって、その一歩の差が日本に残れるかどうかを分けます。本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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