日本での処分歴と次の入国 査証申請の前に確かめること
2026/09/03
帰国して何年か経ち、そろそろまた日本へ行けるだろうかと考えたとき、最初にぶつかるのが査証申請の書式です。過去の処罰歴や退去強制歴を尋ねる欄があり、そこで手が止まる。相談の入口は、たいていこの場面から始まります。
答え方を考える前に確かめるべきことが二つあります。ひとつは、自分が入管法5条1項のどの号に当たるのか。もうひとつは、その号に年限があるのかどうかです。この二点が定まらないまま書類を書き進めても、結果は変わりません。
出入国在留管理庁の令和7年の統計によると、入管法違反事件として退去強制手続又は出国命令手続を執った者は18,442人で、そのうちタイの方は3,600人、全体の19.5%でした。手続の内訳は退去強制手続が8,959人、出国命令手続が9,483人です。この二つの手続の違いが、後の年数を分けます。
まず、どの号に当たるかを特定する
結論として、上陸拒否は在留資格の審査とは別の関門であり、該当する号が特定できれば見通しの大半は立ちます。入管法5条1項は上陸を拒否される外国人を列挙しており、査証が発給されていても、この判断は空港の上陸審査で改めて行われます。
刑事処分や過去の手続に関係するのは、主に次の四つです。4号は1年以上の拘禁刑に処せられた者(政治犯罪により処せられた者を除く)、5号は薬物、9号は退去強制歴、9号の2は出国命令により出国した者です。
出国の形で年数が変わる
同じ帰国でも、退去強制と出国命令では上陸拒否期間がまったく違います。5条1項9号はイが1年、ロが5年、ハが10年と定めており、ハは過去に退去強制されたことがある者が再び退去強制された場合です。これに対して9号の2は、出国命令により出国した者を1年としています。
出国命令は入管法24条の3に定めがあり、速やかに出国する意思をもって自ら出頭したこと、不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと、過去に退去強制されたことも出国命令により出国したこともないこと、速やかに出国することが確実と見込まれることなどを要件とします。すでに日本を出た後では選び直せません。まだ日本にいる方にとって、この分岐は最も重い判断のひとつです。
査証申請で処分歴をどう扱うか
申告の場面で最も注意すべきなのは、事実と異なる記載をすることの副作用です。虚偽の申請により在留資格を取得したことは、入管法22条の4により在留資格取消しの事由とされています。入国できたとしても、後から取り消される道が残ってしまいます。
また、処分歴があるからといって、その一事で申請が受け付けられないわけではありません。上陸拒否事由に当たる場合には入管法12条1項の上陸特別許可があり、上陸拒否期間の短縮という運用もあります。同庁の令和7年の統計では、上陸拒否期間の短縮決定は340件でした。示すべきは弁明ではなく、家族関係や生活実態を裏付ける具体的な資料です。
薬物に関する処分だけは別枠になる
薬物については、5条1項5号に年限の定めがありません。罰金であっても、外国の法令違反であっても該当します。期間の経過という考え方が用意されていないため、再び入国する手段は12条1項の上陸特別許可に限られます。
在留中も同じく厳格です。入管法24条4号チは、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等に関する法令違反で有罪の判決を受けた者を退去強制事由とし、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当し、在留資格の別表を問いません。さらに24条の3の出国命令は4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことを要件とするため、薬物該当者は出国命令を選べません。
令和6年12月12日施行の改正により、大麻取締法は大麻草の栽培の規制に関する法律へ改称され、大麻は麻薬及び向精神薬取締法上の麻薬となりました。使用罪が新設され、麻向法66条の2は7年以下の拘禁刑を定めています。なお、エトミデート等の指定薬物は薬機法の規制であり、24条4号チの列挙罪名には当たりません。
刑事処分が在留資格にどう跳ね返るか
日本にいる間の在留資格も、刑事処分の内容によって左右されます。入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により全部執行猶予が付された場合は除外され、一部猶予でも実刑部分が1年以下であれば除外されます。
一方、24条の2は、強盗、不同意性交等、自動車運転死傷処罰法2条・6条1項の危険運転致死傷等の重大犯罪で拘禁刑に処せられた者のうち、別表第一の在留資格をもって在留する者を対象とします。技能実習、特定技能、留学などはここに含まれます。
刑事処分がなくても在留は動きます。入管法22条の4は、当該在留資格に応じた活動を3か月以上行わないで在留していることなどを取消事由としています。令和8年1月1日現在の不法残留者数は68,488人で、タイの方は10,907人でした。長期化した不法残留の背後には、こうした取消しや資格の失効が積み重なっている場合があります。
まだ日本にいる段階でできること
手続の中にいるうちは、選択肢が残っています。最も直接的なのは、刑事段階で不起訴処分を目指すことです。有罪判決に至らなければ、5条1項4号にも24条4号チにも乗りません。
- 供述調書の記載が記憶と違うときは、刑訴法198条4項の増減変更の申立てを行う。調書は違反審査や口頭審理の資料になる
- 収容令書により収容されている場合や監理措置決定を受けた場合は、入管法50条2項により在留特別許可を申請できる
- 退去強制令書が発付された後は同条3項により申請できないため、時期の管理が要になる
- 不許可の場合は同条10項により理由を付記した書面が交付される
入管法50条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間その他を考慮要素として法定しています。2024年6月改定のガイドラインが現行です。
よくある誤解
罰金なら記録に残らない、という理解は正確ではありません。薬物に関する罰金は24条4号チにも5条1項5号にも該当します。金額の問題ではありません。
上陸拒否期間が明ければ自動的に入国できる、という理解も同様です。期間の経過は前提条件のひとつにすぎず、査証審査と上陸審査はその後に行われます。刑法34条の2の刑の消滅は日本の刑事法上の効果であり、入管法の判断が自動的にこれに従うわけではありません。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。通訳については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しており、タイ語をはじめその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針として、執行猶予判決ではなお不十分であると考え、不起訴処分を得ることを最優先の目標としています。上陸拒否も退去強制も有罪判決を出発点とする仕組みだからです。刑事事件と入管手続は一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う余地を検討します。初回相談は無料。微信IDは matsumura1119 です。
おわりに
次の入国の可否は、書式の書き方より前に、どの号に当たるかで決まっています。年限のある号なのか、ない号なのか。日本を出たときの手続はどちらだったのか。この二つを確かめてから申請の準備に入るほうが、結果的に近道になります。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のタイ語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099399/
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