領事通報 逮捕されたことは本国の大使館に伝わるのか
2026/09/03
家族が日本で逮捕されたという知らせを受けたご親族から、真っ先に尋ねられることがあります。大使館には連絡が行くのですか、という質問です。逆に、本人からは、本国の家族や職場に知られたくないので大使館には知らせないでほしい、という希望が示されることもあります。
この二つの質問は、実は同じ制度の裏表です。日本には、外国人が身体を拘束されたときに本国の領事機関との連絡を保障する仕組みがあり、その仕組みは本人の意思を起点としています。この記事では、その仕組みの内容と限界、そして弁護人の役割との違いを説明します。
領事通報は本人の意思を起点とする
逮捕された事実が自動的に本国大使館へ通知されるとは限らず、通報は原則として本人の要請を前提に行われます。日本は領事関係に関するウィーン条約の当事国であり、同条約36条は、身体を拘束された外国人と本国領事機関との連絡について定めています。
具体的には、拘束された本人が要請したときは、接受国の当局は遅滞なくその旨を本国の領事機関に通報しなければならないとされています。あわせて、本人には、領事機関との連絡について権利があることを告げられます。ですから、通報してほしいかどうかは、まず本人が決める事柄だということになります。
条約36条が保障している中身
条約36条が保障しているのは、通報だけではありません。領事官には、拘束されている自国民を訪問し、面談し、通信し、そして法律上の代理人を斡旋する権利があるとされています。これがいわゆる領事接見です。
もっとも、同条は同時に、本人が明示的に反対する場合には、領事官はそのための行動を差し控えると定めています。つまり、通報も接見も、本人の意思に反して押し進められる仕組みにはなっていません。家族に知られたくないという希望がある方は、この点を弁護人にはっきり伝えておく必要があります。
領事館ができること、できないこと
領事館は、本人の安否を確認し、家族との連絡を仲介し、弁護士や通訳に関する情報を提供することができます。旅券の有効期限に関する手続や、帰国の際の渡航文書についても関与します。これらは、家族が国外にいる事案では実際に大きな助けになります。
他方で、領事館は日本の刑事手続の当事者ではありません。捜査に介入すること、身体拘束を解くこと、日本の裁判の結論を左右することはできません。また、領事館が弁護人になるわけでもありません。ここを取り違えると、待っているだけで時間が過ぎてしまいます。
弁護人との接見は、これとは別の制度である
弁護人または弁護人になろうとする者が、立会人なしで身体拘束を受けた本人と接見できることは、刑事訴訟法39条1項が定めています。領事接見とは根拠も内容も異なり、こちらは防御の準備のための制度です。
言語の壁がある事案では、通訳の確保が防御の前提になります。刑事訴訟法は175条と178条で通訳人および翻訳人に関する定めを置き、裁判所法74条は裁判所では日本語を用いると定めています。また、市民的及び政治的権利に関する国際規約14条3項は、理解する言語で罪の性質と理由を告げられること、無償で通訳の援助を受けることを定めています。最高裁判所の資料『あなたも法廷通訳を ごぞんじですか』の令和7年1月版によれば、令和5年に要通訳事件で終局した被告人は3,851人で、言語別ではベトナム語が40.4パーセントと最も多くなっています。通訳が必要な刑事事件は決して例外的な存在ではありません。
刑事処分が在留資格にどう跳ね返るか
領事通報をするかどうかにかかわらず、刑事処分の結果は在留資格に直結します。入管法24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により全部の執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予でも実際に服する部分が1年以下なら除外されます。
これに対し同条4号チは、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等に関する法令に違反して有罪の判決を受けた者を掲げ、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当し、在留資格の種類を問いません。さらに、刑事手続で作成された供述調書は、その後の入管の違反審査や口頭審理で資料として用いられます。取調べで何をどう述べるかは、刑事事件の見通しだけでなく、在留の見通しまで左右するということです。
本国での扱いは本国の法律が決める
領事機関に通報された事実や、日本の裁判所の判決が、本国でどのような法律上の効果を持つかは、本国の法制によって決まります。日本の弁護士がお答えできるのは、日本の手続で何が行われ、どの書類が作成されるかという範囲までです。本国での就職、出国、資格取得などへの影響については、本国の弁護士に確認していただく必要があります。
よくある誤解
- 逮捕されれば自動的に本国政府に通知される、という誤解。通報は本人の要請を前提とする仕組みです。
- 大使館に連絡すれば釈放してもらえる、という誤解。領事館は日本の刑事手続に介入する立場にありません。
- 領事館の職員が弁護してくれる、という誤解。防御活動を行うのは弁護人です。
- 通訳は自分で用意しなければならない、という誤解。刑事手続における通訳の確保は法制度として整えられています。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、ベトナム語をはじめとするその他の言語については、事案に応じて通訳人を手配します。
領事通報を希望されるかどうかは、ご本人の意向を確認したうえで方針を決めます。国外にいるご家族への連絡についても、ご本人の同意の範囲でお手伝いします。弁護方針としては、執行猶予判決ではなお不十分と考え、不起訴処分を得ることを最優先の目標とします。刑事事件と入管手続は一体として設計し、退去強制事由への該当性についても故意や過失の有無を争う視点で対応します。初回のご相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
おわりに
領事通報は、外国人が異国の刑事手続の中で孤立しないために置かれた仕組みです。使うかどうかを決めるのは本人であり、その判断には、通報によって何が動き、何は動かないのかという正確な情報が必要になります。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099383/
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