退去強制と出国命令はどう違うのか クメール語話者のために
2026/09/03
入管に出頭すると強制送還になる、という言い方と、自分から出頭すれば軽く済む、という言い方が同時に流れていることがあります。どちらも正確ではありません。日本の制度には、退去強制と出国命令という別々の仕組みがあり、要件も、身柄の扱いも、次に日本へ来られる時期も違います。
出入国在留管理庁の令和7年の公表では、退去強制手続又は出国命令手続が執られた方は18,442人で、内訳は退去強制手続8,959人、出国命令手続9,483人でした。国籍別ではカンボジアが520人です。二つの制度が実際にほぼ同じ規模で使われていることが分かります。
以下では、クメール語を母語とする方に向けて、この二つがどこで分かれるのかを条文に沿って整理します。
出国命令とはどのような制度か
出国命令は、不法残留の方が自ら出頭し、一定の要件を満たす場合に、収容されないまま出国できるようにする入管法24条の3の制度です。
要件は四つあります。速やかに出国する意思をもって自ら出頭したこと、不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと、過去に退去強制されたことも出国命令により出国したこともないこと、そして速やかに出国することが確実と見込まれることです。
このうち二つ目の要件は、条文では24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことという形で書かれています。薬物に関する事由は同条4号チに置かれているため、薬物事犯で有罪となった方は出国命令を利用できません。
退去強制との違いを整理する
退去強制は、違反調査、違反審査、口頭審理、法務大臣の裁決という手続を経て退去強制令書が発付され、その執行として送還が行われる仕組みです。
| 項目 | 出国命令 | 退去強制 |
|---|---|---|
| 根拠 | 入管法24条の3 | 入管法24条各号 |
| 対象 | 不法残留のみ。他の事由に当たらないこと | 24条各号の事由に該当する者 |
| 身柄 | 収容されないまま出国 | 収容令書による収容又は監理措置 |
| 上陸拒否期間 | 5条1項9号の2により1年 | 5条1項9号によりイ1年・ロ5年・ハ10年 |
身柄の面も違います。退去強制手続では、収容令書による収容か、監理人を付けて身体を拘束せずに進める監理措置のいずれかで扱われます。出入国在留管理庁によれば、制度が始まった令和6年6月10日から同年末までの監理措置の決定は1,123件で、監理人の9割以上は親族や知人が務めました。これに対して出国命令の手続では、収容されないまま出国することが前提になっています。
もっとも、出国命令であれば必ず早く帰れる、という単純な話ではありません。どちらの手続に乗るかは、本人の希望ではなく、退去強制事由の中身によって決まるからです。不法残留のほかに事由がある場合、出国命令の二つ目の要件で外れます。
刑事処分は在留資格にどう跳ね返るのか
刑事事件の結末は、刑の重さそのものよりも、入管法24条のどの号に当てはまるかという形で在留資格に跳ね返ります。
24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を挙げますが、但書があり、刑の全部の執行を猶予された場合は除かれます。一部猶予でも実刑部分が1年以下であれば同様です。
これに対し24条4号チは、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等に関する法令違反で有罪の判決を受けた者を対象とし、罰金でも執行猶予付きでも刑の免除でも該当します。4号リの柱書が、ニからチまでに掲げる者のほか、となっているため、薬物事犯は4号リの外にあります。また24条4号の2は、別表第一の在留資格で在留する方が、強盗、不同意性交等、危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条・6条1項)等で拘禁刑に処せられた場合を対象とします。
刑事処分を受けていなくても、不法就労助長行為をした方は24条3号の4により、行為そのもので退去強制事由に該当します。この場合も出国命令の二つ目の要件を満たさないことになります。
出国しない道は残っているか
退去強制事由に該当すると認定された後でも、法務大臣が在留を特別に許可する余地が入管法50条に置かれています。
2項により、収容令書で収容されている方と監理措置決定を受けた方に申請権があり、3項により退去強制令書の発付後は申請できません。5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間その他を考慮要素として法定し、不許可の場合は10項により理由を付記した書面が交付されます。運用の基準は2024年6月改定のガイドラインです。1項但書の加重要件の列挙に4号チは含まれていません。
次に日本へ来られる時期
二つの制度の最も分かりやすい違いは、上陸拒否期間に現れます。
出国命令によって出国した方は入管法5条1項9号の2により1年、退去強制を受けた方は同項9号によりイが1年、ロが5年、ハが10年です。ハは、過去に退去強制されたことがある方が再び退去強制された場合を指します。
ただし、薬物に関する同項5号には期間の定めがなく、罰金でも外国の法令違反でも足ります。この場合、期間の経過を待つ解決がないため、再入国は入管法12条1項の上陸特別許可によることになります。
よくある誤解
- 出頭すれば必ず出国命令になる、という理解。四つの要件をすべて満たす必要があります。
- 出国命令なら前科にならない、という理解。出国命令は入管手続であり、不法残留について刑事処分を受けるかどうかは別に判断されます。
- 執行猶予なら在留に影響しない、という理解。薬物事犯は24条4号チにより、罰金でも執行猶予でも該当します。
ご本人とご家族が取れる行動
刑事事件が並行しているときの出発点は、弁護人を選任し、接見を通じて事実関係を確認することです(刑事訴訟法39条1項)。
取調べでは同法198条2項により黙秘権が告知され、同条4項が供述調書の読み聞けと増減変更の申立てを定めています。刑事手続で作成された供述調書は、その後の違反審査や口頭審理の資料になるため、通訳を介した内容が自分の述べたことと違うと感じたときは、その場で訂正を求めてください。通訳・翻訳は同法175条・178条、一定の事件の録音録画は同法301条の2によります。領事関係に関するウィーン条約36条は領事通報と領事接見を保障しています。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。通訳体制については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しており、クメール語を含むその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針としては、執行猶予判決ではなお不十分であると考え、不起訴処分を得ることを最優先の目標に置いています。刑事事件と入管手続は一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う視点で検討します。初回のご相談は無料です。
まとめ
出国命令と退去強制の分かれ目は、出頭したかどうかではなく、どの退去強制事由に当たるかにあります。そして、その事由を決めるのは多くの場合、刑事事件の結論です。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事のクメール語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099363/
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