自費出国と国費送還の違い 送還費用は誰が負担するのか
2026/09/03
退去強制の手続が進んでいる方から、飛行機代は自分で払うのか、それとも国が出すのか、というご質問をいただくことがあります。費用の問題は生活に直結するため、日本で待つご家族にとっても切実です。
日本を離れる形は一つではありません。出国命令による出国と、退去強制令書による送還があり、後者の中にも自らの費用で出国する自費出国と、国の費用による送還があります。違いは費用の負担者だけではなく、その後いつ日本に来られるかにも及びます。
以下では、ベトナム語を母語とする方から実際に多いご相談を念頭に、費用の負担、制度の違い、そして刑事処分が在留資格に及ぼす影響を整理します。
出国のかたちは一つではない
日本を離れる形は、出国命令による出国と、退去強制令書による送還の二つに大きく分かれます。
出国命令は入管法24条の3の制度で、不法残留の方が自ら出頭し、一定の要件を満たす場合に、収容されないまま出国する仕組みです。退去強制令書による送還は、違反審査、口頭審理、法務大臣の裁決という手続を経て令書が発付され、その執行として行われます。
出入国在留管理庁の令和7年の公表によれば、退去強制手続又は出国命令手続が執られた方は18,442人で、国籍別ではベトナムが6,599人(35.8%)と最も多くなっています。退去強制事由の内訳は、不法残留17,031人(92.3%)、刑罰法令違反503人です。
自費出国と国費送還はどこが違うのか
違いは、旅費を誰が負担するか、そして送還の際に護送官が同行するかどうかにあります。
同じ令和7年の公表では、退去強制令書による送還7,563人の内訳は、自費出国6,677人、護送官が同行しない国費送還505人、護送官が同行する国費送還318人でした。国費送還は合わせて823人で、そのうち護送官が同行する318人はこれまでで最も多い数字です。これとは別に、出国命令によって出国した方が9,789人います。
自費出国では、本人やご家族が航空券を用意し、出国の日程を調整します。旅費を負担できない場合などに国費送還となりますが、国費送還は手続の完了と予算・護送体制の確保を待つ形になるため、収容が長くなりやすいという実務上の違いがあります。
出国命令を利用できるのはどんな場合か
出国命令は誰でも使えるわけではなく、入管法24条の3が定める要件をすべて満たす必要があります。
要件は、速やかに出国する意思をもって自ら出頭したこと、不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと、過去に退去強制されたことも出国命令により出国したこともないこと、そして速やかに出国することが確実と見込まれることです。
このうち退去強制事由の面では、24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことが求められます。薬物に関する事由は同条4号チに置かれているため、薬物事犯で有罪となった方は出国命令を利用できません。費用の問題よりも先に確認しておくべき分かれ目です。
刑事処分は在留資格にどう跳ね返るのか
刑事事件の結末は、刑の重さそのものよりも、入管法24条のどの号に当てはまるかという形で在留資格に跳ね返ります。
24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を挙げますが、但書により、刑の全部の執行を猶予された場合は除かれます。一部猶予でも実刑部分が1年以下であれば同様です。
これに対し24条4号チは、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等に関する法令違反で有罪の判決を受けた者を対象とし、罰金でも執行猶予付きでも刑の免除でも該当します。4号リの柱書が、ニからチまでに掲げる者のほか、となっているため、薬物事犯は4号リの外にあります。また24条4号の2は、別表第一の在留資格で在留する方が、強盗、不同意性交等、危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条・6条1項)等で拘禁刑に処せられた場合を対象とします。
なお大麻については、令和6年12月12日施行の改正により、大麻取締法が大麻草の栽培の規制に関する法律へ改称され、大麻は麻薬及び向精神薬取締法上の麻薬となりました。使用罪が新設され、単純所持の法定刑も引き上げられています。
送還までの身柄と、出国しない道
送還の時期が決まるまでの身柄は、収容令書による収容か、監理人を付ける監理措置のいずれかで扱われます。
入管法50条は在留特別許可を定め、2項により、収容令書で収容されている方と監理措置決定を受けた方に申請権があります。3項により退去強制令書の発付後は申請できないため、費用の相談より前に、そもそも出国しない道が残っていないかを検討する順序になります。5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間その他を考慮要素とし、不許可の場合は10項により理由を付記した書面が交付されます。
その後の上陸拒否期間はどう変わるか
費用の負担の仕方そのものよりも、どの手続で出国したかが、次に日本へ来られる時期を左右します。
出国命令によって出国した方は、入管法5条1項9号の2により上陸拒否期間が1年です。退去強制を受けた方は同項9号により、イが1年、ロが5年、ハが10年で、ハは過去に退去強制されたことがある方が再び退去強制された場合を指します。
薬物に関する同項5号には期間の定めがなく、罰金でも外国の法令違反でも足ります。この場合、再入国は入管法12条1項の上陸特別許可によることになります。
よくある誤解
- 国費送還のほうが得だ、という理解。費用は国が負担しますが、退去強制手続を最後まで経ることになり、収容が長引きやすくなります。
- 自分から出頭すれば出国命令になる、という理解。24条の3の要件をすべて満たす必要があり、薬物事犯に当たる方は使えません。
- 執行猶予なら在留に影響しない、という理解。薬物事犯は24条4号チにより、罰金でも執行猶予でも該当します。
ご本人とご家族が取れる行動
刑事事件が並行している場合の出発点は、弁護人を選任し、接見を通じて事実関係を確認することです(刑事訴訟法39条1項)。
取調べでは同法198条2項により黙秘権が告知され、同条4項が供述調書の読み聞けと増減変更の申立てを定めています。通訳を介した調書の内容が自分の述べたことと違うと感じたときは、その場で訂正を求めてください。刑事手続で作成された供述調書は、その後の違反審査や口頭審理の資料になるためです。通訳・翻訳は同法175条・178条、一定の事件の録音録画は同法301条の2によります。外国籍の方には、領事関係に関するウィーン条約36条による領事通報・領事接見の保障もあります。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。通訳体制については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しており、ベトナム語を含むその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針としては、執行猶予判決ではなお不十分であると考え、不起訴処分を得ることを最優先の目標に置いています。刑事事件と入管手続は一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う視点で検討します。初回のご相談は無料です。
最後に
費用の話は、自分がどの手続に乗っているかが定まって初めて意味を持ちます。出国命令、自費出国、国費送還のどれになるかは、退去強制事由の中身と手続の段階によって決まるからです。本記事は一般的な解説にとどまりますので、個別の事情については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099357/
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東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて行政事件に関する対応
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