強制送還までの流れと費用 ネパール語話者のための解説
2026/09/03
在留期間を過ぎてしまった方や、刑事事件で取調べを受けた方から、このままだと強制送還されるのかというご相談を受けます。ネパール語を母語とする方のご家族からは、いま自分たちが手続のどの段階にいるのか分からない、という声も届きます。
退去強制は、ある日突然航空機に乗せられる手続ではありません。出入国管理及び難民認定法(入管法)が定めた段階を一つずつ踏んで進むもので、段階ごとに取り得る手段が違います。
以下では、収容の扱い、送還費用の負担、再来日の可否、そして刑事処分が在留資格にどう跳ね返るのかを条文に沿って整理します。
手続の流れと身柄の扱い
退去強制手続は、入管法24条各号の事由に該当する疑いがあるという入国警備官の判断から始まり、違反調査、入国審査官の違反審査、特別審理官の口頭審理、法務大臣の裁決と進みます。
典型的な入口は24条4号ロの不法残留です。ほかに、専ら在留資格外の活動を行っていると明らかに認められる者を対象とする4号イ、不法就労助長行為をした者を対象とする3号の4があります。3号の4は行為そのもので該当し、刑事処罰は要件ではありません。
身柄については、収容令書による収容と、監理人を付けて身体を拘束せずに進める監理措置があります。出入国在留管理庁によれば、制度が始まった令和6年6月10日から同年末までの監理措置決定は1,123件(退去強制令書の発付前647件、発付後476件)で、監理人の9割以上は親族や知人でした。監理人になり得る方が日本におられるかどうかは、身柄の扱いを左右します。
刑事処分は在留資格にどう跳ね返るのか
刑事事件の結末は、刑の重さそのものよりも、入管法24条のどの号に当てはまるかという形で在留資格に跳ね返ります。
24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を挙げますが、但書があり、刑の全部の執行を猶予された場合は除かれます。一部猶予であっても、実刑となる部分が1年以下であれば同様です。執行猶予がついても一律に該当するという説明は、条文に合いません。
これに対して24条4号チは、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等に関する法令に違反して有罪の判決を受けた者を対象とし、罰金でも執行猶予付きでも刑の免除でも該当します。4号リの柱書が、ニからチまでに掲げる者のほか、という書き方であるため、薬物事犯は4号リの外に置かれている構造です。
また24条4号の2は、別表第一の在留資格で在留する方が、強盗、不同意性交等、危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条・6条1項)等で拘禁刑に処せられた場合を対象とします。
在留特別許可という出口
該当すると認定された後でも、法務大臣が在留を特別に許可する余地が入管法50条に置かれています。
2項により、収容令書で収容されている方と監理措置決定を受けた方に申請権があり、3項により退去強制令書の発付後は申請できません。5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間その他を考慮要素として法定し、不許可の場合は10項により理由を付記した書面が交付されます。運用の基準は2024年6月改定のガイドラインです。
なお、1項但書の加重要件の列挙に4号チは含まれていません。薬物事犯だから在留特別許可の道が初めから閉ざされる、という理解は正確ではありません。
送還の費用は誰が負担するのか
送還の旅費は原則として本人の負担であり、本人が負担できない場合などに国費で送還されます。
出入国在留管理庁の令和7年の公表では、退去強制令書による送還7,563人の内訳は、自らの費用で出国した方が6,677人、護送官が同行しない国費送還505人、護送官が同行する国費送還318人でした。これとは別に、出国命令によって出国した方が9,789人います。自費出国では航空券の手配をご家族が担うことが多くなります。
もう一度日本に来られるのか
再来日の可否は、入管法5条1項のどの上陸拒否事由に当たるかで変わります。
退去強制を受けた方については同項9号が上陸拒否期間を定め、イが1年、ロが5年、ハが10年です。ハは、過去に退去強制されたことがある方が再び退去強制された場合を指します。出国命令によって出国した方は、同項9号の2により1年です。
これに対し、薬物に関する同項5号には期間の定めがなく、日本の罰金刑でも外国の法令違反でも足ります。期間の経過を待つ解決がないため、再入国は入管法12条1項の上陸特別許可によります。ほかに、1年以上の拘禁刑に処せられた方を対象とする同項4号があります(政治犯罪を除く)。上陸拒否期間には、一定の場合に短縮の決定がされる仕組みもあります。
よくある誤解
- 執行猶予だから在留に影響はない、という理解。薬物事犯は24条4号チにより、罰金でも執行猶予でも該当します。
- 収容されたらそのまま送還される、という理解。違反審査、口頭審理、異議の申出、在留特別許可という段階が残っています。
- 自分から出頭すれば出国命令になる、という理解。24条の3は、速やかに出国する意思をもって自ら出頭したこと、不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと、過去に退去強制も出国命令による出国もしていないこと、速やかな出国が確実と見込まれることを要件とし、4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことも含みます。薬物事犯に当たる方は利用できません。
- 警察で話した内容は入管には関係ない、という理解。刑事手続で作成された供述調書は、その後の違反審査や口頭審理の資料になります。
ご本人とご家族が取れる行動
まず取るべき行動は、身柄が拘束された段階で弁護人を選任し、接見を通じて事実関係を確認することです。接見交通権は刑事訴訟法39条1項にあります。
取調べでは同法198条2項により黙秘権が告知され、同条4項が供述調書の読み聞けと増減変更の申立てを定めています。通訳を介した内容が自分の述べたことと違うと感じたときは、その場で訂正を求められます。通訳・翻訳は同法175条・178条、一定の事件の録音録画は同法301条の2によります。外国籍の方には、領事関係に関するウィーン条約36条による領事通報・領事接見、自由権規約14条3項(a)(f)による、罪の告知を理解する言語で受ける権利と通訳を無償で付される権利があります。
あわせて、住居地の届出(入管法19条の7から19条の10まで)と所属機関等の届出(19条の16・19条の17。14日以内)を怠っていないかも確認しておくとよいでしょう。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。通訳体制については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しており、ネパール語を含むその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針としては、執行猶予判決ではなお不十分であると考え、不起訴処分を得ることを最優先の目標に置いています。薬物事犯では有罪判決そのものが退去強制事由になり、刑の重さではなく有罪か否かが分かれ目になるからです。刑事事件と入管手続は一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う視点で検討します。初回のご相談は無料です。
おわりに
手続の流れを知ることは、悲観するためではなく、どの段階で何ができるかを見極めるためのものです。収容、違反審査、口頭審理の各段階で、残された選択肢は異なります。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事のネパール語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099355/
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