退去強制で終わりではない|在留特別許可の実際の流れ
2026/09/03
家族が入管に収容された、あるいは違反調査の呼出しを受けた。そう聞いた瞬間、日本での生活は終わったと感じる方が多いはずです。ただ、手続の実際はもう少し段階的です。
退去強制の手続には複数の分岐点があり、そのうちのひとつが在留特別許可です。どの段階でどの分岐に立っているのかが分かれば、いま何を準備すべきかも見えてきます。逆に、段階を取り違えると、間に合ったはずの準備が間に合わなくなります。
この記事は、在留特別許可を制度の説明としてではなく、手続の流れのなかでの位置づけとして整理するものです。
退去強制事由に該当しても、その場で結論が決まるわけではありません
退去強制事由に該当することと、実際に日本を出ることは別の段階です。入管法50条は、退去強制事由に該当すると判断された場合でも、法務大臣が個別事情を考慮して在留を認めることができると定めています。これが在留特別許可です。
つまり、違反が認定されたという事実は手続の終点ではなく、次の判断の入口にすぎません。取り違えて、何も主張せずに手続が進む例が少なくありません。
手続の流れのどこで判断されるのか
在留特別許可は、手続のいちばん最後で判断されます。流れは、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査、特別審理官の口頭審理、法務大臣の裁決という順です。
違反審査で退去強制事由に該当すると認定されると、口頭審理を請求できます。口頭審理でも同じ認定がされると、法務大臣に異議を申し出ることができ、その裁決のなかで在留特別許可を与えるかどうかが判断されます。前の段階で述べたことは次の段階に引き継がれます。
申請できる人と、申請できなくなる時点
申請権には範囲と期限があります。入管法50条2項は、収容令書により収容されている者と、監理措置決定を受けた者に申請権を認めています。一方、50条3項により、退去強制令書が発付された後は申請できません。
また50条5項は、考慮要素として、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間、その他の事情を挙げています。50条10項により、許可しないときは理由を付した書面が交付されます。運用基準としては、2024年6月に改定された在留特別許可に係るガイドラインがあります。
令和7年の数字が示す実際
統計を見ると、在留特別許可は例外ではあるものの、現実に機能している制度です。出入国在留管理庁の令和7年の統計では、在留特別許可の申請2,424件に対し、許可1,026件、不許可1,233件、終止119件でした。
同じ年、退去強制手続又は出国命令手続を執った入管法違反事件は18,442人で、うち退去強制手続が8,959人、出国命令手続が9,483人です。退去強制事由の内訳は不法残留が17,031人で92.3パーセントを占め、刑罰法令違反は503人でした。多くは不法残留であり、そこには主張すべき事情がしばしば存在します。
出国命令という別の道もあります
不法残留のみで、自ら出頭した方の場合には、出国命令という手続が用意されています。入管法24条の3は、速やかに出国する意思をもって自ら出頭したこと、不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと、過去に退去強制されたことや出国命令により出国したことがないこと、速やかに出国することが確実と見込まれることなどを要件としています。
ここで重要なのが再入国への影響です。入管法5条1項9号は、退去強制歴による上陸拒否期間を、初回は5年、過去に退去強制歴がある場合は10年と定め、同項9号の2は、出国命令により出国した者の上陸拒否期間を1年としています。日本に戻る可能性を残すという観点からは、この差は小さくありません。ただし、24条の3の要件のひとつが4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことであるため、薬物事件で該当する方は出国命令を使えません。
刑事処分が在留と再入国に跳ね返ります
刑事事件の結論は、退去強制事由の判断にも、将来の再入国にも直結します。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により全部執行猶予が付された場合は除かれ、一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除かれます。
他方、24条4号チは、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等に関する法令違反で有罪の判決を受けた者を掲げ、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。さらに入管法5条1項5号は、薬物に関する上陸拒否について年限を定めていません。期間の経過による回復がなく、再入国は12条1項の上陸特別許可によるほかありません。薬物事件の重みは、刑の重さだけでは測れないということです。
ご家族が実際に取れる行動
- いまどの段階にいるのかを確認する。違反審査か、口頭審理か、裁決を待つ段階か
- 収容されている場合、監理措置への移行を検討する。監理措置決定を受けた方にも申請権があります
- 家族関係の実体を示す資料を、通知を待たずに集め始める
- 刑事事件が並行しているときは、供述の内容を弁護人と確認する
- 受け取った通知や決定書は原本を保管し、日付を記録しておく
よくある誤解
第一に、収容されたらもう手続は終わりだという理解。収容令書による収容は、むしろ申請権が生じる場面です。
第二に、いったん帰国してから呼び寄せればよいという理解。退去強制を受けると上陸拒否期間が生じ、薬物の場合は年限の定めがありません。出国の仕方によって将来が変わります。
第三に、在留特別許可は前例のない特別な扱いだという理解。令和7年には1,026件の許可が出ています。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。外国人事件については中国語の専属通訳が常駐しており、その他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
刑事事件では、執行猶予判決ではなお不十分であると考え、不起訴処分を最優先の目標とします。刑事の供述調書が違反審査調書や口頭審理調書の前提資料になるため、刑事事件と入管手続を一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う視点で対応します。初回相談は無料で、微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
おわりに
手続には順番があり、段階ごとに固有の締切があります。いま立っている場所を正確に知ることが、次の一手を決めます。本記事は一般的な解説にとどまりますので、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のタガログ語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099341/
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