刑事事件の供述調書が在留特別許可の判断資料になる理由
2026/09/03
取調べの最後に、読み上げられた書面へ署名を求められる場面があります。内容がよく分からないまま、早く終わってほしい一心で押印してしまった、という相談は珍しくありません。
その一枚は、刑事事件の中だけで役目を終えません。刑事処分が確定した後、入管の手続に入ったときに、同じ供述が判断の出発点として再び現れます。在留特別許可を求める段階になって、当時の一言が重くのしかかることがあるのです。
この記事では、供述調書がどのような経路で入管手続に持ち越されるのか、通訳を介した供述にどんなずれが生じやすいのか、そして署名の前に何を確認できるのかを整理します。
供述調書は刑事事件のなかだけで完結しません
刑事手続で作成された供述調書は、その後の入管手続でも事実認定の土台として扱われます。刑事事件と退去強制手続は制度上は別ですが、扱う事実は同じだからです。
たとえば、いつ日本に来たのか、どの時点で在留期間が切れたのか、誰にどう頼まれてその行為をしたのか。これらはいずれも刑事の争点であると同時に、退去強制事由の該当性や在留特別許可の判断にも直結する事実です。刑事段階で固まった説明を、後から入管手続で覆すのは容易ではありません。
入管手続でも調書が作られます
退去強制手続では、段階ごとに別の調書が作成されます。入国審査官による違反審査では違反審査調書が、特別審理官による口頭審理では口頭審理調書が作られ、いずれも法務大臣の裁決の資料になります。
これらの調書は、白紙から作られるわけではありません。捜査記録や刑事の判決内容を踏まえて質問が組み立てられます。したがって、刑事段階の供述と入管段階の供述が食い違えば、その食い違い自体が不利に評価されかねません。一貫した説明を最初から用意しておく必要があります。
刑事の調書が入管の判断に効く理由
入管法50条5項が考慮要素として素行や在留するに至った経緯を挙げているためです。素行の評価は判決文だけでなく、事実関係の詳細から立ち上がります。
たとえば、関与の程度が主導的だったのか従属的だったのか、動機に酌むべき事情があったのか、被害弁償や反省の状況はどうか。これらは調書の記載を通じて伝わります。逆に言えば、実際より重い役割を認めるような表現が調書に残ってしまうと、その後の在留判断でも重い役割を前提に評価されます。
通訳を介した供述には固有のずれが生じます
言語をまたぐ供述は、ニュアンスの脱落や語の置き換えが避けられません。最高裁の資料『あなたも法廷通訳を ごぞんじですか』令和7年1月版によれば、令和5年の要通訳事件の終局被告人は3,851人で、言語別ではベトナム語が40.4パーセント、中国語が16.1パーセントを占めています。通訳を介する事件は例外ではなく、日常的に生じています。
刑訴法175条と178条は通訳と翻訳について定め、刑法171条は虚偽の通訳を処罰しています。また自由権規約14条3項は、罪の告知を理解できる言語で受ける権利と、通訳を無償で付される権利を定めています。裁判所法74条により裁判では日本語が用いられますから、通訳の正確性は手続の根幹に関わります。
署名の前に確認できること
調書は、読み聞かせを受けたうえで、内容が違えば訂正を申し立ててから署名するものです。刑訴法198条4項は、供述調書の読み聞けと、増減変更の申立てができることを定めています。
あわせて、刑訴法198条2項は取調べにあたり供述を拒むことができる旨の告知を定めており、301条の2は一定の事件で取調べの録音録画を求めています。そして刑訴法39条1項により、身体を拘束されていても弁護人と立会人なしで面会できます。分からないまま署名するより、面会の機会を先に使うほうが安全です。
刑事処分は在留資格に跳ね返ります
調書に残った事実は、退去強制事由の判断にそのまま影響します。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により全部執行猶予が付された場合は除かれます。一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除かれます。
他方、24条4号チは、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等に関する法令違反で有罪の判決を受けた者を掲げ、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当し、在留資格の種類も問いません。量刑の見通しだけでなく、どの罪名でどの事実を認めるのかが、在留の帰趨を分けます。
ご本人・ご家族ができること
- 取調べで内容が分からないときは、署名せずに弁護人と話したいと伝える
- 読み聞かせの際、事実と違う部分は具体的に指摘し、訂正を申し立てる
- 通訳の訳が理解できないときは、その場でその旨を述べる
- 家族は、面会や差入れの記録、生活状況の資料を早い段階から整える
- 刑事の弁護人に、入管手続への影響を意識した弁護を依頼する
よくある誤解
第一に、調書は刑事裁判が終われば効力を失うという理解。実際には入管手続で参照され続けます。
第二に、認めたほうが早く帰れるという理解。事実と異なる自白は、在留特別許可の判断でも不利に働き、結果として日本に残る道を狭めます。
第三に、通訳がいれば内容は正確に伝わるという理解。通訳人の能力の問題ではなく、言語間の構造の違いから生じるずれがあります。だからこそ確認の手続が用意されています。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。外国人事件については中国語の専属通訳が常駐しており、その他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
執行猶予判決ではなお不十分と考え、不起訴処分を最優先の目標として活動します。刑事段階の調書がそのまま入管手続の前提になるという構造を踏まえ、供述の内容と表現を早い段階から検討し、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う視点を持ちます。初回相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
おわりに
調書に書かれた一文は、後から書き換えることができません。だからこそ、書かれる前の時間に価値があります。本記事は一般的な解説ですので、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099339/
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