退去強制手続の流れ 違反調査から退去強制令書の発付まで
2026/09/03
入管の手続で最もつらいのは、次に何が起きるのかが分からないまま日が過ぎることだと、多くの方がおっしゃいます。退去強制手続には決まった順序があり、それぞれの段階で誰が何を判断するのかも決まっています。順序を知ることは、それだけで見通しを取り戻す作業になります。
この記事では、違反調査から退去強制令書の発付と送還までを段階ごとにたどり、各段階で本人とご家族に何ができるのかを整理します。ベトナム国籍の方からのご相談を念頭に置いていますが、手続の流れ自体はどの国籍の方にも共通です。
手続全体の見取り図
退去強制手続は、大きく六つの段階を順に進みます。違反調査、収容または監理措置、入国審査官による違反審査、特別審理官による口頭審理、法務大臣への異議の申出と裁決、そして退去強制令書の発付と送還です。
| 段階 | 担当 | 本人ができること |
|---|---|---|
| 違反調査 | 入国警備官 | 事実関係の確認、資料の準備 |
| 収容または監理措置 | 入管当局 | 監理人の確保、在留特別許可の申請 |
| 違反審査 | 入国審査官 | 認定に対する口頭審理の請求 |
| 口頭審理 | 特別審理官 | 在留を希望する事情の主張と立証 |
| 異議の申出と裁決 | 法務大臣 | 在留特別許可の主張 |
| 令書発付と送還 | 入管当局 | 送還先や時期に関する事情の申立て |
違反調査で何が調べられるか
違反調査では、退去強制事由に当たる事実があるかどうかが調べられます。中心になるのは、いつ入国し、どの在留資格でどれだけの期間在留し、どのような活動をしていたのかという経過です。出入国管理及び難民認定法24条の各号のどれに当たるかによって、その後の選択肢が大きく変わります。
たとえば同条4号ロは在留期間を経過して在留する者を、4号イは専ら在留資格外の活動を行っていると明らかに認められる者を、4号チは薬物に関する法令違反で有罪判決を受けた者を、それぞれ退去強制事由としています。どの号に当たるかは、事実の評価によって変わり得るため、この段階から争う余地があります。
収容と監理措置
調査の結果によっては収容令書による収容が行われますが、近年は監理措置という仕組みが用いられています。出入国在留管理庁の資料によれば、令和6年6月10日から同年末までの監理措置の決定は1,123件で、退去強制令書発付前が647件、発付後が476件でした。監理人の9割以上が親族または知人であり、この期間の所在不明者はゼロとされています。
この段階で重要なのは、同法50条2項が、収容令書により収容されている者および監理措置決定を受けた者に在留特別許可の申請権を認めていることです。監理人となってくれる方を早く見つけることが、その後の選択肢を広げます。
違反審査と口頭審理
違反調査の後、入国審査官による違反審査が行われ、退去強制事由に該当するかどうかが認定されます。この認定に納得できない場合、特別審理官による口頭審理を請求することができます。
口頭審理は、本人が自分の言葉で事情を述べられる数少ない機会です。ここでは、退去強制事由に該当しないという主張と、該当するとしても在留を認めるべきだという主張の二つがあり得ます。後者を述べる場合には、同法50条5項が定める考慮要素、すなわち在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間などに沿って、資料とともに述べることが有効です。
異議の申出と在留特別許可
口頭審理の判定にも納得できない場合、法務大臣に対して異議を申し出ることができます。この裁決の場面で在留特別許可が検討されます。同法50条1項の但書には加重要件の列挙がありますが、そこに4号チは含まれていません。つまり、薬物該当者について、無期または1年を超える実刑でなければ加重要件は課されない構造になっています。
不許可となった場合には、同条10項により理由を付記した書面が交付されます。判断の基準としては2024年6月に改定された在留特別許可に係るガイドラインが現行のものです。なお同条3項により、退去強制令書が発付された後は在留特別許可の申請ができません。
令書の発付と送還
在留特別許可が得られなかった場合、退去強制令書が発付され、送還の段階に入ります。出入国在留管理庁の統計によれば、令和7年の退去強制令書による送還は7,563人で、その内訳は自費出国6,677人、護送官の同行がない国費送還505人、護送官が同行する国費送還318人でした。これとは別に、出国命令による出国が9,789人ありました。
送還の段階でも、旅券の有効性、健康状態、家族の事情など、時期や方法に関する事情を申し立てる余地があります。
刑事手続との関係
刑事手続が並行している場合、両者は別の手続でありながら、資料の面でつながっています。刑事の取調べで作られた供述調書は、違反調査や口頭審理でも読まれます。取調べで述べた在留の経緯や就労の実態が、そのまま入管手続の判断材料になるのです。
刑事処分の内容も直結します。同法24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、同号の但書により全部執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予でも実刑部分が1年以下であれば除外されます。これに対して4号チは、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。
よくある誤解
収容されたらもう終わりだ、という理解は正確ではありません。同法50条2項により、収容令書による収容中および監理措置中は在留特別許可の申請権があります。終わりに近いのは、むしろ退去強制令書が発付された後です。
また、口頭審理は形式的なものだから何を言っても同じだ、という理解も誤りです。同条5項の考慮要素に沿った主張と資料が、裁決の段階で読まれます。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が面会と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、ベトナム語を含むその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針としては、刑事事件が併存する場合、執行猶予判決ではなお不十分であるという前提に立ち、不起訴処分を最優先の目標とします。刑事の供述調書が入管の違反審査や口頭審理の資料となる以上、刑事事件と入管手続を一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う視点を持っています。初回相談は無料です。微信のIDはmatsumura1119です。
おわりに
段階ごとに、できることとできないことが変わります。今どの段階にいるのかを確かめること。それが最初の一歩です。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099329/
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