舟渡国際法律事務所

署名押印の前に供述調書を読む 刑事訴訟法198条4項が与えるもの

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署名押印の前に供述調書を読む 刑事訴訟法198条4項が与えるもの

署名押印の前に供述調書を読む 刑事訴訟法198条4項が与えるもの

2026/09/03

取調べの最後に、担当官が書き上げた紙を読み上げ、ここに名前を書いて指で押してくださいと言われる。日本の刑事手続で毎日繰り返されているこの場面には、実は法律が用意した停止ボタンがついています。刑事訴訟法198条4項です。

この記事は、その停止ボタンが何を保障しているのか、通訳を介して読み聞けを受けるときに何に気をつければよいのか、そして署名した調書がのちに在留資格の場面でどう使われるのかを、順を追って説明するものです。フィリピノ語を母語とする方から寄せられるご相談を念頭に置いています。

198条4項が保障しているもの

刑事訴訟法198条4項は、供述調書を被疑者に閲覧させ、または読み聞かせて誤りがないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立てをしたときは、その供述を調書に記載しなければならないと定めています。つまり、読んでもらう権利、誤りを指摘する権利、指摘した内容を書き加えてもらう権利の三つがひとつの条文に収まっています。

同条5項は、被疑者が調書に誤りがないと申し立てたときに署名押印を求めることができるとしつつ、被疑者がこれを拒絶した場合はこの限りでないという構造をとっています。署名押印は、被疑者の側が最後に判断する事柄です。あわせて同条2項は、取調べに際して自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならないと定めており、そもそも供述しないという選択も残されています。

読み聞けの場面で実際に何が起きるか

読み聞けは、多くの場合、長い一日の終わりに行われます。疲労と早く終わらせたい気持ちが重なり、内容の確認がおろそかになりやすい場面です。しかし、この数分間で確定した文言が、その後の手続を通じて繰り返し引用されます。

確認すべき点は決まっています。第一に、自分が使った表現がそのまま残っているか。第二に、程度を表す言葉が強められていないか。少し手を触れたという趣旨が強く押したという表現になっていないか、といった点です。第三に、自分が述べていない動機や認識が補われていないか。第四に、日付や場所、金額に誤りがないか。この四点だけでも、その場で確認する価値があります。

署名押印を拒むことはできるか

署名押印を拒むことはできます。拒否したこと自体が犯罪になるわけではなく、罪を認めていないという評価に直結するわけでもありません。訂正を求めたのに応じてもらえなかった、通訳を介した読み聞けで理解できなかった、という理由で保留することは正当です。

実務上は、署名押印を拒むだけでなく、なぜ拒むのかを述べておくことが有用です。ここが違う、この言葉は自分の言い方ではない、と具体的に述べれば、その内容自体が198条4項の増減変更の申立てとして調書に記載されるべきものになります。弁護人がいれば、その日のうちに接見して経緯を記録に残すことができます。刑事訴訟法39条1項は、身体を拘束された被疑者が弁護人と立会人なしに面会することを保障しています。

通訳を介する調書の危うさ

通訳を介した読み聞けでは、日本語で書かれた調書がその場でフィリピノ語に訳して読み上げられます。訳し戻しの過程で微妙な差が生じても、紙に残るのは日本語のほうです。ここに構造的な危うさがあります。

刑事訴訟法175条は国語に通じない者に陳述をさせる場合に通訳人に通訳をさせることを、178条は国語でない文字や符号を翻訳させることを定めています。刑法171条は虚偽の通訳をした者を処罰する規定を置いており、通訳人にも法的責任があります。また、裁判員裁判対象事件など一定の事件では刑事訴訟法301条の2により取調べの録音録画が義務づけられており、録画がある事件では読み聞けの様子を後から検証できます。

最高裁判所の広報資料『あなたも法廷通訳を ごぞんじですか』令和7年1月版によれば、令和5年に通訳を必要とした事件で終局した被告人は3,851人で、そのうちフィリピノ語は6.2パーセントを占めました。数としては上位ですが、担当できる通訳人の数には限りがあり、同じ通訳人が長く関与することも珍しくありません。

署名した調書は在留資格に跳ね返る

供述調書は刑事手続の中だけで完結しません。退去強制手続の違反調査や口頭審理でも読まれるため、署名した一枚が在留資格の判断材料になります。

出入国管理及び難民認定法24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、同号の但書により全部執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予の場合も実刑部分が1年以下であれば除外されます。これに対して同条4号チは、麻薬、大麻、あへん、覚醒剤等に関する法令に違反して有罪の判決を受けた者を対象とし、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。在留資格の種類も問いません。さらに同法5条1項5号の上陸拒否には年限の定めがなく、期間の経過による回復がありません。

退去強制事由に該当したときの在留特別許可は同法50条が定めており、5項は在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間などを考慮要素としています。取調べで家族や就労について述べた内容が、この判断の土台になります。刑事処分に至らない場合でも、同法22条の4により在留資格が取り消されることがあります。

よくある誤解

署名しなければ調書は使われないという理解は正確ではありません。署名押印のない調書も捜査の記録としては残り、取調べ官の記憶や報告書を通じて事実上の影響を及ぼすことがあります。だからこそ、拒むだけでなく、どこがどう違うのかを述べておくことが大切です。

また、認めれば早く終わるという説明を信じてしまう方がいます。令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28パーセントで、全体の40.38パーセントより高くなっています。起訴されない結果を得るには、初期の供述の内容が大きく影響します。楽に終わらせるための署名が、結果として長い手続を招くことがあるのです。

当事務所の対応

舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、フィリピノ語を含むその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。

弁護方針としては、執行猶予判決ではなお不十分であるという前提に立ち、不起訴処分を最優先の目標とします。刑事の供述調書が入管の違反審査や口頭審理の資料となる以上、刑事事件と入管手続を一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う視点を持っています。初回相談は無料です。微信のIDはmatsumura1119です。

おわりに

紙に押した指印は、あとから消せません。読み上げられた内容に納得できないまま手を動かさないこと。それが198条4項の趣旨に沿った振る舞いです。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119

この記事のタガログ語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099319/

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