タイ語の法廷通訳|要通訳事件7.3%という位置と期日の現実
2026/09/03
数字から入ります。最高裁判所の広報資料『あなたも法廷通訳を ごぞんじですか』(令和7年1月版)によれば、令和5年に終局した要通訳事件の被告人は3,851人で、言語別ではベトナム語40.4パーセント、中国語16.1パーセントに次いで、タイ語が7.3パーセントで第3位です。
この7.3パーセントという数字は、二つの意味を持ちます。ひとつは、タイ語の刑事事件が日本の裁判所にとって珍しくないということ。もうひとつは、上位2言語との差が大きく、通訳人の層の厚さが同じではないということです。後者は、期日がいつ入るのか、身柄がいつまで続くのかという、当事者にとって最も切実な部分に直結します。
この記事では、通訳人の確保という実務上の制約が、手続の進み方をどう左右するのかを説明し、そのうえで在留資格への影響までを整理します。
通訳人の確保が、期日の入り方を左右する
要通訳事件では、裁判所と検察官と弁護人の予定に加えて、通訳人の予定が期日指定の要素になります。
裁判所法74条は、裁判所では日本語を用いると定めています。そのうえで刑事訴訟法175条は、国語に通じない者に陳述をさせる場合には通訳人に通訳をさせなければならないと定めています。通訳人がいなければ審理は進みません。したがって、通訳人の都合が合わない場合、期日は先に延びます。
最高裁判所の通訳人候補者名簿には、平成29年4月時点で62言語3,823人が登載されていました。全体としては相当な規模ですが、言語ごとの内訳は一様ではなく、地域による偏りもあります。地方の裁判所で審理される事件では、遠方から通訳人に来てもらう必要が生じることもあります。
期日が延びることの、身柄への意味
審理の間隔が空けば、身体拘束が長引く可能性があります。
これは当事者にとって最も重い問題です。仕事を失う、家族の生活が立ち行かなくなる、在留期間が経過してしまうといった二次的な影響が、時間とともに積み上がります。だからこそ、通訳の確保に時間がかかりそうな事件では、早い段階から保釈や勾留に関する対応を並行して進める必要があります。
また、勾留の理由に納得できない場合には、刑事訴訟法82条以下の勾留理由開示という手続もあります。この手続にも通訳人が必要になります。
裁判員裁判では、通訳の負担がさらに重い
裁判員裁判は連日的に開かれるため、通訳人の負担が集中します。
前掲の最高裁判所の資料によれば、令和5年の裁判員裁判の被告人807人のうち98人に通訳人が付きました。連続して開廷される手続で長時間の通訳を行うことは容易ではなく、複数の通訳人が交代で担当することもあります。交代がある場合、訳語の統一が課題になります。事件で繰り返し出てくる用語については、あらかじめ弁護人と確認しておくことが有効です。
タイ国籍の方に関わる入管手続の全体像
刑事事件と並行して、入管手続が動くことがあります。
出入国在留管理庁の統計によれば、令和7年に退去強制手続又は出国命令手続が執られた入管法違反事件の対象者は18,442人で、国籍別ではベトナム6,599人(35.8パーセント)に次いでタイが3,600人(19.5パーセント)と第2位でした。内訳は退去強制手続8,959人、出国命令手続9,483人です。退去強制事由別では不法残留が17,031人(92.3パーセント)を占めます。
出国命令は、入管法24条の3が定める制度です。速やかに出国する意思をもって自ら出頭したこと、不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと、過去に退去強制されたことや出国命令により出国したことがないこと、速やかに出国することが確実と見込まれることなどが要件です。また、4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことが要件のひとつであるため、薬物事案では利用できません。
出国命令により出国した場合、入管法5条1項9号の2により上陸拒否期間は1年です。他方、退去強制の場合は同項9号により、イが1年、ロが5年、ハが10年と定められています。この差は大きく、手続の選択は将来の再入国に直結します。
刑事処分が在留資格に跳ね返る仕組み
刑事事件の結論は、在留資格の判断に直接持ち込まれます。
入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書があり、全部執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予の場合も実刑部分が1年以下なら除外されます。
これに対して、同条4号チは薬物犯罪について有罪の判決を受けた者を挙げており、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。在留資格の種類も問いません。さらに、入管法5条1項5号の薬物に関する上陸拒否事由には年限の定めがなく、期間の定めのない上陸拒否となります。再入国の可能性は同法12条1項の上陸特別許可に限られます。
よくある誤解
- 通訳人が見つからなければ釈放される、というのは誤りです。手続は進み、期日が先に延びるだけです。
- 通訳が入るから審理は必ず長引く、とも限りません。準備の仕方で差が出ます。
- 自分から出頭すれば必ず出国命令になる、とは言えません。24条の3の要件を満たす必要があります。
- 執行猶予なら在留に影響しない、とは限りません。薬物事件は入管法24条4号チにより該当します。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。要通訳事件では、審理の見通しと身柄の見通しを同時に立てることが重要になるため、早い段階で全体の日程感を共有します。
通訳体制については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しており、その他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針としては、執行猶予判決ではなお不十分であると考え、不起訴処分を最優先の目標とします。刑事の供述調書が違反審査や口頭審理の資料になるため、刑事事件と入管手続を一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意・過失を含めて争う余地を検討します。初回相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
読み終えたあとに
7.3パーセントという数字の背後には、通訳人の数と地域の偏りという現実があります。制約を前提に段取りを組めるかどうかが、待つ時間の長さを変えます。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事のタイ語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099311/
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