取調べの通訳は誰のための通訳か 捜査段階と法廷で異なる仕組み
2026/09/03
取調室には、捜査官と自分のほかにもう一人、通訳人が座っています。この人は誰の側に立っているのか。日本語での取調べを受けた外国人の方から、後になってこの質問を受けることがよくあります。
答えは制度の建て付けを知らなければ出てきません。本記事では、捜査段階の通訳人と法廷通訳人がどう違うのか、通訳を介した供述調書には何が残るのか、弁護人が別に通訳を確保することにどのような意味があるのか、そして誤訳が疑われるときに何ができるのかを、条文に沿って整理します。
取調べの通訳人は、捜査機関が手配する
結論から言えば、捜査段階の取調べに立ち会う通訳人は、捜査機関が選び、その費用も捜査機関が負担します。通訳人には正確に訳すことが求められますが、被疑者の代理人ではありませんし、弁護人が選んだ人でもありません。取調べの内容を弁護人に伝える役割を負っているわけでもありません。
この点を誤解して、通訳人に相談すれば助けてもらえると考えてしまう方がいます。通訳人は言語を移す役割に限られており、法的な助言をする立場にはありません。
通訳を介した供述調書には、日本語だけが残る
供述調書は日本語で作成されます。刑事訴訟法198条2項は、取調べに際して自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならないと定めており、同条4項は、供述調書を被疑者に読み聞かせ又は閲覧させ、誤りがないかを問い、増減変更の申立てがあればこれを調書に記載しなければならないと定めています。
実務上の問題は、通訳を介する場合、読み聞けもまた通訳を通じて行われるという点です。細かなニュアンスが落ちても気づきにくく、内容に納得できないまま署名してしまう例があります。違うと感じたときは、その場で増減変更を申し立てることができます。一定の事件については、刑事訴訟法301条の2により取調べの録音録画が行われ、後に通訳の内容を確認できる場合があります。
弁護人が別に通訳を確保する意味
弁護人との接見は、取調べとは別の場面です。刑事訴訟法39条1項は、身体の拘束を受けている被疑者が立会人なくして弁護人と接見できることを定めています。ここで用いる通訳は弁護人が手配し、通訳人は弁護人の補助者として守秘の枠内で動きます。捜査機関の通訳人とは立場が異なります。
費用面では、日本司法支援センター(法テラス)の基準として接見通訳料が定められており、30分以内が8,380円、以降10分ごとに1,047円とされています。私選の場合には弁護人が通訳人を確保します。なお、領事関係に関するウィーン条約36条は、身体を拘束された外国人が本国の領事機関に通報を求め、領事官と連絡し面会する権利を定めています。自由権規約14条3項(a)(f)も、罪の性質と理由を理解する言語で告げられる権利と、通訳の援助を無償で受ける権利を定めています。
法廷通訳は、捜査段階とは別の制度である
公判に入ると仕組みが変わります。裁判所法74条は裁判所では日本語を用いると定め、刑事訴訟法175条は国語に通じない者に陳述をさせる場合に通訳人に通訳をさせると定め、178条は国語でない文字又は符号の翻訳について定めています。法廷通訳人は裁判所が選任します。
最高裁判所の『あなたも法廷通訳を ごぞんじですか』(令和7年1月版)によれば、令和5年に通訳を要する事件で終局した被告人は3,851人で、言語別ではベトナム語が40.4%と最も多く、中国語16.1%、タイ語7.3%と続きます。同じ年の裁判員裁判では被告人807人のうち98人に通訳人が付きました。通訳を要する裁判は例外ではなく、日常的に行われています。
誤訳が疑われるときにできること
通訳の正確性に疑いがあるときは、放置せずに記録に残すことが重要です。取調べの段階であれば、増減変更の申立てを行い、録音録画の対象事件であればその記録の存在を前提に主張を組み立てます。公判段階では、通訳人の交代を求める、通訳の正確性について立証を行う、といった対応があります。
なお、刑法171条は、宣誓した通訳人が虚偽の通訳をした場合を処罰の対象としています。これは意図的な虚偽の場合の規定であり、能力不足による誤訳とは区別されますが、通訳の正確性が法的に保護されるべきものであることを示しています。
供述調書は、入管手続でも使われる
通訳の正確性が重要なのは、刑事事件の結論のためだけではありません。捜査段階で作成された供述調書は、その後の違反審査や口頭審理の資料として用いられます。事実と異なる内容が残れば、退去強制事由の判断にも影響します。
入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により全部執行猶予が付された場合は除かれます。他方、薬物に関する法令違反は同法24条4号チに該当し、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも退去強制事由となります。どの事実をどう述べたかが、刑事と入管の双方に効いてくるという構造を理解しておく必要があります。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接あたります。中国語は外国人事件の専属通訳が常駐しており、ベトナム語をはじめとするその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針としては、執行猶予判決で足りるとは考えず、不起訴処分を最優先の目標とします。刑事事件と入管手続は一体として設計します。供述調書が入管手続の資料となる以上、取調べの初期から入管の結論を見据えて供述を整理する必要があるからです。退去強制事由への該当性についても、故意や過失の有無を争う視点をもって検討します。初回のご相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
結びとして
取調べの通訳人は、あなたの味方でも敵でもありません。言語を移す役割を担う第三者です。だからこそ、自分の言葉が正確に記録されているかを確かめる作業は、本人と弁護人の側で行う必要があります。読み聞けの場面で違和感を持ったら、その場で述べること。それが後の手続での最大の防御になります。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099291/
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