送出機関やブローカーによる書類改ざん 本人と受入企業に何が起きるか
2026/09/03
入管の調査を受けて初めて、来日前に自分の名前で提出されていた書類が事実と違っていたと知る。この種のご相談は、技能実習や留学、特定技能のいずれの分野でも起こります。学歴や職歴、預金残高の証明、家族の同意書など、本人が見たことのない書類が送出機関やブローカーの手で整えられていた、という構図です。
問題は、本人が改ざんを知らなかったとしても在留に影響が及び得ること、そして受入企業の側も無関係ではいられないことです。本記事では、書類の改ざんが在留資格の取消しや刑事責任にどうつながるのか、企業の責任の範囲、そして救済の余地を整理します。
虚偽の申請で得た在留資格は、取消しの対象になり得る
まず押さえるべきは、入管法22条の4が、偽りその他不正の手段により在留資格を取得したことを取消事由としていることです。ここでの判断は、書類が事実と違っていたという結果だけで決まるものではなく、本人がどこまで関与し、何を認識していたかが検討されます。名義を貸した、内容を見ないまま署名した、という関与の程度は、事実として丁寧に切り分ける必要があります。
出入国在留管理庁の令和7年の統計では、在留資格の取消しは1,446件で、国籍別ではベトナムが947件と大半を占めます。
刑事事件になる場面と、ならない場面がある
書類の問題がすべて刑事事件になるわけではありません。偽りその他不正の手段により在留資格を取得する行為は処罰の対象とされていますが、実際に立件されるかは、本人の関与の度合いと証拠の状況によります。他方、偽造された在留カード等の所持や提供、収受については入管法73条の6及び73条の7に規定があり、パスポートや在留カードそのものが偽造である場合には、入管法70条1項1号の不法入国が問題になることもあります。同号の法定刑は3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金です。
逆に言えば、書類を作ったのがブローカーであり、本人が内容を知らされないまま渡日していたのであれば、その経緯を裏づける資料を集めることが弁護活動の中心になります。送金記録、やり取りの履歴、契約書、手数料の記録は、後から集めるのが難しく、早期の確保が重要です。
刑事処分は在留資格にどう跳ね返るか
刑事処分が付いた場合の在留への影響は、刑の重さと種類によって分かれます。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としていますが、但書により全部執行猶予が付された場合は除かれます。したがって、執行猶予判決であればこの号には該当しません。一部猶予の場合も、実刑部分が1年以下であれば除かれます。
これに対して、薬物に関する法令違反は入管法24条4号チに該当し、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも退去強制事由になります。
受入企業の側も、当事者として扱われる
企業から見ると、自社も欺かれた側だという意識になりがちですが、入管の調査はその主観を出発点にしません。就労させていた実態が在留資格の範囲外であれば、入管法73条の2の不法就労助長罪が問題となります。法定刑は5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はその併科です。同条2項の構造からは、知らなかったことについて過失がなかったことを企業側で示す必要があり、採用時にどこまで確認したかが問われます。
所属機関に関する届出は入管法19条の16及び19条の17により14日以内に行う必要があり、異変に気づいた後の対応の記録は企業側の姿勢を示す資料になります。
救済の余地は、在留特別許可と出国命令の二つの方向にある
取消しや退去強制の方向に進んだ場合でも、道が閉じるわけではありません。入管法50条の在留特別許可は、収容令書により収容されている者や監理措置決定を受けた者に申請権を認めており(2項)、退去強制令書が発付された後は申請できません(3項)。考慮要素は5項に定められ、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間などが挙げられます。ブローカーに欺かれた経緯は、まさにこの本邦に在留することとなった経緯として主張すべき事情です。不許可の場合には10項により理由を付記した書面が交付され、2024年6月に改定されたガイドラインが現行の判断基準です。
他方、早期の出国を選ぶ場合には入管法24条の3の出国命令があります。速やかに出国する意思をもって自ら出頭したこと、不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと、過去に退去強制や出国命令による出国がないことなどが要件で、これによる出国であれば上陸拒否期間は同法5条1項9号の2により1年です。退去強制の場合の同項9号イ・ロ・ハの1年・5年・10年と比べ、将来の再入国の可能性は大きく変わります。
よくある誤解を三つ挙げる
第一に、本人が知らなかったのだから何も起きない、という誤解です。認識の有無は重要な争点ですが、それを裏づける資料を出さなければ、認識があったものとして進みます。第二に、ブローカーを告発すれば自分の在留は守られる、という誤解です。捜査への協力は有利な事情になり得ますが、それだけで取消しが止まるわけではありません。第三に、企業が被害者だから責任は生じない、という誤解です。確認体制の不備は企業自身の問題として評価されます。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接あたります。中国語は外国人事件の専属通訳が常駐しており、ベトナム語をはじめとするその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針としては、執行猶予判決で足りるとは考えず、不起訴処分を最優先の目標とします。刑事事件と入管手続は一体として設計します。供述調書が違反審査や口頭審理の資料になる以上、取調べの初期から入管の結論を見据えて供述を整理する必要があるためです。退去強制事由への該当性についても、故意や過失の有無を争う視点をもって検討します。初回のご相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
最後に
書類の改ざんが絡む事案では、本人が最も不利な位置に置かれやすい一方で、経緯を裏づける資料が残っていることも少なくありません。どこまでが自分の行為で、どこからが他人の行為だったのかを早い段階で整理することが、刑事と入管の双方の結論を左右します。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099279/
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