技能実習生・特定技能の受入企業が負う法的責任 三層構造で理解する
2026/09/03
受入企業の法的責任という言葉は、実務では漠然と使われがちです。しかし実際に問題が起きたとき、責任は一枚岩ではなく、性質の異なる三つの層に分かれて現れます。この区別を持っておくと、想定すべきリスクと備え方がはっきりします。
第一層は入管法上の責任です。刑事罰と、外国人経営者の場合には在留資格そのものに関わります。第二層は労働法上の責任で、労働基準監督署の是正勧告や送検につながります。第三層は民事の安全配慮義務で、損害賠償請求として顕在化します。
警察庁の令和7年の統計では、不法就労助長罪の検挙件数は253件、検挙人員は308人でした。雇用されていた不法就労外国人475人の国籍は、ベトナム169人、タイ69人、インドネシア63人となっています。以下、三層を順に見ていきます。
第一層 入管法上の責任と、過失がないことの反証
結論として、入管法上の責任は、知らなかったという説明では免れにくい構造になっています。
就労資格のない外国人を働かせた場合、入管法73条の2の不法就労助長罪により、5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金に処せられ、またはこれを併科されます。実務上決定的なのは同条2項です。不法就労であることを知らなかったことを理由に処罰を免れるには、知らなかったことについて過失がなかったことを行為者の側が示さなければならない、という構造が採られています。
したがって、採用時に在留カードの写しを取っただけでは不十分です。出入国在留管理庁が提供する在留カード等読取アプリケーションでICチップを読み取り、券面の記載と一致することを確認し、その結果を日付とともに記録に残す。この手順があるかどうかで、反証の材料はまったく変わります。
受入企業の役員や担当者が外国人である場合には、さらに重い意味を持ちます。入管法24条3号の4は不法就労助長行為をした者を退去強制事由としており、この号は行為があったことのみで該当し、刑事処罰を要件としていません。起訴猶予であっても、入管が違反審査で行為の存在を認定すれば退去強制手続の対象になり得ます。
第二層 労働法上の責任は日本人と同じ基準で及ぶ
労働基準法は、国籍を理由として賃金その他の労働条件について差別的な取扱いをすることを禁じています。技能実習生や特定技能外国人であることを理由に、最低賃金を下回る賃金を支払う、割増賃金を支払わない、といった扱いは認められません。
実務でとくに問題となりやすいのは次の類型です。
- 時間外労働の割増賃金の不払い。日本人従業員と異なる計算を行っていた例
- 寮費や光熱費、日用品費の控除。実費を超える控除や、根拠となる合意がない控除
- 旅券や在留カードの保管。本人の意思に反する保管は強制労働の禁止に触れ得ます
- 労働時間の記録が実態と乖離している場合。失踪や紛争の際に、記録の信頼性そのものが問われます
これらは労働基準監督署の調査対象であると同時に、実習の適正性に関する評価にも直結します。出入国在留管理庁の令和7年速報値では、技能実習生の失踪者は3,950人で、インドネシア国籍は444人でした。失踪の背景に労働条件の問題があったと評価されれば、受入体制の不備として扱われることになります。
第三層 安全配慮義務は事故のあとに問われる
安全配慮義務は、労働者が生命や身体の安全を確保しつつ労働できるよう、使用者が必要な配慮をすべきだという民事上の義務です。契約書に書かれていなくても認められる義務であり、労働災害が生じたときに損害賠償の根拠となります。
外国人労働者の場合、日本人と同じ安全教育を行っていたというだけでは足りない場面があります。母語または理解できる言語で危険を伝えたか、作業手順書が読める形になっていたか、緊急時の連絡方法を本人が理解していたか。理解可能性まで含めて配慮したかが問われます。
また、宿舎の管理、深夜の移動手段、健康状態の把握といった生活面も、業務との関連性がある限り検討の対象になります。
実習生・特定技能外国人が事件の当事者になったとき
刑事事件が発生した場合、企業側の対応と本人の在留資格は連動します。
まず届出です。入管法19条の17は、外国人が所属する機関に受入れに関する届出を求め、同法19条の16は本人の届出義務を定めています。期限は14日以内が基本です。雇用契約の終了や受入れの中止は届出事由ですので、事由が生じた日を起算点として管理してください。
次に在留資格です。身柄拘束や解雇により、当該在留資格に応じた活動を行わない状態が3か月以上続けば、入管法22条の4による在留資格の取消しが問題になり得ます。正当な理由がある場合は除かれますが、判断は入管が個別に行います。
刑の内容による違いも押さえてください。入管法24条4号リは無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により刑の全部の執行を猶予された場合は除外されます。他方、入管法24条4号チは麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等に関する法令違反により有罪の判決を受けた者を退去強制事由とし、罰金でも執行猶予でも該当します。さらに入管法24条の3の出国命令は、24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことを要件の一つとするため、薬物該当者は出国命令を使えません。刑事手続と入管手続は別のルートで進み、刑事段階の供述調書が違反審査や口頭審理の資料となります。
受入企業に多い三つの誤解
第一に、監理団体や登録支援機関に任せているから自社の責任は軽い、という理解です。実際に働かせているのは受入企業であり、労働法上の責任と安全配慮義務は委託できません。
第二に、本人が同意しているから問題ない、という発想です。旅券の保管や寮費の控除について、同意があれば適法になるとは限りません。同意の任意性そのものが検証されます。
第三に、事件は私生活のことなので会社は無関係だ、という整理です。届出義務は私生活か業務かを区別しませんし、失踪や事件の背景に労働条件の問題があれば、受入れの適正性が改めて検討されます。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見および打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、インドネシア語をはじめとするその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
実習生や特定技能外国人ご本人の弁護では、執行猶予付き判決を得れば足りるとは考えず、不起訴処分の獲得を最優先の目標とします。刑事事件と入管手続は一体として設計し、退去強制事由への該当性についても故意や過失の有無を争う視点で方針を立てます。受入企業からのご相談では、刑事・行政・労働の三方向を並行して整理し、届出の期限管理から着手します。初回のご相談は無料です。微信IDは matsumura1119 です。
おわりに
三層構造で考えると、備えの優先順位が見えてきます。入管法の層には確認と記録、労働法の層には賃金と時間の正確な処理、安全配慮の層には理解できる言語での教育。どれも事件が起きてからでは作れないものばかりです。なお本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のインドネシア語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099263/
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