外国人従業員を懲戒解雇できるか 逮捕・起訴・有罪確定の段階別に整理する
2026/09/03
従業員が逮捕されたという連絡を受けた会社が最初に検討するのは、多くの場合、懲戒解雇の可否です。しかしこの問題は、その従業員が罪を犯したかどうかという問いから出発すると、必ず行き詰まります。会社には捜査記録を見る手段がなく、真偽を判定する立場にもないからです。
判断の軸は別のところにあります。第一に、就業規則にどのような懲戒事由が定められているか。第二に、手続がどの段階まで進んでいるか。第三に、その処分が業務にどのような具体的支障をもたらしたと説明できるか。この三点です。
そして外国人従業員の場合には、日本人従業員の事案には存在しない論点が加わります。解雇そのものが、本人の在留資格を左右し、会社に届出義務を発生させるという点です。以下、段階を追って整理します。
逮捕は、それだけでは懲戒解雇の根拠にならない
結論として、逮捕された事実のみを理由とする懲戒解雇は、有効性を維持することが困難です。
刑事手続における逮捕は、捜査の必要から身柄を確保する処分であって、有罪の認定ではありません。無罪の推定が働く以上、会社が逮捕の一報だけで最も重い懲戒処分を選択することは、処分の相当性を欠くと評価される可能性が高くなります。
ここで参考になる数字があります。令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28%で、全体の40.38%より高いものの、それでも半数以上は起訴に至っていません。逮捕と有罪の間には、実務上大きな隔たりがあるということです。
段階ごとに何が判断材料になるか
段階の整理は、次のように考えると見通しがよくなります。
| 段階 | 会社が把握できること | 懲戒処分の考え方 |
|---|---|---|
| 逮捕・勾留中 | 罪名と身柄拘束の事実のみ。本人から事情を聴くことも難しい | 懲戒解雇は原則として時期尚早。まず欠勤の扱いを決める |
| 起訴された | 公訴事実が特定され、公開の法廷で審理される | 事案の内容と業務との関連性を踏まえた検討が可能になる |
| 有罪判決が確定 | 認定事実が確定する | 就業規則の懲戒事由への当てはめを具体的に行える |
なお、起訴猶予などの不起訴処分となった場合、公訴は提起されません。この場合に、なお懲戒処分を行うのであれば、会社は自ら事実を調査して認定する必要があります。捜査機関が起訴しなかった事実について、会社が独自に重い処分を科すには、それに見合う調査と根拠が求められます。
就業規則に書かれていない事由では懲戒できない
懲戒処分は、就業規則にあらかじめ定められた懲戒事由と処分の種類に基づいてのみ行うことができます。逮捕された場合を想定した規定がない会社では、そもそも根拠を欠くことになります。
実務上よく問題になるのは、私生活上の行為をどこまで懲戒の対象にできるかという点です。会社の事業活動に具体的な支障が生じたか、企業の社会的評価が現実に低下したかといった事情が必要とされるのが一般的な理解であり、私生活上の行為であれば何でも懲戒できるわけではありません。報道されたかどうかも、実際上は考慮されます。
また、外国人従業員に対して懲戒処分を行う場合、就業規則の内容が本人の理解できる形で周知されていたかも問われ得ます。日本語のみの規則を掲示していただけでは足りないという指摘は、実務上しばしばなされます。
欠勤の扱いは、懲戒とは別に決める
身柄拘束中は労務の提供ができません。この不就労を、懲戒ではなく労働契約の履行の問題として処理する道があります。
- 就業規則に起訴休職の規定があれば、それを適用する
- 年次有給休暇の申請が本人からあれば、その扱いを検討する
- 規定がない場合、欠勤として無給の扱いとし、処分の判断は手続の進行を待つ
- 本人と連絡が取れない場合、弁護人を通じた連絡の可否を確認する。刑事訴訟法39条1項は弁護人との接見交通を定めており、家族や会社が直接面会できない段階でも、弁護人経由の意思確認が可能な場合があります
いったん懲戒解雇をしてしまうと、後に不起訴や無罪となった場合の巻き戻しは容易ではありません。急いで最終処分を出す実務上の利益は、多くの場合それほど大きくありません。
解雇が本人の在留資格に跳ね返る
外国人従業員の事案で最も見落とされやすいのが、この点です。
就労資格で在留している方が職を失うと、当該在留資格に応じた活動を行わない状態に入ります。入管法22条の4は、当該在留資格に応じた活動を3か月以上行わないで在留していることを在留資格の取消し事由としています。正当な理由がある場合は除かれますが、その判断は入管が個別に行います。つまり、会社の解雇が、本人の在留資格喪失への起点になり得るということです。
会社の側にも義務が生じます。入管法19条の17は、外国人が所属する機関に受入れに関する届出を求めており、同法19条の16は本人の届出義務を定めています。期限は14日以内が基本です。雇用契約の終了は届出事由ですので、解雇の日を起算点として管理してください。
刑事処分そのものの影響も押さえておく必要があります。入管法24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により刑の全部の執行を猶予された場合は除外されます。他方で入管法24条4号チは、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等に関する法令違反により有罪の判決を受けた者を退去強制事由とし、罰金でも執行猶予でも該当します。罪名によって帰結がまったく異なるということです。
よくある誤解
第一に、起訴されたのだから懲戒解雇は当然だ、という理解です。起訴は有罪の確定ではなく、公訴事実の内容と業務との関連性の検討を経ずに最も重い処分を選ぶことは、相当性の観点から問題を残します。
第二に、在留資格が取り消されそうだから先に解雇しておこう、という発想です。順序が逆で、解雇が取消しの引き金になり得ます。
第三に、退職合意を取れば届出は不要だ、という誤解です。合意退職であっても雇用契約が終了した事実に変わりはなく、届出義務は生じます。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見および打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、ベトナム語をはじめとするその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
従業員ご本人からのご依頼では、執行猶予付き判決を得れば足りるとは考えず、不起訴処分の獲得を最優先の目標とします。不起訴となれば、雇用の維持と在留資格の双方にとって最も良い出発点になるからです。刑事事件と入管手続は一体として設計し、退去強制事由への該当性についても故意や過失の有無を争う視点で方針を立てます。会社からのご相談では、処分の可否と届出の要否を並行して整理します。初回のご相談は無料です。微信IDは matsumura1119 です。
最後に
この問題で会社が急ぐべきなのは、処分の決定ではなく、判断の枠組みの整備です。就業規則を読み直し、欠勤の扱いを暫定的に定め、届出の期限を押さえる。この三つを済ませたうえで手続の進行を見守れば、選択肢を失うことはありません。なお本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099261/
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