在留カードの真偽確認を怠った雇用主の責任|読取アプリと記録の残し方
2026/09/03
採用面接で在留カードのコピーを取り、在留資格の欄に技術・人文知識・国際業務と書かれているのを目で確かめた。それで在留カードの確認は終わったと考えている事業者は、決して少なくありません。ところが捜査機関や入管が後から問題にするのは、カードを見たかどうかではなく、そのカードが本物であることをどうやって確かめたのか、という一点です。
偽造在留カードは、券面の印刷やホログラムだけを目視しても判別が難しい水準に達しています。警察庁の令和7年の統計では、入管法違反の検挙人員3,349人のうち偽造在留カード所持等が191人を占めており、偽造カードが現に流通していることがうかがえます。
この記事では、在留カードの真偽確認を怠ったまま外国人を雇い入れた場合に雇用主が負う刑事責任、雇用主自身が外国人であるときに在留資格へどう跳ね返るのか、そして実務として何をどのように記録へ残しておけばよいのかを、条文に即して整理します。
在留カードは見るだけでなく読み取って確認する
結論から述べると、現在の実務で求められている確認水準は、券面の目視ではなくICチップの読取りです。在留カードには券面情報と同じ内容が記録されたICチップが搭載されており、出入国在留管理庁が無償で提供している在留カード等読取アプリケーションを使えば、スマートフォンやパソコンのICカードリーダーでチップ内の情報を読み出し、券面の記載と一致するかを確認できます。
偽造カードの多くは券面を精巧に模倣していても、チップ内の情報が正しく書き込まれていないか、そもそも読取りに応答しません。読取りができない、あるいは読み取った氏名・生年月日・在留資格・在留期間が券面と食い違う場合には、その時点で採用手続を止め、本人に事情を確認するべきです。
あわせて、出入国在留管理庁は在留カード等番号失効情報照会という仕組みも公開しています。これは、そのカード番号が失効していないかを確認するものです。読取アプリによる真正性の確認と、失効情報の照会は目的が異なりますので、両方を行うのが安全です。
不法就労助長罪の条文と、過失がなかったことの反証責任
在留資格のない外国人を働かせた雇用主は、入管法73条の2の不法就労助長罪により、5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金に処せられ、またはこれを併科されます。ここで実務上決定的に重要なのが、同条2項の定めです。
同条2項は、不法就労であることを知らなかったことを理由として処罰を免れるためには、知らなかったことについて過失がなかったことを行為者の側が示さなければならない、という構造を採っています。通常の刑事事件のように、検察官が故意を立証できなければ無罪、という単純な形にはなっていません。雇用主の側が、確認すべきことを確認していたと言えるだけの材料を持っている必要があります。
目視だけで済ませていた、コピーは取ったが読取りはしていない、外国人の同僚が大丈夫だと言ったので信用した、という程度では、過失がなかったと評価される見込みは高くありません。逆に、読取アプリで確認し、その結果を日付入りで記録に残していれば、過失がなかったことを支える具体的な事情として主張できます。
雇用主自身が外国人のとき、在留資格にどう跳ね返るか
結論として、雇用主が外国人である場合、不法就労助長は刑事処分より前の段階で在留資格を直撃します。入管法24条3号の4は、不法就労助長行為をした者を退去強制事由として定めていますが、この号は行為があったことのみで該当し、刑事処罰を受けたことを要件としていません。
つまり、起訴猶予となった場合でも、そもそも起訴されなかった場合でも、入管が違反審査の中で不法就労助長行為があったと認定すれば、退去強制手続の対象になり得るということです。日本人経営者であれば刑事処分だけで完結する事案が、外国人経営者では在留資格の喪失にまで及ぶ。この非対称性が、外国人が経営する会社にとって最も注意すべき点です。
さらに、経営・管理の在留資格で在留している方の場合、刑事事件になった事実そのものが、次回の在留期間更新の審査で素行の問題として考慮されます。刑事手続と入管手続は別々に進みますが、刑事手続で作成された供述調書は、違反審査や口頭審理の場面で資料として用いられます。刑事の段階で何をどう述べるかが、そのまま在留資格の帰趨に影響するのです。
確認記録は、いつ、何を、どう残すか
記録の目的は、後日、確認を尽くしていたことを客観的に示せるようにしておくことです。次の項目を採用時の定型手続として組み込んでおくことをお勧めします。
- 在留カードの表裏の写しを取得し、取得した日付を記録する
- 読取アプリでICチップを読み取り、読取結果の画面を保存する。または読取りを実施した日時・実施者名・結果を書面に残す
- 券面の在留期間の満了日を管理台帳に登録し、更新の確認時期を設定する
- 資格外活動許可の有無を確認し、許可がある場合は許可の内容と時間制限を記録する
- 就労可否に疑義が生じた場合の社内の確認手順と決裁者を定めておく
留学生をアルバイトとして採用する場合には、資格外活動許可の範囲を超えた就労にならないよう、他社での就労時間も含めた管理が必要です。自社での勤務時間だけを見ていても、合算すると許可の範囲を超えている、という事態は起こり得ます。
よくある誤解を三つ
第一に、派遣会社や業務委託先を経由して受け入れているから自社は関係ない、という誤解です。実際に働かせている実態がある以上、受入先も助長行為の主体になり得ます。契約の形式ではなく、誰が指揮命令しているかが見られます。
第二に、本人が在留カードを持っていると言っているので大丈夫だ、という誤解です。入管法23条は在留カードの携帯・提示義務を定めていますが、これは本人の義務であって、雇用主の確認義務を代替するものではありません。
第三に、偽造カードを渡された自分も被害者だ、という理解です。被害感情としては理解できるところですが、73条の2第2項の構造上、確認を尽くしていなかったこと自体が問われます。被害者であることと、過失がなかったことは別の問題です。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見および打合せに直接対応します。外国人事件については、中国語は専属の通訳が常駐しており、その他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
不法就労助長が疑われる事案では、執行猶予付きの判決を得れば足りるとは考えず、不起訴処分を獲得することを最優先の目標として弁護活動を組み立てます。あわせて、依頼者が外国人である場合には、刑事事件と入管手続を一体のものとして設計します。刑事の段階で作成された供述調書が違反審査や口頭審理の資料となるため、退去強制事由への該当性、とりわけ故意や過失の有無を刑事の段階から見据えて主張を組み立てる必要があるからです。初回のご相談は無料です。微信のIDは matsumura1119 です。
おわりに
在留カードの確認は、事務手続の一つに見えて、実際には会社と経営者自身を守るための防御線です。読取アプリによる確認と記録の保存という二つの手順を採用フローに組み込むだけで、後日の反証材料は大きく変わります。なお本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099255/
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