示談はどう進めるのか 被害者と直接話せない場合の手順
2026/09/03
示談をしたいのですが、相手の連絡先が分かりません。外国籍の方やそのご家族から最初に出てくる言葉は、ほとんどこの一言です。捜査機関は被害者の氏名や住所を加害者側に教えません。連絡を取ろうとして自分で探せば、それ自体が新たな問題を生みます。
示談は、被害者と加害者が直接会って話し合うものだと想像されがちですが、刑事事件における示談は通常そうではありません。この記事では、弁護人を介した示談がどのように進むのか、宥恕という言葉が何を意味するのか、金額はどう決まるのか、そして示談の成否が刑事処分と在留資格にどう跳ね返るのかを順に説明します。
示談は処分を決める材料のひとつである
示談は、被害の回復がどこまで図られたかを示す資料として、検察官の処分判断に組み込まれます。
検察官が起訴猶予とするかどうかを判断する際には、犯罪の軽重だけでなく、被害の程度、被害弁償の有無、被害者の心情、本人の反省などが考慮されます。示談書は、そのうち複数の要素を一枚で示す書面になります。もっとも、示談が成立すれば必ず不起訴になるというものではありません。事案の性質によっては、示談があっても起訴される場合があります。
被害者の連絡先は弁護人にしか開示されないのが通常である
被害者の連絡先は、被害者本人が弁護人に伝えることに同意した場合に限り、弁護人限りという条件付きで開示されるのが通常の運用です。
この場合、弁護人は連絡先を依頼者本人にも家族にも伝えません。伝えてしまえば、被害者は二度と交渉に応じなくなりますし、接触の仕方によっては新たな事件を招きます。身体を拘束されている段階であれば、弁護人が検察官を通じて被害者の意向を確認し、応じる意思があれば連絡を取る、という順序で進みます。
被害者が交渉自体を拒否することもあります。その場合、無理に接触を図ることはできません。できるのは、謝罪の意思と被害弁償の申し出があったという事実を記録に残すことです。
宥恕文言は何を意味するのか
宥恕文言とは、被害者が加害者を許す意思、または処罰を求めない意思を示談書に明記したものです。
示談書には通常、被害弁償の金額と支払方法、当事者間に他に債権債務がないことの確認、そして被害者の処罰感情に関する記載が置かれます。このうち処罰感情に関する部分が宥恕文言です。単に金銭を受け取ったという記載と、処罰を望まないという記載とでは、検察官が読み取る意味が異なります。
ただし、宥恕文言があっても、被害者の署名がその意思に基づくものであることが前提です。金額を先に決めて署名だけを求めるような進め方は、後に示談の効力自体を争われる原因になります。
金額はどう決まるのか
示談金の額に一律の相場はなく、罪名、被害の内容、治療の要否、被害者の被った実損、当事者の資力などによって大きく変わります。
相場という言葉が独り歩きすると、被害者側からは低すぎる、加害者側からは高すぎるという評価になり、交渉が動かなくなります。実務上は、まず実損として計算できる部分を積み上げ、その上で精神的苦痛に対する部分を協議するという順序が取られます。分割払いとする場合には、支払が滞ったときの取り決めを示談書に入れておく必要があります。
なお、示談金を支払ったこと自体は、犯罪の成立を左右しません。示談は、成立した事実をどう評価するかという段階の問題です。
示談の成否は在留資格にどう跳ね返るか
示談が処分に影響し、処分が在留資格に影響するという二段構えの関係が、外国人事件では常に働きます。
出入国管理及び難民認定法24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とし、但書により刑の全部の執行猶予が付された場合は除かれます。同条4号の2は、強盗、不同意性交等、危険運転致死傷など一定の重大犯罪で拘禁刑に処せられた者のうち、別表第一の在留資格をもって在留する者を対象としています。いずれも有罪判決を前提とする条文であり、不起訴で終われば働きません。
他方で、同条4号チの薬物事犯は、有罪判決を受ければ罰金でも執行猶予でも該当します。薬物事件では、被害者との示談という枠組み自体が想定しにくく、別の弁護活動が必要になります。
在留特別許可の場面では、同法50条5項が考慮要素を法定しており、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間などが挙げられます。被害弁償を尽くしたという事実は、素行の評価の中で意味を持ちます。
数字の背景 外国人の起訴率は全体より高い
令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28パーセントで、全体の40.38パーセントを上回っています。
分母は、過失運転致死傷等および道路交通法違反を除く終局処理人員1万8,696人です。示談を含む処分前の活動を早い段階で始める意味は、この数字の背景にもあります。
よくある誤解を整理する
示談さえすれば事件は終わる、という理解は正確ではありません。
示談は処分の判断材料であって、処分そのものではありません。また、被害者に直接会って謝りたいという気持ちは自然なものですが、弁護人を通さない接触は、証拠隠滅や被害者への働きかけと受け取られる危険があります。さらに、示談が成立しても、不法残留などの事実があれば入管の手続は別に進みます。刑事の終結と在留の安定は同じ意味ではありません。
当事務所の対応
当事務所では、弁護士松村大介が接見と打合せに直接対応し、被害者の意向確認から示談書の文言作成までを担当します。言語については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しています。その他の言語については、事案に応じて通訳人を手配します。
方針として、執行猶予判決を得ることをもって十分とは考えず、不起訴処分の獲得を最優先の目標とします。示談の交渉と並行して、刑事事件と入管手続を一体のものとして設計し、退去強制事由への該当性についても故意や過失の有無を含めて争う視点を持ちます。初回のご相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 からもご連絡いただけます。
おわりに
示談は、同じ内容であっても、いつ成立したかによって意味が変わります。処分が決まる前に整った示談と、判決の直前に整った示談とでは、読まれ方が違うからです。連絡先が分からないという段階で止まってしまう前に、進め方だけでも確認しておくことをお勧めします。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事の簡体字中国語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099241/
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------