控訴するかどうかの判断|外国人事件で特に考えるべきこと
2026/09/03
控訴は、判決に納得できないときの当然の選択肢のように見えます。実際、量刑が重すぎると感じたご家族から、まず控訴したいというご相談をいただくことは少なくありません。
しかし外国人の刑事事件では、控訴するかどうかを刑の重さだけで決めることはできません。判決の内容が在留資格にどう跳ね返るか、身柄拘束がどこまで延びるか、そして上訴権を放棄してしまった後に何が起きるか。この三つを同時に見なければ、判断を誤ります。
控訴では何を争うのか
控訴審は、第一審をもう一度やり直す手続ではなく、第一審判決に誤りがあったかどうかを審査する手続です。主張の柱になるのは、事実の認定を誤っている、量刑が重すぎる、手続に法令違反がある、といった点です。第一審で提出しなかった証拠を控訴審で自由に出せるわけではなく、第一審の記録が審理の中心になります。
この構造は、外国人の事件では特に重い意味を持ちます。捜査段階で通訳を介して作られた供述調書に不正確さがあったとしても、それを第一審で争わずに終えていれば、控訴審での是正は容易ではありません。刑事訴訟法198条4項が調書の読み聞けと増減変更の申立ての機会を求め、301条の2が取調べの録音録画を定めているのは、まさにその段階で記録を残すためです。
控訴期間は14日、上訴権の放棄は撤回できない
控訴の申立てができるのは判決の言渡しの日の翌日から14日間で、この期間を過ぎると刑は確定します。判決を聞いてから資料を集め、通訳を介して本人の意向を確認し、方針を決めるには、決して長い時間ではありません。
より注意が必要なのは上訴権の放棄です。早く刑を確定させたい、早く刑務所に入って早く出たいという理由で放棄を申し出る方がいますが、いったん放棄すれば撤回できません。外国人の方の場合、確定した刑の重さがそのまま入管手続の結論を左右するため、放棄は刑事事件の終わりではなく、入管手続の入口の条件を自ら固定してしまう行為になります。
確定した刑の重さが在留を左右する
控訴の判断で最も見落とされやすいのが、1年という境界線です。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書があり、全部執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予でも、実刑部分が1年以下であれば除外されます。つまり、1年6月の実刑と1年の実刑では、退去強制事由に該当するかどうかという点で結論が変わり得ます。
もっとも、薬物事犯は別の扱いです。入管法24条4号チは、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等に関する法令違反で有罪の判決を受けた者を退去強制事由とし、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。4号リの柱書が二からチまでに掲げる者のほかと定めている以上、薬物は4号リの守備範囲の外にあり、刑を軽くしても該当性は消えません。この場合、控訴で量刑を争う実益は、退去強制事由の該当性ではなく、在留特別許可の判断で考慮される素行の評価や、上陸拒否期間の側にあります。
入管法24条4号の2は、強盗、不同意性交等、危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条・6条1項)等で拘禁刑に処せられた者のうち、別表第一の在留資格をもって在留する者を対象とします。さらに、退去強制された場合には入管法5条1項4号や9号による上陸拒否が問題となり、薬物については5条1項5号により期間の定めのない上陸拒否となります。
身柄拘束の長期化という代償
控訴しても、実刑判決による身柄拘束が自動的に解けるわけではありません。控訴により刑は確定しませんが、勾留は続くのが通常で、控訴審の審理には相応の期間を要します。控訴審で保釈を請求することはできますが、第一審が実刑と判断した後の保釈は、より慎重に判断される傾向があります。
そのうえ、外国人の方の場合、刑の執行が終わった後に入管の手続が控えています。控訴によって刑事手続が延びれば、その分だけ入管手続の開始も後ろにずれます。控訴で得られる利益と、身柄拘束が延びる不利益を、同じ天秤に載せて比べる必要があります。
判断のためにご家族が集められる情報
控訴するかどうかは、本人の意思が出発点ですが、判断材料はご家族が集められるものが多くあります。
- 在留カード、旅券、在留期間の残り、これまでの在留歴
- 配偶者や子の在留資格、子の在学状況、扶養の実態
- 雇用契約書、勤務先の受入れ意思、住居の安定を示す資料
- 本人が第一審の供述調書の内容に納得しているかどうか。通訳を介した確認が必要です
- 領事関係に関するウィーン条約36条に基づく領事との面会。本国での手続の見通しを聞ける場合があります
入管庁の統計によれば、令和7年の在留特別許可は、申請2,424件に対し許可1,026件、不許可1,233件でした。判断が分かれる領域であるからこそ、考慮される事情の資料をどれだけ具体的に用意できるかが問われます。
よくある誤解
第一に、控訴すれば刑が軽くなる可能性があるのだから、とりあえず控訴しておけばよい、という考え方です。控訴審は第一審の誤りを審査する手続であり、争点が明確でなければ結論は変わりません。他方で身柄拘束は続きます。
第二に、執行猶予が付いたのだから在留は安全だという理解です。薬物事犯では入管法24条4号チにより、執行猶予でも退去強制事由に該当します。
第三に、刑が確定すればすべて終わるという理解です。刑の執行が終わった時点から入管手続が始まることが多く、確定判決の内容がその手続の前提になります。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。外国人事件については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しており、その他の言語は事案に応じて通訳人を手配する体制です。
弁護方針としては、執行猶予判決ではなお不十分であるという前提に立ち、不起訴処分を最優先の目標に据えます。控訴の可否を検討する場面でも、量刑だけでなく、確定する刑がどの退去強制事由に触れるかを起点に考えます。刑事事件と入管手続は一体として設計すべきもので、捜査段階の供述調書は後の違反審査や口頭審理で入管が読む資料になります。退去強制事由の該当性についても、故意や過失を争う視点を持ちます。初回相談は無料で、微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
結びに
控訴するかどうかは、刑事裁判の中だけで完結する問題ではありません。1年という境界線、薬物事犯の特則、上陸拒否期間、そして在留特別許可の判断材料。これらを踏まえて初めて、控訴に意味があるのか、それとも早期に確定させて入管手続に力を注ぐべきなのかが見えてきます。本記事は一般的な解説ですので、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事の簡体字中国語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099219/
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