裁判員裁判になる事件と通訳|タイ語話者の被告人が知っておくこと
2026/09/03
裁判員裁判という言葉自体は知っていても、自分や家族の事件がその対象になるのか、日本語が分からない被告人にとってそれが何を意味するのかまで説明を受ける機会は、なかなかありません。タイ語を母語とする方のご家族から、法廷に一般の市民が入ると聞いたが通訳はどうなるのか、というご質問をいただくことがあります。
対象となる罪名は法律で限定されており、外国人の刑事事件のすべてが裁判員裁判になるわけではありません。しかし、いったん対象になると、審理の速度も通訳人の負担も、判決後に待つ入管手続の重さも、通常の事件とは大きく変わります。
どのような事件が裁判員裁判になるのか
裁判員裁判の対象になるのは、死刑又は無期の拘禁刑に当たる罪と、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に限られます。裁判員の参加する刑事裁判に関する法律が対象事件を定めており、地方裁判所で、裁判官3人と裁判員6人が事実認定と量刑の双方を担当します。
外国人の方の事件で対象になりやすいのは、営利目的の薬物輸入、被害者が亡くなった傷害、強盗にあたる事案です。逆に、不法残留、資格外活動、在留カードに関する事件、単純な窃盗や薬物の自己使用は対象外です。
通訳人はどのような根拠で付くのか
日本語に通じない被告人には裁判所が通訳人を付さなければならず、その費用を被告人に負担させることはできません。裁判所法74条は裁判所では日本語を用いると定め、刑事訴訟法175条は日本語に通じない者に陳述をさせる場合に通訳人を付すべきことを、178条は日本語でない文書の翻訳を定めています。
さらに自由権規約14条3項は、(a)で罪の性質と理由を理解する言語で速やかに告げられる権利を、(f)で無償で通訳の援助を受ける権利を保障しています。通訳費用を後から請求されるのではという心配は不要です。なお、故意に虚偽の通訳をすれば刑法171条の虚偽通訳罪が成立します。
令和5年に通訳人が付いた裁判員裁判の被告人は98人
裁判員裁判で通訳が必要になる事件は、数としては多くありません。最高裁判所の広報資料『あなたも法廷通訳を ごぞんじですか』令和7年1月版によれば、令和5年の裁判員裁判の被告人807人のうち、通訳人が付いたのは98人でした。
同じ資料によれば、令和5年に要通訳事件として終局した被告人は3,851人で、ベトナム語40.4パーセント、中国語16.1パーセントに次ぎタイ語が7.3パーセントを占めます。タイ語は日本の刑事法廷で三番目に多く必要とされる言語ですが、地域や期日によっては人選に時間を要します。
通訳が入ると審理はどう変わるか
通訳が入る裁判員裁判では、公判前整理手続の段階で勝負の大半が決まります。連日的に開廷されるため、公判開始後に主張を組み立て直すことは事実上できません。法廷では逐次通訳が原則で一つのやり取りに二倍近い時間がかかるため、長い質問や二重否定を避け、一問一答を短く区切る配慮も欠かせません。
捜査段階の供述調書も同じです。刑事訴訟法198条4項は調書を読み聞かせ、増減変更の申立ての機会を与えることを求めています。通訳を介した読み聞けが形だけになっていないか、198条2項の黙秘権の告知が理解できる言語で行われたか、301条の2の録音録画が残っているかは、公判で任意性や信用性を争う手がかりになります。
判決が在留資格にどう跳ね返るか
裁判員裁判の対象事件は法定刑が重いため、有罪となれば退去強制事由に直結する可能性が高くなります。入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書があり、全部執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除外されます。
他方、24条4号チは薬物に関する法令違反で有罪の判決を受けた者を退去強制事由とし、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。4号リの柱書が二からチまでに掲げる者のほかと定める以上、薬物事犯は4号リの守備範囲の外にあります。
なお24条4号の2は、強盗、不同意性交等、危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条・6条1項)等で拘禁刑に処せられた者のうち、別表第一の在留資格をもって在留する者を対象とします。受け皿は在留特別許可で、入管法50条5項は在留を希望する理由、家族関係、素行、在留することとなった経緯、在留期間その他の事情を考慮すると定めます。50条1項但書の加重要件の列挙に4号チは含まれないため、薬物事犯でも道が閉ざされるわけではありません。
被告人本人とご家族が取れること
できることは、判決を待つことではなく、捜査段階から動くことです。
- 弁護人との接見を求める。刑事訴訟法39条1項は立会人なくして接見する権利を保障しています
- 勾留に納得できなければ、刑事訴訟法82条以下の勾留理由開示を請求する
- 領事関係に関するウィーン条約36条に基づき、本国領事機関への通報と領事との面会を求める
- 通訳の内容に違和感があれば、その場で弁護人に伝える
- ご家族は、在留カード、旅券、雇用契約書、家族の在留資格、子の在学状況など、在留特別許可で考慮される事情の資料を早期に集める
よくある誤解
第一に、裁判員裁判だから重くなる、あるいは市民のほうが軽くしてくれるという理解は正確ではありません。裁判員も裁判官と同じ量刑資料で判断します。決定的なのは、何が争点として設定され、どの証拠が法廷に出るかです。
第二に、執行猶予が付けば在留は安全という誤解です。薬物事犯では24条4号チにより執行猶予でも退去強制事由に該当します。刑事裁判の結果と入管手続の帰結は、別の物差しで測られます。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。外国人事件については、中国語は専属の通訳が常駐しており、その他の言語は事案に応じて通訳人を手配する体制です。タイ語の事案もこの方針で対応しています。
弁護方針としては、執行猶予判決ではなお不十分であるという前提に立ち、不起訴処分を最優先の目標に据えます。薬物事犯では有罪判決そのものが退去強制事由になるからです。捜査段階の供述調書は後の違反審査や口頭審理で入管が読む資料になるため、刑事事件と入管手続を一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う視点を初期から持ち込みます。初回相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
おわりに
裁判員裁判は対象が限られている代わりに、動き出したときの速度が速い手続です。公判前整理手続で何が決まるかによって、法廷で何を争えるかが決まります。通訳が必要な事案であればなおのこと、早い段階で弁護人が関与する意味があります。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のタイ語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099215/
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