旅券と在留カードを押収された|所在の確認と還付・仮還付
2026/09/03
捜索の後に残されるのは、一枚の書面と、手元から消えた身分証です。旅券も在留カードも押収され、どこにあるのか、いつ返ってくるのか、その間に役所へ行けるのかが分からない。ご家族から寄せられる相談は、たいていこの三つに集約されます。
本記事では、押収された旅券と在留カードの所在をどう確認するか、還付と仮還付をどう求めるか、そして原本がない間に入管手続で何が滞るのかを順に説明します。刑事手続と在留手続が交差する典型的な場面であり、放置すると刑事事件とは別の不利益が積み上がります。
何が押収され、なぜ返ってこないのか
旅券と在留カードが押収されるのは、それ自体が証拠として意味を持つと判断された場合です。入国の経緯、滞在期間、居住地、出入国の履歴が記録されているため、事件の内容にかかわらず押収の対象になりやすい書類です。偽造が疑われる事案では、押収の必要性はさらに強く判断されます。
押収された物は、必要がなくなるまで捜査機関が保管します。事件が終わっていなくても、必要がなくなったと判断されれば返還され得ますし、逆に処分が決まるまで戻らないこともあります。返還の時期は事件の性質によって大きく異なり、一律の目安はありません。
押収品目録交付書で所在を確認する
最初にすべきことは、押収品目録交付書を探すことです。押収を受けた者には、押収した物の一覧を記載した書面が交付されます。ここに、旅券や在留カードが押収物として記載されているかどうかが書かれています。
この書面が手元にあれば、どの警察署または検察庁が保管しているのかを特定でき、以後の連絡先が定まります。逮捕された本人の所持品として押収された場合は、書面が留置施設に保管されていることもあります。ご家族が探す場合は、自宅の捜索時に置かれた書面を確認し、見当たらなければ担当の警察署に事件番号とともに問い合わせることになります。弁護人が選任されていれば、この確認は弁護人が行います。
還付と仮還付の違い
返してもらう方法には、還付と仮還付の二つがあります。還付は、押収を続ける必要がなくなった物を確定的に返すものです。これに対し仮還付は、証拠としての必要は残っているものの、所有者や保管者の生活上の必要を考慮して一時的に返すものです。返された物は求められれば再び提出する必要があります。
実務では、旅券や在留カードのように日常生活に不可欠な書類について、仮還付が現実的な選択肢になります。求める際には、なぜ原本が必要なのかを具体的に示すことが重要です。次のような事情が説明の材料になります。
- 在留期間の満了が近く、更新申請に原本が必要であること
- 住居地の変更や所属機関の変更を届け出る必要があること
- 本国の領事館で旅券の再発給を受ける必要があること
- 就労先や学校から在留カードの提示を求められていること
原本がない間に滞る入管手続
在留カードの原本が手元にないことは、それ自体が別の義務違反の危険を生みます。入管法23条は中長期在留者に在留カードの携帯と提示を義務づけており、押収されている場合の扱いを、その場の警察官が当然に理解しているとは限りません。押収品目録交付書の写しを携帯しておくと、説明が容易になります。
届出義務も止まりません。入管法19条の7から19条の10までは住居地の届出について定めており、入管法19条の16と19条の17は所属機関等に関する届出を14日以内に行うよう求めています。身体を拘束されている間も、これらの期限が自動的に延びるわけではありません。ご家族や弁護人を通じて、何をいつまでに届け出る必要があるのかを整理しておく必要があります。
旅券がない間の領事館への連絡
旅券について最も確実な対処は、本国の領事館との連絡経路を早く確保することです。領事関係に関するウィーン条約36条は、身体を拘束された外国人が領事機関と連絡し、領事官の接見を受ける権利を定めています。本人が希望すれば、その旨を捜査機関に伝えることができます。
身体を拘束されている場合には、刑訴法39条1項により立会人なしで弁護人と接見できますので、領事館への連絡や書類の準備は弁護人を通じて進めることができます。旅券の再発給には本人確認書類が必要になるため、押収されている書類が何かを早い段階で把握しておくことに意味があります。
刑事処分が在留資格に跳ね返る仕組み
押収そのものが在留資格を左右するわけではありませんが、押収をきっかけに滞った手続が在留資格に響きます。入管法22条の4は、正当な理由なく3か月以上その在留資格に応じた活動を行わないで在留していることを取消事由としています。身体拘束や書類の不在が長引き、勤務や就学が途切れると、この規定が現実の問題になります。
刑事処分そのものについては、退去強制事由である入管法24条4号リが、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とし、但書により刑の全部の執行を猶予された場合は除外されます。他方、偽造在留カードに関する入管法73条の6や73条の7の事件では、押収物がそのまま中心的な証拠になります。押収物の内容と数量が、処分の重さに直結する類型です。
出入国在留管理庁の令和7年の統計では、退去強制手続又は出国命令手続を執った入管法違反事件の対象者は18,442人で、国籍別ではベトナムが6,599人、35.8パーセントを占めました。手続が動き出した後の対応より、動き出す前の整理のほうが選択肢は広く残ります。
よくある誤解
- 押収された物は判決が出るまで一切戻らない。必要がなくなれば還付され、生活上の必要があれば仮還付を求めることができます。
- 在留カードが手元になければ届出をしなくてよい。届出義務の期限は止まりません。
- 旅券がないので何もできない。領事館での再発給という経路があります。
- 家族が警察署に行けばすぐ返してもらえる。返還は捜査上の必要性の判断によります。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、ベトナム語を含むその他の言語については事案に応じて通訳人を手配します。
押収が絡む事件では、刑事の見通しと入管の期限を同じ表の上に並べて管理します。執行猶予判決で足りるとは考えず、不起訴処分を最優先の目標として方針を組み立てます。刑事事件と入管手続は一体として設計します。取調べで作られた供述調書が、後の違反審査や口頭審理の資料になるためです。退去強制事由に当たるかどうかについても、故意や過失の有無を含めて争う視点を持ちます。初回相談は無料で、微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
おわりに
身分証が手元にない期間は、本人にとっても家族にとっても不安の大きい時間です。まずは押収品目録交付書を探し、保管先を特定するところから始めてください。手続は、事実の確認からしか動きません。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099205/
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