公務執行妨害で逮捕された|職務質問から刑事事件になるまで
2026/09/02
深夜、自転車で帰宅する途中に呼び止められた。何も悪いことはしていないので立ち去ろうとしたところ、腕をつかまれた。振りほどこうとして相手の手が当たり、その場で逮捕された。公務執行妨害の事件は、こうした短い時間の出来事から生まれます。
この類型が難しいのは、争点が二重になっているからです。ひとつは、自分が行った行為が暴行と評価されるかどうか。もうひとつは、その時に警察官が行っていた職務そのものが適法だったかどうかです。後者は、外国籍の方の事件では特に重要な意味を持ちます。職務質問の場面では、在留カードの提示を求められることが多く、その求め方が適法だったのかが争点になり得るからです。
この記事では、職務質問がどこまで任意なのか、どの程度の行為が暴行にあたるとされるのか、そして刑事処分が在留にどう跳ね返るのかを整理します。
職務質問は、あくまで任意の手続です
出発点は、職務質問が強制ではないという点です。警察官職務執行法2条1項は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者などを停止させて質問することができると定めています。そして同条3項は、その人が答弁を強要されることはないこと、そして刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り身柄を拘束されたり、警察署などに連行されたりしないことを定めています。
もっとも、まったく身体に触れてはならないという意味ではありません。停止を求めるために肩に手を掛ける程度の行為は許容される場合があると考えられており、どこからが実質的な逮捕になるのかは、その場の状況によって判断されます。この線引きが、公務執行妨害罪の成否に直結します。
公務執行妨害罪は、職務が適法であることを前提とします
刑法95条1項は、公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者を処罰します。条文には書かれていませんが、ここでの職務は適法なものでなければならないと理解されています。職務行為が違法であれば、これに対する抵抗があっても公務執行妨害罪は成立しません。
したがって弁護活動では、当日の職務質問が警察官職務執行法2条の要件を満たしていたのか、停止を求める行為が任意処分として許される範囲にとどまっていたのかを検討します。呼び止められた理由、質問が続いた時間、進路をふさがれたのか、何人の警察官がどこにいたのかといった具体的事情が意味を持ち、防犯カメラの映像や同行者の記憶が重要な資料になります。
振りほどく行為は暴行にあたるのか
問題になるのは、有形力の程度と向けられた対象です。刑法95条1項の暴行は、公務員の身体に直接向けられたものに限られず、職務の執行を妨げる性質を持つ有形力であれば足りると理解されています。もっとも、あらゆる身体の動きが暴行になるわけではありません。
実際の事件では、腕をつかまれたので振りほどこうとしただけなのか、相手に向けて手を振り回したのかによって評価が変わります。とっさの反射的な動作と、明確に相手へ向けられた攻撃とを区別して説明できるかが弁護の中心です。飲酒の有無や、言語が通じにくく状況を誤解した経緯も、故意にかかわる事情として説明する必要があります。
在留カードの提示を求められた場面での注意
外国籍の方の職務質問では、在留カードの提示が求められます。入管法23条は在留カード等の携帯と提示の義務を定めており、義務違反には罰則があります。携帯義務違反については同法75条の3が20万円以下の罰金を定め、提示義務違反については同法75条の2が1年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金を定めています。提示を拒む態度が、より重い罰則の対象になっている点に注意が必要です。
警察庁の令和7年の統計では、入管法違反の検挙人員は3,349人で、内訳は不法残留2,779人、偽造在留カード所持等191人、資格外活動等160人、旅券等不携帯・提示拒否70人でした。職務質問の場面から公務執行妨害と入管法違反が同時に立件されることは実際に起こります。
刑事処分は在留資格にこう跳ね返ります
公務執行妨害で在留に直結する分岐点は、実刑となる拘禁刑の長さです。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により刑の全部の執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予でも実際に服する部分が1年以下であれば同様です。
ただし、身体拘束が長引けば在留期間の満了日を過ぎ、同法24条4号ロの不法残留の問題が生じます。また同法22条の4は、当該在留資格に応じた活動を3か月以上行わないで在留していることを取消事由の一つとしています。
退去強制事由に該当した場合には、同法50条の在留特別許可を求める道があります。同条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間などを考慮要素として定め、2024年6月改定のガイドラインが現行の運用です。不許可の場合は同条10項により理由を付記した書面が交付されます。
よくある誤解
- 何もしていないのだから、その場を立ち去ってよい。任意である以上、法律上は応じる義務がない場面もありますが、実際には制止され、その過程で新たな事件が生まれます。冷静に対応し、後から適法性を争う方が現実的です。
- 相手の身体に触れていないから暴行ではない。刑法95条1項の暴行は、公務員の身体に直接向けられたものに限られないと理解されています。
- 警察官が先に手を出したのだから正当防衛だ。職務行為の適法性は独立して判断され、抵抗が正当化されるかは慎重な検討を要します。
- 在留カードを見せなくても罰金で済む。提示義務違反については入管法75条の2が1年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金を定めています。
その場と、その後にできること
- 取調べでは刑事訴訟法198条2項により黙秘権が告知されます。供述する義務はありません
- 供述調書は同法198条4項により読み聞かせを受け、事実と違えば増減変更を申し立てられます。通訳を介する場合、同法175条・178条により通訳と翻訳が予定されており、署名の前に全文の読み上げを求めてください
- 弁護人は同法39条1項により立会人なしで面会できます。勾留の理由に納得できなければ、同法82条以下の勾留理由開示を請求できます
- 領事関係に関するウィーン条約36条により、希望すれば本国領事館への通報と領事面会を求められます
- 現場付近の防犯カメラや同行者の連絡先など、失われやすい資料を早期に確保する
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、ベトナム語を含むその他の言語については、事案に応じて通訳人を手配します。警察庁の令和7年確定値によれば、来日外国人の総検挙人員12,777人のうちベトナム国籍は4,167人で32.6%を占めており、通訳を要する事件の中心的な言語のひとつです。
公務執行妨害の事件では、職務行為の適法性と有形力の評価という二つの論点を、現場の具体的事情に即して詰める作業が中心です。当事務所は執行猶予判決で足りるとは考えず、不起訴処分の獲得を最優先の目標としています。あわせて、刑事事件と入管手続を一体として設計します。刑事の供述調書が違反審査や口頭審理の資料になるため、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う視点が必要になるからです。初回相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
終わりにあたって
公務執行妨害の事件は、数十秒の出来事が刑事記録として固定される類型です。その数十秒を、誰がどこに立ち、何を言い、どちらが先に動いたかというレベルまで再現できるかどうかで結論が変わります。記憶が新しいうちに整理しておくことが、後の主張を支えます。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099175/
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