薬物事件と送還|刑事事件が終わった後に始まる退去強制手続
2026/09/02
刑事裁判が終わったのに、いつ帰ってくるのか分からない。母国のご家族から、こうしたご相談をいただくことがあります。薬物事件では、刑事手続の終わりが手続全体の終わりではありません。判決の後、あるいは不起訴で釈放された後に、入管の手続が始まるからです。
この構造を知らないまま刑事手続だけを見ていると、いつ、どこで、何が決まるのかが分からなくなります。収容されるのか、いつまで収容されるのか、費用は誰が負担するのか、そして将来また日本に来られるのか。これらはすべて別々の条文で決まっています。
この記事では、薬物事件が退去強制手続へ移る仕組みと、その後に何が起きるのかを、時間の流れに沿って説明します。
薬物事件では、刑事の結果にかかわらず入管手続が始まります
薬物事件で退去強制手続が始まる根拠は、出入国管理及び難民認定法24条4号チです。この規定は、麻薬、大麻、あへん、覚醒剤等に関する法令に違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由としています。実刑か執行猶予か罰金かを問わず、刑の免除であっても該当します。
同法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としつつ、但書で全部執行猶予の場合を除外しています。しかし4号リの柱書はニからチまでに掲げる者のほかと書かれており、薬物は最初から4号リの対象外です。執行猶予による除外は、薬物事件には及びません。
また、この規定は在留資格の種別を問いません。永住者であっても、日本人の配偶者等であっても、定住者であっても、形式的には該当します。
出国命令という簡易な手続は選べません
薬物事件では、退去強制手続のうち負担の軽い出国命令制度を使うことができません。入管法24条の3は出国命令の要件を定めており、その一つが、24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことです。4号チはこの範囲に含まれるためです。
出国命令には他にも、速やかに出国する意思をもって自ら出頭したこと、不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと、過去に退去強制されたことや出国命令により出国したことがないこと、速やかに出国することが確実と見込まれることという要件があります。薬物事件の方は、この制度の入口に立てません。したがって、退去強制手続を正面から進めることになります。
収容されるのか、収容されないのか
退去強制手続では収容が原則とされてきましたが、現在は監理措置という選択肢があります。入管法50条2項は、収容令書により収容されている者と、監理措置決定を受けた者に在留特別許可の申請権を認めており、収容されていない状態で手続を進める余地があります。
入管庁の統計によれば、令和6年6月10日から同年末までの監理措置の決定は1,123件で、内訳は退去強制令書発付前が647件、発付後が476件でした。同じ期間の仮放免は127件です。監理人の9割以上は親族や知人であり、この期間の所在不明者はゼロと報告されています。監理人となる方の存在は、手続の進め方に現実的な影響を与えます。
送還はどのように行われるか
送還には複数の形があり、費用の負担者と手続の重さが異なります。入管庁の令和7年の統計では、退去強制令書による送還は7,563人で、その内訳は自費出国6,677人、護送官が付かない国費送還505人、護送官が付く国費送還318人でした。護送官付きの国費送還は過去最高の数字です。出国命令による出国は9,789人でした。
同じ年の入管法違反事件で退去強制手続又は出国命令手続が執られた人は18,442人で、国籍別ではベトナム6,599人、タイ3,600人、中国1,653人に続き、インドネシアが1,555人でした。退去強制事由別で見ると、不法残留が17,031人と92.3%を占め、刑罰法令違反は503人です。数の上では薬物事件は少数ですが、手続の重さは大きく異なります。
在留特別許可という例外の入口
退去強制事由に該当しても、入管法50条の在留特別許可を求める道は残されています。ここで重要なのは、同条1項の但書に列挙された類型の中に、24条4号チが含まれていないことです。無期又は1年を超える実刑でなければ、加重された要件は課されません。
判断の枠組みは同条5項に定められており、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間その他の事情が考慮されます。2024年6月改定のガイドラインが現行の運用です。不許可の場合、同条10項により理由を付記した書面が交付されます。なお同条3項により、退去強制令書が発付された後は申請できません。
入管庁の令和7年の統計では、在留特別許可の申請は2,424件、許可は1,026件、不許可は1,233件でした。可能性はありますが、容易ではありません。日本人や永住者の配偶者・子がいるか、在留期間はどれだけか、素行に関する事情をどう説明できるかを、資料に基づいて主張する必要があります。
もう一度日本に来られるのか
再入国については、入管法5条1項5号が大きな壁になります。この号は、麻薬等に関する法令違反により刑に処せられたことのある者を上陸拒否事由としており、年限の定めがありません。同項9号のイ・ロ・ハが退去強制歴に応じて1年、5年、10年と定め、9号の2が出国命令による出国について1年と定めているのとは、構造が違います。
罰金であっても足り、外国の法令による処罰であっても足ります。残る手段は入管法12条1項の上陸特別許可のみで、これは法務大臣の裁量による例外的な措置です。日本に家族がいる、事業があるといった事情があっても、当然に認められるものではありません。
よくある誤解
- 執行猶予になれば送還されない。24条4号リの但書は薬物には及びません。
- 不起訴になれば入管手続はない。有罪判決を受けていなければ24条4号チには該当しませんが、在留期間の満了や在留資格に応じた活動の中断など、別の事由が問題になることがあります。
- 自分で航空券を買って帰れば記録は残らない。自費出国も退去強制令書による送還であり、上陸拒否の対象になります。
- 数年待てばまた入国できる。5条1項5号には年限がありません。
ご家族ができること
- 本人の在留カードと旅券、在留期間の満了日を確認する
- 監理人となり得る方(親族、知人、勤務先の関係者)の有無と、その方の連絡先を整理する
- 領事関係に関するウィーン条約36条により、本人が希望すれば本国領事館への通報と領事面会を求められます
- 刑事手続の段階から、取調べで何をどう述べたかを把握しておく。刑事訴訟法198条4項により調書は読み聞かせを受けられ、事実と違えば増減変更を申し立てられます。この調書が入管の違反審査や口頭審理でも読まれます
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、インドネシア語を含むその他の言語については、事案に応じて通訳人を手配します。
薬物事件では、執行猶予判決を得ることでは在留の問題が解決しないため、不起訴処分の獲得を最優先の目標としています。所持や使用の認識、共犯とされる者との関係、押収手続の適法性といった点を初期から検討します。あわせて、刑事事件と入管手続を一体として設計します。退去強制事由の該当性についても、故意や過失の有無を争う視点を持つ必要があるためです。初回相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
最後にお伝えしたいこと
薬物事件では、刑事処分が確定した時点でようやく折り返し地点に立ったにすぎません。その先に、収容、違反審査、口頭審理、在留特別許可という別の道のりがあります。刑事弁護の段階で入管手続の見通しを立てておくことが、選択肢を残す唯一の方法です。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のインドネシア語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099173/
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