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薬物事件はなぜ執行猶予でも在留を失うのか|入管法24条4号チ

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薬物事件はなぜ執行猶予でも在留を失うのか|入管法24条4号チ

薬物事件はなぜ執行猶予でも在留を失うのか|入管法24条4号チ

2026/09/02

執行猶予がついたのだから、日本にいられる。薬物事件でこう考えている方は少なくありません。他の犯罪であれば、その理解はおおむね正しいものです。しかし薬物事件に限っては、この前提が成り立ちません。

理由は条文の作りにあります。出入国管理及び難民認定法24条は退去強制事由を列挙していますが、薬物犯罪は他の犯罪とは別の号に置かれ、刑の重さを条件としていないのです。罰金でも、執行猶予でも、刑の免除であっても該当します。この構造を知らないまま刑事手続だけを進めると、執行猶予判決を得て安心した数週間後に、入管の収容令書が出るという事態になります。

この記事では、薬物事件が他の犯罪とどう違うのか、再入国はできるのか、そして弁護の目標をどこに置くべきかを条文に沿って説明します。

24条4号リと24条4号チは、まったく別の規定です

薬物事件の在留リスクを決めているのは、24条4号リではなく24条4号チです。24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としており、この号には但書があって、刑の全部の執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予でも実際に服する部分が1年以下であれば同様です。ここまでは、多くの犯罪に共通する話です。

ところが24条4号リの柱書は、ニからチまでに掲げる者のほか、という書き方をしています。つまり、4号チに当たる者は、はじめから4号リの守備範囲の外にあります。薬物犯罪について執行猶予の除外規定を探しても、そこには書かれていないのです。

4号チが定めているのは、刑の重さではなく有罪であることです

24条4号チは、麻薬、大麻、あへん、覚醒剤等に関する法令に違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由とします。判決の内容が拘禁刑の実刑であるか、執行猶予であるか、罰金であるか、あるいは刑の免除であるかを問いません。有罪であること自体が要件です。

さらに、この規定は在留資格の種類を問いません。24条4号の2のように別表第一に限定されておらず、永住者であっても、日本人の配偶者等であっても、定住者であっても、形式的には該当します。永住許可を得ているから大丈夫だ、という理解は成り立ちません。

令和6年12月に薬物法制が大きく変わりました

大麻に関する規制は、令和6年12月12日施行の改正で構造が変わりました。大麻取締法は大麻草の栽培の規制に関する法律に改称され、大麻は麻薬及び向精神薬取締法上の麻薬として扱われることになりました。あわせて使用罪が新設され、麻薬及び向精神薬取締法66条の2により7年以下の拘禁刑が定められています。単純所持の法定刑も5年以下から7年以下へ引き上げられました。

他方で、エトミデート等の指定薬物は医薬品医療機器等法による規制であり、入管法24条4号チが列挙する罪名には当たりません。すべての薬物関連事件が同じ帰結になるわけではなく、どの法令のどの条文で立件されているかの確認が出発点になります。

いったん退去強制されると、再入国の壁は非常に高くなります

薬物事件の影響は、日本を離れた後にも続きます。入管法5条1項5号は、麻薬等に関する法令違反により刑に処せられたことのある者を上陸拒否事由としていますが、この号には年限の定めがありません。9号のように1年、5年、10年といった期間が定められていないため、期間の経過による自動的な解消がないのです。罰金であっても、また外国の法令による処罰であっても足ります。

この場合に残る手段は、入管法12条1項の上陸特別許可のみです。法務大臣の裁量による例外的な措置であり、家族が日本にいる、事業を営んでいるといった事情があっても、当然に認められるものではありません。

出国命令という簡易な出口も使えません

薬物事件では、退去強制手続の中でも負担の軽い出国命令制度を利用できません。入管法24条の3は出国命令の要件を定めていますが、そのひとつに、24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことという条件があります。4号チはこの範囲に含まれるため、薬物該当者は出国命令の対象から外れます。

出国命令であれば上陸拒否期間は1年(入管法5条1項9号の2)ですが、退去強制令書による送還では、5条1項9号に従い1年、5年、10年と重くなります。もっとも薬物事件では5条1項5号が別に働くため、いずれにせよ期間の定めのない上陸拒否の問題が残ります。

他方、在留特別許可については、入管法50条1項の但書に列挙された類型に4号チは含まれていません。無期又は1年を超える実刑でなければ加重された要件は課されず、同条5項が定める考慮要素、すなわち在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間などに即した主張が可能です。2024年6月改定のガイドラインが現行の運用であり、不許可の場合は同条10項により理由を付記した書面が交付されます。

統計が示しているのは、刑事と入管のずれです

令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の全部執行猶予率は大麻で84.2%、覚醒剤で36.0%でした。大麻事犯の多くが執行猶予で終わっているという意味です。同じ資料の起訴猶予率は、大麻35.5%、覚醒剤8.5%、麻薬15.9%、麻薬特例法52.5%です。

この二つを並べると、弁護の目標がどこにあるべきかが見えてきます。執行猶予は珍しい結果ではありませんが、24条4号チは有罪であること自体を要件とするため、執行猶予では在留の問題は解決しません。在留を維持する可能性を残す唯一の入口は、起訴猶予を含む不起訴処分です。

よくある誤解

  • 執行猶予なら在留に影響しない。24条4号リの但書は薬物には及びません。
  • 使っただけで持っていないから軽い。令和6年12月12日以降、大麻については麻薬及び向精神薬取締法66条の2の使用罪があります。
  • 永住者だから退去強制にはならない。24条4号チは在留資格の別表を問いません。
  • 罰金で終われば前科にならない。罰金も前科であり、24条4号チでは刑の軽重を問いません。
  • いったん帰国しても、しばらく待てばまた来られる。5条1項5号には年限がなく、12条1項の上陸特別許可によるほかありません。

ご本人とご家族ができること

  • 取調べでは、刑事訴訟法198条2項により黙秘権が告知されます。所持や使用の認識、入手の経緯についての供述は、後に24条4号チの該当性判断や在留特別許可の判断でも読まれます
  • 供述調書は同法198条4項により読み聞かせを受け、事実と違えば増減変更を申し立てることができます。通訳を介する場合は、署名の前に全文の読み上げを求めてください
  • 弁護人は同法39条1項により、立会人なしで面会できます
  • 領事関係に関するウィーン条約36条により、希望すれば本国領事館への通報と領事面会を求められます
  • 在留期間の満了日を確認してください。身体拘束中は更新申請ができず、満了すれば24条4号ロの不法残留の問題が重なります

当事務所の対応

舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、タガログ語や英語を含むその他の言語については、事案に応じて通訳人を手配します。

薬物事件では、執行猶予判決を得ることをもって十分とは考えません。不起訴処分の獲得を最優先の目標とし、所持や使用の認識、共犯とされる者との関係、押収手続の適法性といった点を初期から検討します。あわせて、刑事事件と入管手続を一体として設計します。刑事の供述調書が違反審査や口頭審理の資料になるため、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争うという視点が必要になるからです。初回相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。

結びに

薬物事件は、刑事の結果と在留の結果が最も大きく食い違う分野です。判決の言渡しを聞いて安心した時点では、入管手続はまだ始まってすらいません。刑事弁護の方針を立てる段階で、在留の帰結まで見通しておくことが不可欠です。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119

この記事のタガログ語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099167/

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