痴漢で逮捕され否認する場合|身体拘束の長期化と在留期限のリスク
2026/09/02
やっていないのに、駅の事務室に連れて行かれた。認めれば今日のうちに帰れると言われたが、そのとおりにしてよいのか。痴漢事件でご家族から寄せられるご相談は、ほとんどがこの一点から始まります。
否認するかどうかは、本来は事実に従って決まる問題です。ところが外国籍の方の場合、そこに日本人の被疑者にはない事情が重なります。否認すれば身体拘束が長引き、その間に在留期間の満了日が来てしまう、という時間の問題です。刑事事件としては争う価値があっても、在留を失っては元も子もありません。
この記事では、痴漢事件がどの法令で立件されるのか、否認事件で勾留が長期化する仕組み、その拘束が在留にどう波及するのか、そして有罪となった場合に何が起きるのかを、条文に即して整理します。
痴漢は二つの異なる法令のいずれかで立件されます
まず確認すべきは、どちらの法令で立件されているかです。衣服の上から触れたとされる事案の多くは、各都道府県が定める迷惑防止条例違反として扱われます。他方、衣服の中に手を入れた、下着に直接触れたといった事案では、刑法176条の不同意わいせつ罪として立件されることがあります。両者は法定刑も、身体拘束の見通しも、後の在留への影響も大きく異なります。
ご本人は、自分がどちらで捜査されているのかを知らないまま取調べを受けていることが少なくありません。逮捕状や勾留状に記載された罪名は必ず確認すべき事項です。弁護人がついていれば、初回の接見でこの点を明らかにし、見通しを説明することができます。
否認すると身体拘束が長引くのはなぜか
否認事件で勾留が長期化する主な理由は、罪証隠滅のおそれという勾留の要件です。捜査機関は、被疑者が被害者や目撃者に接触する可能性、車内の状況について供述を変える可能性を挙げて勾留を請求します。裁判官が認めれば原則10日間、延長されればさらに最大10日間、逮捕からの時間を含めて最大23日間の拘束になります。
否認事件ではあわせて接見等禁止の決定が付されることが多く、その場合、ご家族や勤務先の方は面会も手紙のやり取りもできません。この状況で外部と連絡が取れるのは弁護人だけです。刑事訴訟法39条1項は、弁護人が立会人なしに被疑者と面会する権利を定めており、接見等禁止の決定はこの権利には及びません。ご家族への伝言、勤務先への連絡、在留期間の確認といった実務は、この接見を通じて動かすことになります。
取調べで手放してはならない手続上の権利
否認を維持するうえで決定的なのは、調書に何が残るかです。刑事訴訟法198条2項により、取調べに先立って黙秘権が告知されます。供述する義務はありません。作成された供述調書は同法198条4項により読み聞かせを受けることができ、内容が事実と違えば増減変更を申し立てられます。署名押印を拒むこともできます。
日本語で行われる取調べについては、同法175条・178条により通訳と翻訳の手当てが予定されています。自由権規約14条3項(a)(f)も、罪の内容を理解できる言語で告げられる権利と、通訳を無償で付される権利を定めています。日本語の調書に署名する前に、通訳人を通じて全文を読み上げてもらってください。一定の事件では同法301条の2により取調べの録音録画が義務づけられています。
身体拘束が在留期限を食いつぶすという問題
外国籍の否認事件で最も見落とされやすいのは、在留期間の満了日です。勾留中は自ら入国管理官署に出向くことができず、在留期間更新の申請ができません。満了日を過ぎれば、出入国管理及び難民認定法24条4号ロの不法残留に該当し得ます。刑事事件で無罪を争っている最中に、別の理由で退去強制手続が始まるという事態が現実に起こり得ます。
もう一つは在留資格の取消しです。同法22条の4は、当該在留資格に応じた活動を3か月以上行わないで在留していることを取消事由の一つとしています。正当な理由がある場合は除かれますが、留学生が長期間登校できない、技能実習生が就労できないという状態が続けば、受入れ機関からの連絡によって入管が事態を把握することになります。入管庁の令和7年の統計では、在留資格の取消しは1,446件で、在留資格別では技能実習973件、留学343件でした。
したがって、否認事件の弁護活動では、勾留の裁判に対する準抗告や勾留理由開示の請求といった刑事手続上の対応と並行して、在留期間の満了日を起点にした逆算が必要になります。
有罪となった場合、在留にどう跳ね返るか
有罪となっても、それだけで直ちに在留資格を失うわけではありません。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、同号の但書により、刑の全部の執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予でも実際に服する部分が1年以下であれば同様です。
退去強制事由に該当した場合でも、同法50条の在留特別許可の申請という道があります。同条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間などを考慮要素として定めています。2024年6月改定のガイドラインが現行の運用です。もっとも、入管庁の令和7年の統計では在留特別許可の申請2,424件に対し許可は1,026件であり、容易な手続ではありません。
よくある誤解
- 認めれば今日帰れる、という誤解。事実を認める調書が作られれば、その調書は刑事処分だけでなく、後の違反審査や口頭審理でも用いられます。短期的な釈放と引き換えに、在留に関する主張の余地を失うことがあります。
- 罰金で終わるなら在留に影響しない、という誤解。罰金でも前科は残り、在留期間の更新や永住許可の素行要件、国籍法5条1項3号の帰化の素行要件で考慮されます。
- 裁判で通訳が付くから日本語が分からなくても不利にならない、という誤解。裁判所法74条により法廷では日本語が用いられ、通訳を介した審理になります。最高裁判所の資料(あなたも法廷通訳を ごぞんじですか、令和7年1月版)によれば、令和5年に通訳を要した事件の終局被告人は3,851人、うち中国語が16.1%を占めました。通訳は権利ですが、供述の正確さを担保するのは事前の準備です。
ご家族と勤務先ができること
- 在留カードと旅券を確保し、在留期間の満了日を確認する
- 勤務先や学校に対し、無断欠勤・無断欠席ではないことを説明できる体制をつくる
- 領事関係に関するウィーン条約36条に基づき、本人が希望すれば本国領事館への通報と領事面会を求められることを伝える
- 所属機関の変更が生じた場合は、入管法19条の16・19条の17の14日以内の届出義務を確認する
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、その他の言語については事案に応じて通訳人を手配します。
否認事件では、初期段階での見立てと、身体拘束を短くするための働きかけが結果を左右します。当事務所は、執行猶予判決で足りるとは考えず、不起訴処分の獲得を最優先の目標としています。同時に、刑事事件と入管手続を一体として設計します。刑事の供述調書が違反審査や口頭審理の資料になる以上、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う視点を初期から持つ必要があるためです。初回相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
まとめに代えて
痴漢事件の否認は、事実の問題であると同時に時間の問題です。刑事手続の見通しと、在留期間という別の期限を同じ図面の上に置いて考えなければ、一方を守って他方を失うことになります。本記事は一般的な解説にとどまりますので、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事の簡体字中国語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099163/
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