傷害・暴行で逮捕されたら|同居人や同僚とのトラブルと在留への影響
2026/09/02
寮の部屋で同居人と口論になり、突き飛ばしたところ相手が転倒して手首を骨折した。職場の休憩室で言い争いになり、胸ぐらをつかんだところを同僚に止められ、数日後に警察官が勤務先を訪ねてきた。傷害や暴行の事件は、こうした日常の延長線上で、前触れなく始まります。
ご本人やご家族から最初に受ける質問は、けがの程度そのものよりも、この件で在留資格を失うのではないか、次の更新が不許可になるのではないか、という点に集中します。刑事手続と入管手続は制度としては別ですが、切り離して考えることはできません。刑事の取調べで作られた供述調書が、後の違反審査や口頭審理で読まれる資料になるからです。
この記事では、傷害罪と暴行罪の分かれ目、示談が果たす役割、そして刑事処分が在留にどう跳ね返るかを条文に沿って整理します。
傷害と暴行を分けるのは、けがという結果です
両者を分ける基準は、有形力の行使によって相手の生理的機能に障害が生じたかどうかです。刑法208条の暴行罪は、人の身体に対する不法な有形力の行使そのものを処罰する規定で、相手にけががなくても成立します。これに対して刑法204条の傷害罪は、その行為によってけがが生じた場合に成立します。
実務では、押した力そのものは強くなくても、相手が転倒して骨折すれば傷害として立件されます。診断書に書かれた傷病名と全治期間、実際の通院回数は、罪名の選択にも、後の処分の重さにも直結します。取調べで示された診断内容が自分の記憶と食い違うときは、その場で黙って受け入れないことが重要です。
逮捕された後、処分が決まるまでの時間
身柄事件では、処分が決まるまでに最大23日間の身体拘束が予定されています。逮捕後、警察は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断します。裁判官が勾留を認めれば原則10日間、延長されればさらに最大10日間が加算されます。この間に示談も、在留期間の管理も進めなければなりません。
この期間、弁護人は刑事訴訟法39条1項の接見交通権に基づき、立会人なしでご本人と面会できます。勾留の理由に納得できない場合には、同法82条以下の勾留理由開示を請求することもできます。日本語での取調べに不安があるときは、同法175条・178条により通訳人と翻訳が用意され、供述調書は同法198条4項によって読み聞かせを受け、内容が違えば増減変更を申し立てられます。同法198条2項により黙秘権も告知されます。
傷害事件の起訴率は、統計上は高い方ではありません
傷害は、起訴率という数字だけを見れば他の罪名より低い部類に入ります。令和7年版犯罪白書に掲載された令和6年の数値では、傷害の起訴率は来日外国人の被疑事件で25.69%、全体で28.86%でした。同じ資料で来日外国人被疑事件の起訴率は全体平均44.28%、日本人を含む全体では40.38%ですから、傷害は平均を大きく下回っています。
ここでいう来日外国人とは、永住者、永住者の配偶者等、特別永住者、在日米軍関係者、在留資格不明者を除いた定義です。警察庁の令和7年確定値によれば、来日外国人の総検挙人員は12,777人で、うちネパール国籍は452人でした。低い起訴率は安心材料ではなく、被害者との関係をどう解決したかで結論が分かれやすい罪名だ、という意味に読むべき数字です。
示談は、単にお金を払うことではありません
示談が不起訴に結びつくのは、被害の回復と、被害者の処罰意思の消滅という二つの事情を検察官に示せるからです。傷害罪や暴行罪は告訴がなくても起訴できる非親告罪ですが、被害者が処罰を望まないという意思表示は、起訴猶予の判断で重く扱われます。
もっとも、本人やご家族が直接被害者に連絡を取ることは逆効果になります。証拠隠滅や被害者への働きかけを疑われ、勾留が続く理由にされかねません。弁護人が検察官を通じて連絡先の開示を受け、謝罪の意思、治療費と休業損害の負担、再発防止の約束を書面にまとめる手順を踏みます。相手が同居人や同僚の場合は、住まいをどう分けるか、勤務シフトをどう調整するかといった現実的な取り決めが、示談の成否を左右します。
刑事処分は在留資格にこう跳ね返ります
傷害・暴行で在留に直結する分岐点は、言い渡された拘禁刑が実刑かどうか、そしてその長さです。出入国管理及び難民認定法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としています。ただし同号には但書があり、刑の全部の執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予の場合も、実際に服する部分が1年以下であれば同様です。執行猶予でも直ちに退去強制になる、という説明は正確ではありません。
形式的に退去強制事由に該当しても、同法50条の在留特別許可という道があります。同条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間などを考慮要素として法定しており、2024年6月に改定されたガイドラインが現行の運用です。不許可の場合は同条10項により理由を付記した書面が交付されます。
実際にはより身近なリスクがあります。身体拘束中に在留期間が満了してしまうことです。更新申請ができないまま満了日を過ぎれば、同法24条4号ロの不法残留に該当し得ます。勾留が長引きそうな事件では、刑事弁護と並行して在留期間を管理する必要があります。
相談の場でよく訂正する三つの誤解
次の三点は、繰り返し説明している内容です。
- 罰金なら在留に影響しない、という理解。罰金でも前科は残り、在留期間の更新や永住許可の素行要件、国籍法5条1項3号の帰化の素行要件で考慮されます。薬物事犯であれば罰金でも入管法24条4号チに該当します。
- 相手が友人だから被害届は出ない、という見込み。傷害罪は非親告罪であり、治療した病院から警察に届出がなされる経路もあります。
- 否認すると不利になるから、とりあえず認めておくという判断。事実と違う調書は、刑事の量刑だけでなく、後の入管手続でも不利な資料として残り続けます。
ご家族と勤務先が今できること
最も有効なのは、身元引受けと生活環境の整理を早い段階で形にすることです。具体的には次のような準備が考えられます。
- 同居や勤務を続ける場合の再発防止策を、口頭ではなく書面にして示す
- 在留カード、旅券、雇用契約書、在留期間の満了日が分かる資料を集めておく
- 母国のご家族と連絡が取れるようにしておく。領事関係に関するウィーン条約36条により、本人が希望すれば本国領事館への通報と領事面会を求めることができます
- 転職や退職など所属機関に変更が生じていないか確認する。入管法19条の16・19条の17は14日以内の届出を義務づけています
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、その他の言語については事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針として、執行猶予判決を得ることをもって十分とは考えず、不起訴処分の獲得を最優先の目標に置いています。傷害・暴行の事件では、示談交渉の内容と時期がその成否を大きく左右します。あわせて、刑事事件と入管手続を一体のものとして設計します。刑事の供述調書が後の違反審査や口頭審理の資料になる以上、退去強制事由への該当性についても、故意や過失の有無を争うという視点をあらかじめ持っておく必要があるためです。初回相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
おわりに
傷害・暴行の事件では、被害者との関係、身体拘束の長さ、在留期間の満了日という三つの時計が同時に動いています。どれか一つを止め損ねると、刑事処分は軽く済んだのに在留は失う、という結果になりかねません。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のネパール語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099161/
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