口座を貸しただけのつもりが詐欺の共犯とされたら|外国人の刑事弁護と在留への影響
2026/09/02
警察から連絡があり、あなた名義の口座が特殊詐欺の被害金の送金先に使われていたと告げられる。思い当たるのは、知人に頼まれて通帳とキャッシュカードを手渡したことくらいである。ところが、逮捕状に書かれた被疑事実は詐欺の共犯であった。外国籍の方のご相談で繰り返し現れる形である。
口座を渡した側の実感は、たいてい“貸しただけ”である。しかし刑事手続の中で、その実感はそのままでは通用しない。渡した経緯、受け取った金額、やり取りの言葉の一つひとつが、共謀を認定する材料として読まれていく。この記事では、口座の提供がどの条文に触れるのか、なぜ詐欺の共犯にまで発展するのか、取調べでの供述がなぜ後戻りしにくいのか、そして刑事処分が在留資格にどう跳ね返るのかを順に整理する。
通帳やキャッシュカードを渡す行為それ自体が処罰の対象になる
口座を他人に渡す行為は、詐欺とは別に、それ自体で犯罪となり得る。犯罪による収益の移転防止に関する法律28条は、預貯金通帳やキャッシュカード、預貯金の引出しに必要な情報などを、有償で譲り受け、又は譲り渡す行為等を処罰の対象としている。相手が口座を何に使うのかを知らなかったとしても、報酬を受けて渡せば、この条文の問題が正面から生じる。
“一度も引き出していない”“暗証番号は教えていない”という説明は、詐欺の成否には影響し得るが、口座を渡した事実自体を消すものではない。口座の提供という行為と、詐欺の共犯という評価とを切り分けて理解する必要がある。
なぜ詐欺の共犯とまで言われるのか
捜査機関が詐欺の共犯を疑うのは、口座の提供者が犯行の一部を分担したと評価できる事情が積み上がるからである。共犯として処罰されるために、確定的に詐欺に使われると分かっていた必要はなく、そうであっても構わないと考えていた、いわゆる未必の故意があれば足りるとされている。
実務上、次の事情が重なると未必の故意があったと構成されやすい。相場を大きく超える謝礼。交流サイトを通じて面識のない相手とつながったこと。身分証の画像を送るよう求められたこと。複数の口座をまとめて渡したこと。逆にこうした事情がなく、生活上の必要から家族に預けたにすぎないのであれば、その経緯を早期に資料とともに記録化することが防御の中心になる。
取調べでの一言が、後から取り返しのつかない証拠になる
この類型では、供述調書の一文が結論を左右する。刑事訴訟法198条2項は、取調べに先立って供述を拒むことができる旨を告げなければならないと定めている。同条4項は、調書を読み聞かせ又は閲覧させ、増減変更の申立てがあればその内容を調書に記載しなければならないと定める。内容が違うと感じたら、その場で訂正を求めることが法律上予定されている。
言語の壁は、まさにここで最も危険に働く。裁判所法74条により法廷では日本語が用いられ、刑事訴訟法175条・178条は通訳人や翻訳人を付する手続を定める。自由権規約14条3項(a)及び(f)は、理解する言語で罪の性質を告げられる権利と、通訳の援助を無償で受ける権利を保障している。それでも、通訳を介した“はい”が、日本語の調書では“知っていました”という一文に置き換わることはある。刑事訴訟法39条1項の接見交通権に基づき、早い段階で弁護人と打ち合わせる意味はここにある。
刑事処分が在留資格にどう跳ね返るか
刑事事件の帰結は、そのまま在留の可否に直結する。出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としているが、同号には但書があり、刑の全部の執行猶予を言い渡された場合は除外される。一部執行猶予の場合も、実刑部分が1年以下であれば除外される。詐欺で有罪となっても、執行猶予が付されればこの条文で直ちに退去強制とはならない。
詐欺は、入管法24条4号の2が挙げる重大犯罪(強盗、不同意性交等、自動車運転死傷処罰法2条・6条1項の危険運転致死傷等)にも含まれていない。もっとも、これは退去強制の入口を免れるという話にとどまる。在留期間の更新や在留資格の変更は別個の審査であり、素行は正面から考慮される。長期の身柄拘束で勤務先を失えば、入管法22条の4による在留資格の取消し(在留資格に応じた活動を3か月以上行わないで在留していること等)の問題も生じる。
相談の場でよく聞く誤解
第1に、口座を貸しただけだから自分は被害者だ、という理解である。前記28条を知らないまま被害届を出しに行き、事情聴取に移行する例がある。
第2に、お金を受け取っていないから共犯ではない、という理解である。報酬の有無は未必の故意を推認する事情の一つにすぎない。
第3に、執行猶予がつけば在留は元どおりになる、という理解である。入管法24条4号リ但書によって退去強制事由からは外れるが、更新審査における評価は別である。
第4に、否認すると勾留が長引くのでとりあえず認めておく、という判断である。いったん署名した調書は、後から気持ちが変わったという理由では動かない。なお令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の詐欺の起訴率は来日外国人被疑事件で53.35%、全体で51.42%である。ここでいう来日外国人とは、永住者、永住者の配偶者等、特別永住者、在日米軍関係者及び在留資格不明者を除く定義である。
ご本人とご家族が今できること
ご本人としては、供述を拒む権利があることを思い出し、理解できない言語の書面に署名しないことである。弁護人が選任されれば、接見を通じて事実関係を整理し、通訳の正確性も確認できる。
ご家族の側では、口座開設当時の経緯を示す資料、入出金の記録、相手方とのメッセージ、勤務先との雇用関係を示す書類を保存しておきたい。いずれも未必の故意を争う材料になる。被害者が判明していれば、被害弁償や示談の可能性を早期に検討する意味も大きい。あわせて、入管法19条の16・19条の17の所属機関等に関する届出(14日以内)や、同法23条の在留カードの携帯・提示義務を止めないことも重要である。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応する。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、その他の言語については事案に応じて通訳人を手配する。
方針としては、執行猶予判決ではなお不十分と考え、不起訴処分の獲得を最優先の目標に置いている。刑事事件と入管手続は一体として設計する必要があり、刑事の供述調書は後の違反審査や口頭審理の資料として用いられ得る。退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う。初回相談は無料であり、微信(WeChat)ID matsumura1119 からもご連絡いただける。
おわりに
口座を渡した経緯には、その人の生活の事情がある。それを言葉にして記録に残せるかどうかで、結論は変わり得る。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談いただきたい。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099141/
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