預金口座やキャッシュカードを売った 犯罪収益移転防止法28条と在留
2026/09/02
帰国することになったので、使わなくなった口座を買い取ると言われた。アルバイトの応募先から、給与の振込用に口座を作るよう指示された。SNSで知り合った相手に、通帳とキャッシュカードを郵送した。いずれも、実際に多くうかがう経緯です。
これらに共通するのは、自分の口座をどうしようと自由だという感覚です。しかし、法律は預貯金通帳やキャッシュカードの譲渡について明文の規律を置いており、しかも事件は多くの場合そこで終わりません。この記事では、条文の構造と、捜査が広がっていく実際の流れ、そして在留への影響を説明します。
犯罪による収益の移転防止に関する法律28条という条文
預貯金通帳やキャッシュカードを他人に譲り渡す行為、他人から譲り受ける行為は、法律上の規律の対象です。犯罪による収益の移転防止に関する法律28条が、預貯金通帳等の譲受け、譲渡し等について定めています。
この規律の趣旨は、口座の名義人と実際の利用者が一致しない状態を防ぐことにあります。名義と実態が食い違う口座は、資金の流れを追跡できなくするために利用されるためです。したがって、譲り渡した後にその口座がどう使われたかを知らなかったという事情は、量刑の場面では意味を持ちますが、行為そのものの評価を当然に免れさせるものではありません。
事件はそこで終わらない 詐欺の共犯としての捜査
実務上、口座の譲渡が単独の事件として処理されることは、むしろ少ない部類に入ります。譲り渡された口座が特殊詐欺の被害金の受け皿として使われていた場合、捜査は当然にそちらへ向かいます。
そこで問われるのは、口座が何に使われるかを認識していたか、あるいは認識し得たかという点です。譲渡の対価がいくらだったか、相手方とどのようなやり取りをしていたか、複数の口座を作っていないか、といった事情が積み上げられていきます。ここで、詐欺の共犯や幇助としての立件に発展する可能性が生じます。
令和7年版犯罪白書によれば、令和6年における詐欺の起訴率は、来日外国人が53.35%、全体が51.42%でした。全体の起訴率は来日外国人が44.28%、全体が40.38%です。詐欺は、罪名別に見ても起訴率が高い部類に属します。
口座凍結という、刑事とは別の不利益
刑事手続とは別に、実生活に直ちに影響するのが口座の凍結です。金融機関が不正利用の疑いを認めた場合、当該口座の取引が停止されることがあります。給与の受取、家賃や公共料金の引落しが止まり、生活の基盤が失われます。
さらに、同一の金融機関で開設している他の口座にも影響が及ぶことがあり、新たな口座の開設が難しくなる場合もあります。刑事処分が軽く済んだとしても、この不利益は残ります。事件の全体像を考えるときには、この点も視野に入れておく必要があります。
刑事処分が在留資格にどう跳ね返るか
在留への影響は、最終的な刑の内容によって変わります。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としています。ただし但書があり、全部執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予の場合も、実刑部分が1年以下であれば同様です。
入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格をもって在留する者について、強盗、不同意性交等、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条・6条1項の危険運転致死傷、盗難特定金属製物品の処分の防止に関する法律22条等の罪により拘禁刑に処せられた場合を定めています。
ここで注意していただきたいのは、退去強制事由に該当しない場合でも、在留期間の更新や在留資格の変更の審査では素行が考慮されるという点です。留学や技術・人文知識・国際業務の在留資格で在留しておられる方にとって、更新の可否は日本での生活そのものに直結します。また、帰化を検討される場合には、国籍法5条1項3号が素行が善良であることを条件としています。刑法34条の2は刑の消滅について定めていますが、一定の期間の経過を前提とするものです。
初期にできることと、よくある誤解
- 取調べでは、記憶にないことを認めない。刑事訴訟法198条2項が黙秘権の告知を定めている
- 調書に署名する前に、事実と違う部分について増減変更を申し立てる。同条4項が定めている
- 刑事訴訟法39条1項の接見交通権に基づき、早い段階で弁護人と打ち合わせる
- 相手方とのやり取りの記録、振込の履歴など、経緯を示す資料を保全する
- 被害が生じている事案では、弁護人を通じた被害弁償の検討を早期に始める
誤解として多いのは次の四つです。第一に、自分の口座なのだから自由に処分してよいという理解です。法律上の規律が置かれています。第二に、実際には使われていないから問題ないという理解です。譲渡の行為そのものが規律の対象です。第三に、だまされて渡しただけだから被害者だという理解です。事情として主張することは重要ですが、その主張は客観的な資料によって裏づける必要があります。第四に、罰金で済めば在留に影響しないという理解です。更新審査で素行が考慮されます。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しています。
弁護方針として、執行猶予判決ではなお不十分と考え、不起訴処分を最優先の目標に据えます。この類型では、詐欺の共犯として立件されるかどうかが最大の分岐点になりますので、認識の内容を早い段階で正確に整理することを重視します。刑事の供述調書は違反審査や口頭審理の資料になりますので、刑事事件と入管手続を一体として設計します。退去強制事由の該当性についても、故意や過失を含めて争うという視点で対応します。初回相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 からもご連絡いただけます。
おわりに
口座を渡すという行為は、時間にすれば数分の出来事です。それが詐欺事件の捜査と結びつき、在留の議論にまで及ぶ。その距離の短さこそが、この類型の怖さだと考えています。心当たりのある方は、事態が広がる前に事実関係を整理しておいてください。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事の簡体字中国語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099139/
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