他人名義の在留カードを使って働いた 問われる罪と在留への影響
2026/09/02
在留期限が切れてしまい、働ける状態ではなくなった。そこへ、同じ国の出身者から、自分のカードを使えばいいと言われた。写真も似ているし、名前を覚えれば分かるはずがない。こうして始まった就労が、数か月後に発覚する。
この類型は、ひとつの行為が複数の法律に同時に触れるという点で、他の事件と性質が異なります。しかも、使った側だけでなく、貸した側、雇った側にも波及します。この記事では、誰に何の条文が問題になるのかを分けて整理し、そのうえで在留への影響を説明します。
ひとつの行為が、複数の条文に同時に触れる
他人名義の在留カードを使って就労した場合、問題になる条文は一つではありません。整理すると次のようになります。
| 立場 | 問題になり得る規律 |
|---|---|
| カードを使った本人 | 公文書の偽造・行使に関する刑法上の罪、入管法上の資格外活動、在留期限が切れていれば不法残留 |
| カードを貸した人 | 入管法73条の6・73条の7が定める在留カード等の提供に関する規律 |
| 雇った側 | 入管法73条の2の不法就労助長罪、同法24条3号の4 |
なお、在留カードは公の機関が発行する文書ですので、その偽造や、偽造された文書を真正なものとして用いる行為については、刑法上の公文書に関する罪の問題が生じ得ます。適用される規定は事案ごとに異なります。
使った本人 資格外活動と不法残留
入管法の側では、まず活動の内容が問われます。入管法24条4号イは、専ら在留資格外の活動を行っていると明らかに認められる者を退去強制事由としています。他人名義で就労している以上、自身の在留資格に応じた活動をしていないという評価に直結しやすい類型です。
また、入管法73条は資格外活動の罪を定めており、同法24条4号ヘは、73条の罪により拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としています。この号は1年という基準を置いていない点に注意が必要です。在留期限が経過していれば、24条4号ロの不法残留が併存します。刑事の側では、入管法70条1項5号が不法残留について3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金又はその併科を定めています。
さらに、入管法23条は在留カードの携帯義務と提示義務を定めており、提示義務違反については75条の2が1年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金を、携帯義務違反については75条の3が20万円以下の罰金を定めています。他人名義のカードを提示するという行為は、これらとは別に評価されます。
貸した側、雇った側にも及ぶ
カードを貸した側については、入管法73条の6・73条の7が在留カード等の提供や収受について定めていますので、その適用が問題になり得ます。
雇った側については、入管法73条の2が不法就労助長罪について、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその併科を定め、同条2項は過失がなかったことを行為者の側で示すという構造をとっています。名義が違うことに気づかなかったというだけでは足りず、確認の手順を尽くしていたと言えるかが問われます。雇用主が外国人である場合には、入管法24条3号の4も問題になります。
警察庁の統計によれば、令和7年の不法就労助長罪の検挙件数は253件、検挙人員は308人で、被雇用者である不法就労外国人475人の国籍はベトナム169人、タイ69人、インドネシア63人の順でした。また、同年の入管法違反の検挙人員3,349人のうち、偽造在留カード所持等は191人、資格外活動等は160人でした。
刑事処分が在留資格にどう跳ね返るか
この類型で在留への影響を考えるときは、二つの経路を分けて見る必要があります。
第一の経路は、刑の重さによるものです。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としつつ、但書により全部執行猶予が付された場合を除外しています。一部猶予の場合も、実刑部分が1年以下であれば同様です。
第二の経路は、刑の重さによらないものです。24条4号イは活動の実態のみで判断され、24条4号ヘは73条の罪による拘禁刑を要件としますが1年という基準がありません。24条4号ロの不法残留に至っては、刑罰を受けたかどうかを問いません。したがって、刑事で軽い処分を得たとしても、それだけで在留の問題が解消するわけではありません。
退去強制手続に進んだ場合、在留特別許可については入管法50条5項が考慮要素を定めており、2024年6月に改定されたガイドラインが現行の指針です。同条3項は、退去強制令書の発付後は申請できないと定めています。
初期にできることと、よくある誤解
- 取調べでは、記憶にないことを認めない。刑事訴訟法198条2項が黙秘権の告知を定めている
- 調書に署名する前に、事実と違う部分について増減変更を申し立てる。同条4項が定めている
- 刑事訴訟法39条1項の接見交通権に基づき、早い段階で弁護人と打ち合わせる
- 通訳の訳出に疑問があればその場で確認する。同法175条・178条が通訳と翻訳を定めている
- 貸した相手との関係、報酬の有無、雇用先の認識の程度について、正確に説明できるよう整理する
誤解として多いのは、次の四つです。第一に、本物のカードなのだから偽造ではないという理解です。名義が他人であることが問題の核心であり、真正なカードかどうかで結論が決まるわけではありません。第二に、無償で貸しただけなら罪にならないという理解です。報酬の有無は量刑の事情になり得ますが、規律の適用そのものを左右するとは限りません。第三に、雇用主が悪いのだから自分は被害者だという理解です。使った側にも別途の条文が適用されます。第四に、不起訴になれば在留も守られるという理解です。24条4号イや4号ロは刑罰を要件としていません。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、ベトナム語を含むその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針として、執行猶予判決ではなお不十分と考え、不起訴処分を最優先の目標に据えます。この類型では複数の条文が同時に問題になりますので、どの経路で在留に影響が及ぶのかを最初に整理し、刑事事件と入管手続を一体として設計します。刑事の供述調書は違反審査や口頭審理の資料になりますので、初期の供述の段階から慎重に組み立てます。退去強制事由の該当性についても、故意や過失を含めて争うという視点で対応します。初回相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 からもご連絡いただけます。
おわりに
この類型でご相談に来られる方は、在留期限が切れた後も日本で働き続けなければならない事情を抱えておられることが多いです。その事情そのものが、在留特別許可の判断において語られるべき材料になります。まずは、いま何と何が問題になっているのかを正確に把握することから始めてください。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099137/
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------