特定技能は転職できるのか 誤解が失踪を生む構造と在留への影響
2026/09/02
特定技能で働いておられる方から、同じ趣旨のご質問を繰り返しいただきます。会社を辞めたいが、辞めたら在留資格はどうなるのか。次の会社が決まるまでの空白期間は違法になるのか。監理団体や登録支援機関に相談したら、辞めたら帰国だと言われた。この三つです。
結論から申し上げると、特定技能は制度の設計として、同一の分野の範囲内での転職が想定されています。技能実習とはここが決定的に違います。しかし、その理解が不正確なまま、あるいは届出の手続が抜け落ちたまま時間が過ぎると、在留資格の取消しや不法残留につながり、最終的に刑事事件にまで発展することがあります。この記事では、その構造を条文に沿って説明します。
特定技能と技能実習は、転職についての立て付けが違う
特定技能は同一分野内での転職が制度上想定されている在留資格であり、技能実習とは前提が異なります。技能実習は、実習計画に基づいて特定の実習実施者のもとで技能を修得する仕組みであり、実習先の変更は限定された場面にとどまります。これに対して特定技能は、受入れ機関との雇用契約に基づく就労であり、同じ分野の中で別の受入れ機関に移ること自体は排除されていません。
ただし、移れば自動的に在留が続くわけではありません。新しい受入れ機関との契約に基づいて必要な手続を行うことが前提であり、その手続が済むまでの間、以前の在留資格に応じた活動を行っていない状態が続くことになります。ここが次の項目につながります。
3か月以上の活動不行為は、在留資格の取消しの対象になる
入管法22条の4は、在留資格の取消しについて定めており、その典型のひとつが、正当な理由がある場合を除き、当該在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行わないで在留していることです。ここに正当な理由の余地が置かれていることは重要で、転職活動中であることや、受入れ機関の側の事情で契約が終了したことなどは、事情として説明の対象になります。
同条には、虚偽の申請によって上陸許可等を受けた場合や、住居地の届出義務に違反した場合についての規定も置かれています。
出入国在留管理庁の統計によれば、令和7年の在留資格の取消しは1,446件で、在留資格別では技能実習が973件、留学が343件でした。取消しは、決して例外的な処分ではありません。
届出を14日以内に行う ここが抜けやすい
入管法19条の16と19条の17は、所属機関等に関する届出について定めており、契約機関の変更等については14日以内という期限が置かれています。退職した日、新しい契約を締結した日を起点として、期限内に届け出ることが必要です。
実務では、この届出が抜けている例が非常に多い。会社が代わりに出してくれると思い込んでいる、次の就職先が決まってからまとめて出せばよいと考えている、というのが理由です。届出は本人の義務ですので、次が決まっていない段階でも必要です。
誤解が失踪を生み、失踪が刑事事件を生む
ここが本題です。転職できないと思い込んだ方が、職場を離れて連絡を絶ってしまう。これがいわゆる失踪です。出入国在留管理庁の令和7年速報値によれば、技能実習の失踪者は3,950人で、国籍別ではベトナム2,593人(65.6%)、インドネシア444人、ミャンマー398人、カンボジア195人、中国137人の順でした。
いったん所在が分からなくなると、在留期間の更新ができず、期限が過ぎれば入管法24条4号ロの不法残留に該当します。刑事の側では、入管法70条1項5号が不法残留について3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金又はその併科を定めています。同項1号は不法入国について同様の法定刑を定めています。
また、在留資格の範囲外の仕事に就いた場合には、専ら在留資格外の活動を行っていると明らかに認められるときは入管法24条4号イが、入管法73条の罪により拘禁刑に処せられたときは同条4号ヘが、それぞれ問題になります。他人名義の在留カードを使う、偽造在留カードを持つといった行為に及べば、入管法73条の6・73条の7の問題が加わります。ひとつの誤解が、いくつもの条文に触れる状態を生んでしまうのです。
刑事処分が在留にどう跳ね返るか
刑事処分と在留の関係は、条文ごとに違います。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としていますが、但書により全部執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予でも実刑部分が1年以下であれば同様です。他方、薬物に関する法令違反については同条4号チが別に置かれており、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当し、在留資格の別表を問いません。
不法残留のみで自ら出頭した場合には、入管法24条の3の出国命令という選択肢があります。要件は、速やかに出国する意思をもって自ら出頭したこと、不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと、過去に退去強制されたことや出国命令により出国したことがないこと、速やかに出国することが確実と見込まれることなどです。要件のひとつとして、24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことが求められるため、薬物に該当する方は出国命令を使えません。出国命令により出国した場合の上陸拒否期間は、入管法5条1項9号の2により1年です。退去強制の場合は同項9号によりイが1年、ロが5年、ハが10年です。
実際に取れる行動
- 辞めたい、辞めさせられたという段階で、まず届出の期限を確認する
- 退職日、契約終了の理由が分かる書面を必ず受け取り、保管する
- 次の受入れ機関を探す間も、住居地を移したなら19条の7以下の届出を行う
- 連絡を絶たない。所在が分からない状態が、最も不利な出発点になる
- 賃金の未払や労働条件の相違がある場合は、その事実を記録に残す。正当な理由の説明材料になる
ご家族の立場では、無理に帰国させようとするより、まず状況を確認して手続に戻す方が、結果としてはるかに軽く済むことが多いと申し上げておきます。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、インドネシア語を含むその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
刑事事件になっている場合には、執行猶予判決を得れば足りるとは考えず、不起訴処分を最優先の目標として方針を組み立てます。刑事の供述調書は違反審査や口頭審理の資料になりますので、刑事と入管の手続を一体として設計します。退去強制事由の該当性についても、故意や過失の有無を含めて争うという視点で対応します。初回相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 からもご連絡いただけます。
おわりに
失踪の多くは、悪意からではなく、制度が分からないことから始まっています。分からないまま連絡を絶つのではなく、分からないうちに相談していただければ、選べる道はまだ残っています。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のインドネシア語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099125/
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