外国人事件で保釈が通りにくいと言われる理由と、通すための材料
2026/09/02
外国人だから保釈は難しい。そう説明されたというご相談を、たびたび受けます。通りにくいという印象が語られることはありますが、条文に照らして分解すると、実際に問題になる論点は限られています。
しかも、その論点は、あらかじめ材料を用意すれば動かせるものが少なくありません。この記事では、保釈がいつから使える制度なのか、刑事訴訟法89条の除外事由のうち焦点になるのはどれか、90条で何が見られるのか、そして四つの材料をどう作るかを整理します。
保釈は起訴後にしか使えない
まず押さえるべき前提があります。保釈は、起訴された被告人のための制度です。起訴前の被疑者勾留に保釈の仕組みはありません。逮捕直後にお金を用意すれば出られるのかというお問い合わせを受けますが、その段階で使えるのは勾留に対する準抗告や勾留の取消しです。
起訴前は不起訴、起訴後は保釈という二段構えで考える必要があります。
権利保釈の除外事由をひとつずつ見る
刑事訴訟法89条は、保釈の請求があったときは、次の場合を除いてはこれを許さなければならないと定めています。除外事由は六つです。
- 1号 死刑または無期もしくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき
- 2号 前に死刑または無期もしくは長期10年を超える拘禁刑に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき
- 3号 常習として長期3年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき
- 4号 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
- 5号 被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者もしくはその親族の身体もしくは財産に害を加え、またはこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき
- 6号 被告人の氏名または住居が分からないとき
外国人事件で実際に争点となるのは、多くの場合4号と6号です。6号は、住居が特定できないことを理由とするものであり、住居を書面で明確にできれば正面から潰せます。4号は、関係者との接触可能性の問題であり、生活の場所と行動範囲を具体的に示すことで反証していきます。
裁量保釈で何が見られるか
権利保釈が認められない場合でも、刑事訴訟法90条による裁量保釈があります。同条は、保釈された場合に被告人が逃亡しまたは罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上または防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは職権で保釈を許すことができると定めています。
見落とされがちなのが、不利益の程度という要素です。在留資格に応じた活動ができない期間が続くこと、雇用契約や在学の維持が難しくなることは、社会生活上の不利益として主張できます。抽象的に述べず、いつまでに何が失われるのかを具体的に示すことが求められます。
通すための四つの材料
住居
賃貸借契約書、住民票、家賃の支払実績、同居者の状況を示す資料をそろえます。転居が予定されている場合は、転居先を特定し、そこに住む見込みを裏づける資料まで出します。住居の特定は、89条6号を潰すためにも90条の判断のためにも土台になります。
身元引受人
誰が引き受けるかで重みが変わります。日本に安定した生活基盤を持ち、日常的に本人と接触できる立場の人が望ましく、配偶者、同居の親族、長く雇用してきた勤務先の責任者などが典型です。書面には、住居の提供、出頭の確保、関係者との接触の防止、監督の具体的な方法を書きます。引受人自身の在留資格や在職を示す資料を添えると、実効性の説明になります。
旅券の提出と条件
刑事訴訟法93条3項は、保釈を許す場合に被告人の住居を制限し、その他適当と認める条件を付することができると定めています。実務では、旅券を弁護人に預けること、指定された住居から離れる場合に届け出ること、関係者と接触しないことなどが条件になります。旅券の取扱いをあらかじめ提案しておくことは、逃亡のおそれに対する具体的な反証になります。
保証金
刑事訴訟法93条1項は、保釈を許す場合に保証金額を定めなければならないとし、同条2項は、保証金額が犯罪の性質および情状、証拠の証明力ならびに被告人の性格および資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならないと定めています。誰が用意し、その出所をどう説明するのかも整理しておく必要があります。
外国人は逃げるという前提を検証する
逃亡のおそれの判断では、母国に帰る可能性があるという一般論が持ち出されることがあります。ここで参考になるのが、入管手続における監理措置の運用実績です。制度としては刑事の保釈とは別のものですが、地域社会につながる人が身元を引き受ける形の運用という点で共通します。
出入国在留管理庁の統計によれば、令和6年6月10日から同年末までの監理措置の決定は1,123件で、監理人の9割以上が親族または知人であり、所在不明者はゼロでした。日本に生活の基盤と人的なつながりがある場合に、監督の枠組みが実際に機能し得ることを示す数字です。保釈の判断でも、つながりの具体的な中身を示すことに意味があります。
保釈が在留に持つ意味
保釈は刑事手続の制度ですが、在留にも影響します。入管法22条の4は、正当な理由なく3か月以上その在留資格に応じた活動を行わないでいることを取消事由の一つとしており、身体拘束が長引けばこの規定に触れる危険が現実になります。早期の釈放は、雇用や在学の維持を通じて在留の基盤を守ることにつながります。
他方で、保釈されても刑事処分そのものの帰結は残ります。入管法24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により刑の全部の執行猶予が付された場合は除外されます。同条4号チは薬物関係の法令違反で有罪の判決を受けた者を挙げ、罰金でも執行猶予でも該当し、在留資格の別を問いません。
よくある誤解
保証金を多く積めば通る、という理解は正確ではありません。93条2項の考慮要素は資産だけではなく、犯罪の性質および情状、証拠の証明力、被告人の性格を含みます。金額よりも、89条各号と90条の要素にどう答えるかが先です。
また、否認しているから保釈は無理だ、という説明を受けることがあります。否認それ自体が除外事由ではありません。問題になるのは4号の罪証隠滅のおそれであり、証拠が既に確保されている範囲を具体的に示せるかどうかが焦点です。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。起訴前は不起訴処分を目指し、起訴後は住居、身元引受、旅券の取扱い、保証金の準備を並行して整えます。書面は89条各号と90条の要素に一つずつ対応する形で構成します。
通訳体制については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しています。その他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。弁護方針としては、執行猶予判決ではなお不十分と考え、不起訴処分を最優先の目標とします。刑事の供述調書が後の違反審査や口頭審理の資料になるため、刑事事件と入管手続は一体として設計します。初回相談は無料です。微信のIDは matsumura1119 です。
おわりに
保釈が通るかどうかは、国籍によって決まるものではありません。条文の要素に、どれだけ具体的な事実を対応させられるかで決まります。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事の簡体字中国語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099059/
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