日本で逮捕された シンハラ語話者のための最初の手引
2026/09/02
逮捕された直後に最初に決めなければならないのは、話すか黙るかではありません。誰に連絡を取るか、です。この順番を間違えると、方針を立てないまま取調べが始まり、供述調書だけが積み上がっていきます。
この記事では、最初に連絡を取るべき先、勾留期間がどう数えられるか、通訳がどう付いてどこに限界があるか、そして刑事処分が在留にどう跳ね返るかを、条文と帰結の対応として整理します。
最初に連絡を取るべき先
連絡先は二つあります。第一に弁護士です。逮捕された方は当番弁護士を一度、無料で呼ぶことができます。勾留された段階からは、資力要件のもとで被疑者国選弁護が付きます。ご家族が私選で依頼することもできます。
第二に領事機関です。領事関係に関するウィーン条約36条は、拘禁された外国人の要請に基づく領事通報と領事接見を定めています。領事官は弁護人の役割を担うものではありませんが、旅券や身分に関する事項、本国のご家族との連絡では助けになります。
刑事訴訟法39条1項は、身体を拘束された被疑者・被告人が、弁護人または弁護人になろうとする者と立会人なしに接見し、書類や物の授受をすることを認めています。接見禁止が付されてご家族と会えない事件でも、弁護人との接見は別枠です。
勾留期間の数え方
期限は逮捕の時から動き始めます。警察は逮捕から48時間以内に事件を検察官へ送致し、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内、かつ逮捕から72時間以内に、裁判官へ勾留を請求するかどうかを決めます。
勾留が認められると、勾留請求の日から原則10日です。やむを得ない事由があると認められれば延長され、延長の期間は通じて10日を超えることができません。したがって、起訴・不起訴の判断までに、最大で23日間の身体拘束があり得ます。
この間に作成された供述調書は、後の裁判でも、入管の違反審査や口頭審理でも使われます。初期対応の重みは、この一点にあります。
通訳はどう付き、どこに限界があるか
通訳は捜査機関や裁判所の側で手配されます。刑事訴訟法175条は国語に通じない者に陳述をさせる場合に通訳人を付すことを、178条は国語でない文字等の翻訳を定めています。裁判所法74条は裁判所において日本語を用いると定め、自由権規約14条3項(f)は使用言語を理解できない場合に無償で通訳の援助を受ける権利を保障しています。
最高裁判所『あなたも法廷通訳を ごぞんじですか』令和7年1月版によれば、通訳を必要とした事件の終局被告人は令和5年に3,851人で、シンハラ語は2.1パーセントでした。話者の多くない言語では、通訳人の確保に時間がかかり、期日や接見の調整が遅れることがあります。
限界は二つあります。ひとつは、供述調書があなたの言葉そのままではなく、取調官が日本語でまとめた文章であることです。刑事訴訟法198条4項は、調書を読み聞かせまたは閲覧させて誤りがないかを問い、増減変更の申立てがあればその供述を調書に記載しなければならないと定めています。訂正を求める権利があり、署名押印を拒む自由もあります。もうひとつは、訳語のずれが記録に残ることです。訳が正確でないと感じたときは、その場で述べてかまいません。刑法171条は虚偽の通訳を犯罪と定めています。
退去強制事由の条文と帰結
刑事処分がどの条文に当たるかで、結論の形が変わります。主要な規定を対応させると次のようになります。
| 入管法の規定 | 対象 | 執行猶予・罰金の扱い |
|---|---|---|
| 24条4号リ | 無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者 | 但書により全部執行猶予は除外。一部猶予も実刑部分が1年以下なら除外 |
| 24条4号チ | 麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等の法令違反で有罪判決を受けた者 | 罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当。在留資格の別を問わない |
| 24条4号の2 | 強盗・不同意性交等・危険運転致死傷等で拘禁刑に処せられた者のうち、別表第一の在留資格で在留する者 | 対象となる在留資格が限定される |
| 5条1項5号 | 薬物関係の上陸拒否 | 年限の定めがなく、期間の定めのない上陸拒否 |
薬物事件が他と大きく異なることが、この対応から分かります。加えて、入管法24条の3の出国命令は、4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことを要件の一つとしているため、薬物該当者は出国命令を使えません。
在留資格が取り消される場面
刑事処分とは別に、在留資格そのものが取り消されることがあります。入管法22条の4は、正当な理由なく3か月以上その在留資格に応じた活動を行わないでいることを取消事由の一つとしています。虚偽申請による取得や、住居地の届出義務違反も取消事由です。
出入国在留管理庁の令和7年の統計によれば、在留資格の取消しは1,446件で、国籍別ではスリランカが91件でした。身体拘束が長引けば、勤務先や学校との関係が切れ、この規定に触れる危険が現実のものになります。入管法19条の16および19条の17は、所属機関等に関する届出を14日以内に行うことを求めており、拘束中も期限は進みます。
よくある誤解
執行猶予がついたのだから在留は大丈夫だ、という理解が広く見られます。24条4号リについては但書があるため、その理解は正しい場面があります。しかし薬物事件では4号チにより、執行猶予でも罰金でも該当します。罪名によって結論が違います。
もうひとつ、事情を正直に話せば分かってもらえる、という考え方です。話すこと自体が誤りなのではなく、通訳を介して日本語の文章に固定される過程を理解しないまま話すことに危うさがあります。
ご家族が取れる行動
- 留置されている警察署名と逮捕の日付を確認する。すべての期限計算の起点になります。
- 在留カード、旅券、雇用契約書または在学証明、住居に関する資料、家族関係を示す書類を集める。
- 領事機関への通報を希望するかどうか、本人の意向を確認する。
- 勤務先や学校への連絡は、内容と時期を弁護人と相談してから行う。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。取調べでの対応、勾留への不服申立て、所属機関への連絡の順序を、刑事の見通しと在留への影響を同時に見ながら組み立てます。
通訳体制については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しています。シンハラ語を含むその他の言語は、事案に応じて通訳人を手配します。弁護方針としては、執行猶予判決ではなお不十分と考え、不起訴処分を最優先の目標とします。刑事の供述調書が後の違反審査や口頭審理の資料になるため、刑事事件と入管手続は一体として設計します。退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う視点で検討します。初回相談は無料です。微信のIDは matsumura1119 です。
おわりに
逮捕直後にできることは多くありませんが、順番があります。連絡先を決め、期限を把握し、条文と自分の事案を突き合わせる。この三つが、その後のすべての判断の土台になります。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事のシンハラ語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099057/
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