勾留質問で裁判官に何を言えるのか 外国人事件の分かれ目
2026/09/02
勾留質問は、多くの場合、十分ほどで終わります。しかしこの短い時間に、その後の二十日間を留置施設で過ごすのか、それとも自宅から捜査に応じるのかが決まります。外国人の事件では、この場面で言えることと言えないことの差が、結果に強く表れます。
本稿では、裁判官が何を判断しているのか、外国人であることがなぜ勾留の理由に結びつきやすいのか、そして本人とご家族が事前に用意できる材料は何かを、順に説明します。
勾留質問は裁判官が要件を確かめる場である
勾留質問は、裁判官が本人と直接会い、勾留の要件が満たされるかどうかを確かめる手続です。検察官が勾留を請求すると、本人は裁判所へ連れて行かれ、被疑事実を読み聞かされたうえで、言い分を述べる機会を与えられます。
裁判官が確認するのは、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があるか、そして住居が定まっていないか、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるか、逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるか、という点です。事件の詳しい中身を争う場ではなく、身体拘束の要否を判断する場だという性格を理解しておく必要があります。
外国人であることが逃亡のおそれに読み替えられやすい
実務上もっとも問題になるのは、外国人であるという属性が、そのまま逃亡のおそれの根拠として扱われやすいことです。出国して帰国してしまえば捜査ができなくなる、という発想が背景にあります。
しかし、在留資格を持ち、住居があり、勤務先や学校が継続している人にとって、帰国は生活基盤を失うことを意味します。逃亡のおそれは抽象的な可能性ではなく、具体的な事情に基づいて判断されるべきものです。警察庁の令和7年確定値によれば、来日外国人の総検挙人員は12,777人で、うちネパールは452人です。この来日外国人という統計上の区分は、永住者、永住者の配偶者等、特別永住者、在日米軍関係者、在留資格不明者を除く定義であり、日本に生活の基盤を築いている人がそもそも含まれていない点に注意が必要です。
本人が勾留質問で述べておくべきこと
本人が伝えるべきなのは、事件の言い分よりも先に、生活の実体です。裁判官が判断材料にできるのは、その場で語られた事情と、提出された資料に限られます。
- 住居の所在と、そこに住み続ける予定であること
- 勤務先または学校が継続しており、身元を引き受ける人がいること
- 在留カードを所持し、住居地の届出などの手続を行ってきたこと
- 証拠を隠したり関係者に働きかけたりする意思がないこと
- 通訳の内容が理解できないときは、その旨をその場で述べること
被疑事実の認否について迷いがある場合、無理に説明しようとする必要はありません。刑事訴訟法198条2項は取調べに先立つ黙秘権の告知を定めており、供述するかどうかは本人が選べます。弁護人が付いていれば、刑事訴訟法39条1項による接見で事前に方針を整理できます。
勾留が決まった後にも手段はある
勾留の決定が出た後でも、争う手段は残っています。刑事訴訟法82条以下は勾留理由開示の請求を認めており、公開の法廷で、裁判官に勾留の理由を述べさせることができます。
この手続では、弁護人が意見を述べ、家族が傍聴して本人の姿を見ることもできます。証拠関係が固まったこと、被害者との示談が成立したこと、身元引受人が確保できたことなど、勾留の必要性が失われたと言える事情が生じたときは、その時点での是正を求める活動が可能です。
勾留の長期化が在留資格に及ぼす影響
勾留が長引くこと自体が、在留資格に影響します。就労や就学が止まるためです。入管法22条の4は在留資格の取消しを定め、3か月以上、その在留資格に応じた活動を行わないで在留していること、正当な理由がある場合を除く、という類型を置いています。
刑事処分そのものの影響も無視できません。入管法24条4号リは無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により全部執行猶予が付された場合は除かれます。他方、同条4号チの薬物犯罪は罰金でも執行猶予でも有罪判決であれば該当し、入管法5条1項5号により期間の定めのない上陸拒否となります。薬物該当者は入管法24条の3の出国命令を利用できません。退去強制手続に進んだ場合には、入管法50条の在留特別許可を求めることになり、同条5項が考慮要素を定めています。勾留段階から不起訴を目指すことが、在留の維持にとって最も直接的な手当てになります。
よくある誤解
第一に、勾留質問で否認すれば勾留されるという理解です。認否と勾留の要件は別の問題であり、否認したこと自体を理由に勾留するのは適切ではありません。
第二に、家族が保証すればすぐ釈放されるという理解です。ご家族の身元引受は重要な事情ですが、それを裁判官に伝える経路を確保しなければ判断材料になりません。第三に、起訴前でも保釈を申請できるという理解です。保釈は起訴後の制度であり、起訴前の段階では利用できません。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が勾留質問の前に接見し、述べるべき事情と資料を本人と一緒に整理します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、ネパール語を含むその他の言語については事案に応じて通訳人を手配します。
執行猶予判決でも在留への影響が残る場面があることから、不起訴処分の獲得を最優先の目標とします。刑事の供述調書が入管の違反審査や口頭審理の資料になることを踏まえ、刑事事件と入管手続を一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意や過失の有無を含めて争います。初回相談は無料で、微信IDはmatsumura1119です。
おわりに
十分の面談で二十日間が決まるという構造は、準備の有無がそのまま結果に出る構造でもあります。生活の実体を語れる材料を、その日までに揃えられるかどうかが問われます。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のネパール語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099009/
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