ご家族が本国にいる場合の進め方|書類の手配と連絡の設計
2026/08/27
在留期限を過ぎたまま日本で暮らしておられる方の中には、ご本人だけが日本にいて、ご両親や配偶者、お子さんは本国にいらっしゃるという方が少なくありません。ある日を境に連絡が取れなくなり、本国のご家族は何が起きたのか分からないまま時間が過ぎていく。反対に、日本にいるご本人が家族に心配をかけたくないと考えて事情を打ち明けられずにいる。どちらもよくあるご相談です。しかし在留を認めてもらう手続では、本国のご家族の存在そのものが判断材料になり、本国から取り寄せる書類が結論を左右することがあります。この記事では、ご家族が本国にいる場合に、どの書類をどの順番で手配し、連絡をどう組み立てるかを整理します。
日本にいる本人と急に連絡が取れません。本国の家族はまず何をすればよいですか
まず、日本の弁護士にご相談ください。ご本人が警察に逮捕されている場合も、入管の施設に収容されている場合も、弁護士は本人と面会し、本人の意思を確認してご家族にお伝えできます。ご家族が来日できなくても、弁護士が代理人として手続を進めることは可能です。ご家族の側で確認していただきたいのは、最後に連絡が取れた日、そのとき本人が話していた住所や勤務先の地域、在留カードの有無と在留期限、日本での家族関係や交際関係の有無です。これだけで、どの機関にどの照会から始めるべきかが決まります。連絡が取れないまま自己判断で来日すると、かえって事態が複雑になることもありますので、渡航の要否も含めて先にご相談ください。
オーバーステイは、そもそもどのような法的な問題なのですか
行政上の問題であるにとどまらず、刑事罰の対象となる犯罪でもあります。出入国管理及び難民認定法(入管法)70条1項5号は、在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者を処罰の対象とし、法定刑は同項柱書により3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科です。同時に、入管法24条4号ロにより、不法残留は退去強制事由にも当たります。刑事手続と退去強制手続という二本の線が並行して進む、という構造です。刑事の処分が軽く済んでも、それだけで日本に残れるわけではありません。逆に、日本に残るための材料の多くは、本国のご家族の側にあります。
本国から取り寄せる書類には、どのようなものがありますか
中心になるのは、身分関係を証明する公的書類と、家族の生活実態を裏づける資料です。在留特別許可の判断では、入管法50条5項により、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性が考慮され、さらに内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情が考慮されます。本国からの書類は、このうち家族関係と人道上の配慮の必要性を裏づける中核の証拠です。
- 出生を証明する書類(本人・お子さんの出生証明書等)
- 婚姻関係を証明する書類(婚姻証明書、独身証明書、離婚に関する書類)
- 家族の構成を示す書類(戸籍・戸口簿・家族関係証明書等、国により名称が異なります)
- 本国のご家族の健康状態・治療状況に関する診断書(人道上の配慮に関わる場合)
- 本国への送金の記録、通信や面会の記録
- 本国での学歴・職歴・納税に関する資料
これらは原則として日本語訳を添えて提出します。国によっては本国の公証機関の公証や、日本にある本国大使館・領事館での認証が必要です。取り寄せから公証・認証・翻訳までには相応の日数がかかりますので、必要になってから動くのではなく、手続の初期に着手することが重要です。
本国の公的書類がどうしても手に入らないときは、どうなりますか
書類が存在しない、あるいは事実上取得できないという理由だけで、直ちに不利になると決まるわけではありません。当事務所が扱った事案には、国籍国が発行する公的書類がほとんど存在しない状況で、それでも在留特別許可に至ったものがあります。そこで行ったのは、公的書類の代わりになる資料を積み上げる作業でした。関係者の陳述書、写真や通信の履歴、日本国内の医療機関・学校・勤務先が保有する記録、送金や共同生活を示す客観資料など、一つひとつは断片でも、組み合わせれば家族関係の実質を示せます。書類がないから諦めるのではなく、何によって代替できるかを早い段階で設計することが分かれ目になります。
本国の家族の事情は、入管法50条のどこに効いてきますか
在留特別許可は、入管法50条1項により、退去強制対象者に該当する場合であっても、各号のいずれかに当たるときに、本人の申請により又は職権で与えられる措置です。1項各号は、永住許可を受けているとき(1号)、かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき(2号)、人身取引等により他人の支配下に置かれて在留するとき(3号)、難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けているとき(4号)、その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき(5号)を定めており、オーバーステイの多くは5号で判断されます。本国のご家族の事情は、この5号の判断の中で、50条5項の考慮事情を通じて評価されます。
あわせて押さえたいのが50条1項ただし書です。無期若しくは1年を超える拘禁刑に処せられた者(刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者、及び一部猶予で実刑部分が1年以下の者を除く)等については、在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る、という加重要件がかかります。不法残留(24条4号ロ)だけの事案はこのただし書の対象ではなく、これは有利な事情です。裏を返せば、実刑1年超になると加重要件がかかり、見通しは大きく厳しくなります。ご家族が書類の手配を急ぐべき理由もここにあります。
時差と言語が違っても、日本の弁護士とやり取りできますか
できます。当事務所は微信(WeChat)を含む手段でのご連絡に対応しており、日本にいるご本人、本国のご家族、弁護士の三者が同じ情報を共有できる状態を保つようにしています。時差がある場合は、あらかじめやり取りの時間帯を決め、確認事項を文書にまとめてお送りします。中国語については専属の通訳が常駐しておりますので、法律用語をそのまま訳すのではなく、意味が伝わる言葉に置き換えてご説明します。書類の名称は国によって異なりますから、日本の手続でどの事実を証明したいのかを先にお伝えし、それに対応する書類を本国側で探していただく、という順序でお願いしています。
手続のどの段階までに、書類をそろえる必要がありますか
退去強制手続は、入国警備官による違反調査(27条以下)から始まり、収容令書(39条)による収容又は監理措置決定(44条の2第7項)を経て、入国審査官の違反審査(45条以下)、認定(47条3項)へと進みます。認定に不服があれば口頭審理の請求(48条)、特別審理官の判定(48条8項)、さらに不服があれば法務大臣への異議の申出(49条)となり、その裁決の段階で在留特別許可(50条)か退去強制令書の発付(51条)かが分かれます。
期限として意識していただきたい条文が二つあります。第一に、50条2項は、在留特別許可の申請は収容令書により収容された外国人又は監理措置決定を受けた外国人が行うと定めています。申請という形が取れるのはこの段階からで、それ以前は職権の発動を求める活動になります。第二に、同条3項は、退去強制令書が発付された後は申請することができないと定めています。令書が出れば、以後は取消訴訟や執行停止の申立てという司法救済の領域です。取り寄せに時間がかかる書類ほど、この時間軸から逆算して手配する必要があります。なお、在留特別許可をしない処分をするときは速やかに理由を付した書面で知らせなければならないと50条10項が定めていますので、仮に許可されなかった場合も、その理由の記載が次の一手の出発点になります。
摘発される前に、自ら動くことの意味
本国のご家族から、日本にいる家族に自分から入管へ行くよう勧めてよいのか、というご質問をよくいただきます。ここには、はっきりとした法律上の理由があります。
入管法24条の3の出国命令制度は、不法残留(24条4号ロ)等に当たる方について、5つの要件をすべて満たす場合に、収容を前提とせずに出国を認める制度です。要件は、①27条の規定による違反調査の開始前に、速やかに出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭した者(1号イ)、又は違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に、入国審査官若しくは入国警備官に対して速やかに出国する意思がある旨を表明した者(1号ロ)であること、②24条3号から3号の5まで、4号ハからヨまで、8号又は9号のいずれにも該当しないこと、③日本に入った後に、住居侵入、通貨・文書・有価証券・支払用カード電磁的記録に関する罪、賭博、殺人、傷害、逮捕監禁、略取誘拐、窃盗強盗、詐欺恐喝、盗品等の各罪のほか、暴力行為等処罰法1条・1条ノ2・1条ノ3、盗犯等防止法、特殊開錠用具所持禁止法15条・16条、自動車運転死傷処罰法2条・6条1項、盗難特定金属製物品処分防止法22条の各罪により拘禁刑に処せられたものでないこと、④過去に退去を強制されたこと又は出国命令により出国したことがないこと、⑤速やかに出国することが確実と見込まれること、の5つです。出国命令が出ると、主任審査官は15日を超えない範囲内で出国期限を定めます(55条の85第1項)。
そして、次に日本へ戻れるまでの期間が大きく変わります。出国命令により出国した方の上陸拒否期間は、原則として出国した日から1年です(5条1項9号ホ)。これに対し、違反調査が始まってから出国意思を表明した方(24条の3第1号ロ)が出国命令で出国し、その後に短期滞在の活動を行おうとする場合は、出国した日から5年となります(5条1項9号ヘ)。摘発されて出国命令の要件を欠けば退去強制となり、退去強制歴・出国命令歴のない方で退去の日から5年(5条1項9号ハ)、既に退去強制歴等がある方で10年(同号ニ)です。24条4号オからヨまでに該当して退去強制された場合は、期間の定めがありません(5条1項10号)。また、令和6年3月改定・同年6月10日施行の在留特別許可に係るガイドラインは、不法滞在を申告するため自ら地方出入国在留管理官署に出頭したことを積極要素として考慮すると明記する一方、不法滞在の長期化は消極要素として評価するとしています。本国のご家族にとって、これは待つほど不利になるという意味です。もっとも、出頭の可否と時期は事案ごとに慎重に検討すべき事柄ですので、出頭を勧める前に必ず弁護士にご相談ください。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行を行いません。本国のご家族とのやり取りも、弁護士本人が内容を把握したうえで行います。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等は、提携の行政書士とワンストップで対応します。
関連する解決事例を二件ご紹介します。一件目は、観光目的で来日した相談者が日本人女性との間にお子さんを授かったものの、在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされましたが、憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国が発行する公的書類がほとんど存在しない状況でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。二件目は、冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。退去強制事由には故意・過失が不要とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められました。初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りいたします。
結語
ご家族が本国にいる場合、日本での手続は本国での書類集めと同時進行になります。取り寄せ、公証、認証、翻訳には日数がかかり、退去強制令書が発付されれば在留特別許可の申請自体ができなくなります(入管法50条3項)。だからこそ、何を証明したいのかを先に定め、そこから逆算して手配を始めることが大切です。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここでご紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて中国人の方をサポート
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