退去強制令書が出てしまった後の司法救済|取消訴訟と執行停止
2026/08/27
在留期限を過ぎたまま日本で暮らしてこられ、ついに退去強制令書が発付されてしまった。あるいは、法務大臣への異議の申出に理由がないとの裁決が出て、収容されているご家族から「もう手はないのか」と連絡が来た。令書が出た段階は、たしかに手続の中でもっとも厳しい局面です。しかし、そこで法的な手段がすべて尽きるわけではありません。入管の手続の外側に、裁判所による救済という道が残されています。この記事では、退去強制令書が発付された後に何ができるのかを、取消訴訟と執行停止という二つの手段を中心に、条文に沿って整理します。
退去強制令書が出たら、もう在留特別許可は求められないのですか
入管の手続の中で在留特別許可を求めることは、原則としてできなくなります。入管法50条3項は、退去強制令書が発付された後は在留特別許可の申請をすることができないと定めているためです。つまり、令書の発付は、入管の内部手続における在留の可能性が一区切りついたことを意味します。
そもそも在留特別許可の申請権は、入管法50条2項により、収容令書によって収容された外国人、または監理措置決定を受けた外国人に生じるものとされています。手続は、違反調査(27条以下)から始まり、収容令書(39条)または監理措置決定(44条の2第7項)、違反審査(45条以下)、認定(47条3項)、口頭審理の請求(48条)、判定(48条8項)、法務大臣への異議の申出(49条)と進み、その終点で在留特別許可(50条)か退去強制令書の発付(51条)かが分かれます(同条4項)。令書が出たということは、この分岐の一方に進んでしまったということです。
ただし、これは「法的な争い方がなくなった」という意味ではありません。ここから先は、入管に許可を求める局面ではなく、入管が行った判断そのものを裁判所に審査してもらう局面に移ります。
令書が出た後に残されている法的手段は何ですか
大きく分けて、裁判所に処分の取消しを求める訴えを起こすこと(取消訴訟)と、その訴えと併せて、判決が出るまでの間、処分の執行を止めてもらうよう申し立てること(執行停止の申立て)の二つです。いずれも行政事件訴訟法に基づく一般的な行政訴訟の手続であり、入管手続の内部ではなく、裁判所という第三者の判断を仰ぐものです。
争う対象としては、法務大臣が異議の申出に理由がないとした裁決と、それを受けて主任審査官が行った退去強制令書の発付処分が中心になります。事案によっては、在留特別許可をしない旨の処分も対象として検討されます。入管法50条10項は、在留特別許可をしない処分をするときは、速やかに理由を付した書面をもって知らせなければならないと定めています。この理由付記の書面は、どの事情がどのように評価されたのかを読み解く手がかりとなり、訴訟で何を争うかを組み立てる出発点になります。
なお、行政事件訴訟には出訴期間の定めがあり、期間が経過すると原則として訴えを起こせなくなります。令書が出た後は、時間そのものが不利に働きます。この段階でのご相談は、日単位で早いほど選択肢が広がります。
訴訟を起こせば送還は止まりますか
訴えを起こしただけでは止まりません。行政事件訴訟法の下では、処分の取消しを求める訴えを提起しても、それだけでは処分の効力や執行は停止しないのが原則とされています。いわゆる執行不停止の原則です。したがって、訴訟を起こしたことに安心していると、審理が続いている間に送還が実施されてしまう可能性があります。
そこで、取消訴訟の提起と併せて、裁判所に対し執行停止を申し立てます。執行停止は、本案の訴訟が裁判所に係属していることを前提とする手続ですので、訴えの提起と申立てを一体として設計する必要があります。実務上は、送還に関する部分と、収容に関する部分とを分けて執行停止を求める例もあります。どの範囲について停止を求めるかは、ご本人の身柄の状況やご家族の生活状況によって変わります。
執行停止はどのような場合に認められるのですか
一般的な枠組みとしては、処分によって生じる重大な損害を避けるため緊急の必要があると認められる場合に、裁判所が執行停止を決定することができるとされています。他方で、本案について理由がないとみえるときなど、認められない場合も定められています。つまり、「送還されると困る」という事情を抽象的に述べるだけでは足りず、送還が実施された場合にご本人とご家族にどのような回復し難い不利益が生じるのかを、具体的な資料で示す必要があります。
どのような判断がされるかは、事案ごとに大きく幅があります。結果を保証できる性質のものではありません。ただ一つ言えるのは、いったん送還が実施されてしまうと、訴訟が続いていても事実上の回復は極めて困難になるということです。だからこそ、令書が出た局面では、本案の主張を練り上げることと並行して、まず時間を確保する手当てを講じることが実務的に重要になります。
訴訟で処分が取り消されたら、日本に在留できるようになるのですか
取消しの判決が確定した場合、その処分は初めからなかったものとして扱われ、入管は改めて手続をやり直すことになります。したがって、判決そのものが在留資格を与えるわけではありません。もっとも、裁決や令書発付が取り消されれば、手続は在留特別許可を判断する段階に戻ることになりますので、そこで改めて在留の可否が検討されることになります。
その判断の枠組みは入管法50条5項に定められています。すなわち、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性を考慮するほか、内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情が考慮されます。訴訟の段階で積み上げた家族関係の資料、生活実態の資料、健康に関する資料は、そのまま次の局面で意味を持ちます。訴訟と入管手続は別物ではなく、地続きのものとして設計する必要があります。
なお、不法残留(入管法24条4号ロ)のみが問題となっている事案では、入管法50条1項ただし書の加重要件、すなわち「本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る」という重い要件はかかりません。これは、令書が出た後の局面でも変わらない有利な事情です。逆に、無期または1年を超える拘禁刑の実刑を受けている場合には、このただし書がかかり、見通しは大きく厳しくなります。
争わずに自分から出国する道と、どちらを選ぶべきですか
これは、その後もう一度日本に来ることを考えるかどうかで、意味が大きく変わります。退去強制令書が出た後であっても、入管法52条5項の決定を受け、定められた期限までに自ら出国した場合には、上陸拒否期間は退去の日から1年となります(入管法5条1項9号ロ。短期滞在の活動を行おうとする場合を除きます)。これに対し、そのまま退去を強制された場合は、それ以前に退去強制歴・出国命令歴がなければ退去の日から5年(同号ハ)、既にそうした経歴があれば10年(同号ニ)となります。さらに、入管法24条4号オからヨまでに該当して退去強制された場合は、入管法5条1項10号により期間の定めのない上陸拒否となります。薬物関係法令違反による処罰歴がある場合も、入管法5条1項5号により年限の定めがありません。
つまり、同じ「日本を出る」という結果に見えても、どの手続でどの段階で出るかによって、次に日本の土を踏めるまでの年数が1年にも5年にも10年にもなります。争い続けるのか、区切りをつけて次の再来日に備えるのか。この選択は、ご本人だけで判断できるものではありません。ご家族の生活、お子さまの就学、健康状態、本国での事情を並べたうえで、法的な効果を正確に示して比較する作業が必要です。
摘発される前に、自ら動くことの意味
退去強制令書が出た後の局面と、その前の局面とでは、使える手段の幅がまったく違います。違反調査の開始前に、速やかに出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭した場合、その方は入管法24条の3第1号イに該当し得ます。出国命令の要件(同条各号)をすべて満たせば、収容を前提としない出国命令の手続に乗る可能性があり、主任審査官は15日を超えない範囲内で出国期限を定めます(入管法55条の85第1項)。この場合の上陸拒否期間は、出国した日から1年です(入管法5条1項9号ホ)。これに対し、違反調査が始まった後に出国意思を表明した場合(24条の3第1号ロ)は、その後に短期滞在の活動を行おうとするときの上陸拒否期間が5年になります(同項9号ヘ)。
さらに、在留特別許可に係るガイドライン(令和6年3月改定・令和6年6月10日施行)は、在留特別許可を例外的・恩恵的に行われる措置と位置づけたうえで、当該外国人が不法滞在を申告するため自ら地方出入国在留管理官署に出頭したことを積極要素として考慮すると明記しています。他方で、不法滞在の長期化は消極要素として評価されます。自ら出頭するという一つの行動が、刑事処分の場面でも、在留の場面でも、将来の再来日の場面でも、評価を変えていきます。
あわせて申し上げますと、不法残留は行政上の問題にとどまりません。入管法70条1項5号は、在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者を処罰の対象としており、その法定刑は3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科です。そして、刑事で執行猶予が付いても、不起訴になっても、入管法24条4号ロにより退去強制手続は進みます。刑事の見通しと在留の見通しは別問題であり、初動から一体で設計しなければなりません。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当するのは松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)です。
当事務所では、接見の初動から公判の結審まで、松村弁護士が全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。令書が出た後の局面は、時間との勝負であると同時に、入管が積み上げた記録を読み解く緻密な作業でもあります。どの事情がどう評価されたのかを一つずつ検証し、争う点を絞り込む作業は、事案を最初から見ている弁護士でなければ精度が出ません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。収容中のご本人とご家族との間で情報が食い違い、判断が遅れることは珍しくありません。母語で正確に状況を共有できる体制は、この局面で特に意味を持ちます。刑事手続後の在留資格の更新・変更等については、提携の行政書士とワンストップで対応します。
関連する解決事例を二つご紹介します。一つは、観光目的で来日した相談者が日本人女性との間にお子さまを授かったものの、在留資格を喪失し不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻・認知が未了で当局から一旦不受理とされたところ、憲法的観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を集め、過去の許可事例を分析して、1回の手続で在留特別許可を獲得しました。
もう一つは、冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。退去強制事由には故意・過失が不要とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。いずれも個別の事情に基づくものであり、同様の結果をお約束するものではありません。初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りいたします。
おわりに
退去強制令書が出た後でも、取消訴訟と執行停止という司法救済の道は残されています。ただし、出訴期間の制約があり、送還が実施されてしまえば事実上の回復は極めて困難です。初動の速さが、そのまま選択肢の広さになります。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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