在留特別許可の場面で、なぜ弁護士なのか
2026/08/27
在留期限を過ぎたまま日本で暮らしている。あるいは、ご家族がその状態にある。いつ摘発されるのかという不安を抱えたまま毎日を過ごしておられる方は少なくありません。それでも日本での生活を続けたいと考えたとき、最後の拠りどころとなるのが在留特別許可(入管法50条)です。この場面で「行政書士に頼むのか、弁護士に頼むのか」と迷われる方がおられます。これは優劣の問題ではなく、手続の局面ごとに担い手が分かれているという構造の問題です。以下、条文に沿って整理します。
在留特別許可の手続は、弁護士でなければ依頼できないのですか
いいえ。在留資格の手続には、行政書士が専門性を発揮する広い領域があります。申請取次の届出をした行政書士は、在留資格の認定・変更・更新といった申請の取次ぎを行い、資料を整えて当局に提出します。日常的な在留手続の多くは、この枠組みのなかで進みます。
他方、オーバーステイの事案では、①不法残留が刑事事件として立件され逮捕・勾留されている局面、②収容令書により身柄を収容されている局面、③退去強制令書が発付され裁判所での争いに移る局面が、同時にあるいは連続して現れやすいという特徴があります。この3つでは、刑事弁護人としての活動と訴訟における代理という、弁護士の職務にあたる部分が中心になります。
オーバーステイで逮捕されると、刑事事件と入管手続は同時に進むのですか
はい。二本立てで同時並行に進みます。片方だけに対応していると、もう一方で取り返しのつかない事態が生じることがあります。
刑事の側では、入管法70条1項5号が「在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者」を処罰の対象とし、法定刑は3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科です(70条1項柱書)。オーバーステイは行政上の問題にとどまらず、刑事罰の対象となる犯罪です。
行政の側では、入管法24条4号ロが同じ状態を退去強制事由と定めています。手続は、入国警備官による違反調査(27条以下)から始まり、収容令書(39条)または監理措置決定(44条の2第7項)を経て、入国審査官の違反審査(45条以下)、認定(47条3項)へと進みます。不服があれば口頭審理の請求(48条)、特別審理官の判定(48条8項)、さらに法務大臣への異議の申出(49条)となり、その裁決の段階で在留特別許可(50条)か退去強制令書の発付(51条)かが決まります。
刑事で述べたことは入管の違反調査における供述と突き合わされ、入管に提出した資料は刑事の情状立証にも影響します。両方の流れを一つの設計図の上で見られる立場が必要になるのは、このためです。
刑事裁判で執行猶予がついたら、日本に残れますか
刑事処分の軽重と、日本に在留を続けられるかどうかは別の問題です。「執行猶予がついたから大丈夫」という理解は正確ではありません。
入管法24条4号リは「昭和26年11月1日以後に無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としつつ、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者、及び一部猶予で執行が猶予されなかった部分の期間が1年以下の者を除くと定めています。したがって不法残留で全部執行猶予の判決を受けた場合、4号リには当たりません。しかし、そもそも24条4号ロにより、すでに退去強制事由に該当しているのです。執行猶予がついても、退去強制手続はそのまま進みます。
逆方向でも刑事処分は在留に影響します。入管法50条1項ただし書は、無期若しくは1年を超える拘禁刑に処せられた者(全部執行猶予の者、及び一部猶予で実刑部分が1年以下の者を除く)などについて、在留特別許可を与えられるのは「本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるとき」に限る、という加重要件を置いています。不法残留(24条4号ロ)のみの事案は、このただし書の対象ではありません。これは在留を求める側にとって重要な有利事情です。裏を返せば、実刑が1年を超えるとこの加重要件がかかり、見通しは大きく厳しくなります。
刑事処分をできる限り軽くする活動は、刑を軽くするためだけのものではなく、在留特別許可を求める土台を守る活動でもあります。刑事と入管を初動から一体で設計しなければならない理由が、ここにあります。
在留特別許可は、いつ、どのように申請するのですか
申請できる時期は法律で限定されています。入管法50条2項は、申請ができるのは収容令書により収容された外国人、又は監理措置決定を受けた外国人であるとし、法務省令で定める手続により法務大臣に対して行うと定めます。申請権はこれらの処分を受けて初めて生じ、それ以前は法務大臣の職権の発動を求める活動という位置づけになります。
50条4項により、在留特別許可は、47条3項の認定・48条8項の判定に服し、又は異議の申出に理由がないと裁決された後でなければ与えられません。そして50条3項は、退去強制令書が発付された後は申請することができないと定めています。時間の窓は限られています。
判断の材料も法定されています。50条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性を考慮するほか、内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情を考慮すると定めます。また50条10項により、許可をしない処分をするときは、速やかに理由を付した書面で知らせなければならないとされています。
身柄を拘束されている本人と、どのように打ち合わせをするのですか
刑事手続の段階では弁護人として接見を行い、収容の段階では収容施設での面会を通じて、本人と直接やり取りをします。ご家族が本国におられる場合は、本国とのやり取りも並行して進めます。
見落とされやすいのが通訳の問題です。捜査機関が手配する通訳人は手続を進めるために置かれる存在であり、本人の側に立って言葉を選ぶ立場ではありません。供述調書に残された一語のニュアンスが、後の入管手続で不利に働くことがあります。入管の違反調査でも同じことが起こり得ます。本人のために動く通訳を確保し、刑事での供述と入管での供述に食い違いが生じないよう整えておくことは、実務上きわめて重要です。
退去強制令書が出てしまったら、もう打つ手はないのですか
在留特別許可の申請という道は50条3項により閉じますが、法的な手段がすべて尽きるわけではありません。以後は、退去強制令書発付処分などの取消しを求める訴訟と、その執行の停止を求める申立てという、裁判所による救済の領域に移ります。
この局面では訴訟における代理が必要になります。送還が現実に迫るなかで限られた時間で申立てを組み立てる作業ですので、それまでの入管手続でどのような主張をし、どのような資料を出してきたかが、そのまま訴訟の土台になります。裁判所での結論を保証できるものではありませんが、退去強制令書が出た時点で終わりだと諦める必要はありません。
行政書士と弁護士は、どのように役割を分けるのですか
局面ごとに適した担い手が異なる、とお考えいただくのが分かりやすいと思います。在留資格の認定・変更・更新といった申請の場面、必要書類を整えて当局へ取次ぎを行う場面では、申請取次の届出をした行政書士が高い専門性を発揮します。他方、刑事事件としての立件がある場面、身柄を拘束されている場面、退去強制令書が出て裁判所での争いに移る場面では、刑事弁護と訴訟代理という弁護士の職務が中心になります。
当事務所では、刑事手続と在留特別許可までを弁護士が担い、刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については提携の行政書士とワンストップで対応しています。まずはご自身の状況がどの局面にあるのかを整理することから始めていただければと思います。
摘発される前に、自ら動くことに意味はありますか
あります。その差は法律上の効果としてはっきり現れます。
在留特別許可に係るガイドライン(令和6年3月改定、令和6年6月10日施行)は、在留特別許可を、退去を強制されるべき外国人に対して例外的・恩恵的に行われる措置と位置づけたうえで、「当該外国人が、不法滞在を申告するため、自ら地方出入国在留管理官署に出頭したこと」を積極要素として考慮すると明記しています。他方、不法滞在の長期化は消極要素として評価されます。待っているだけでは、時間の経過は味方になりません。
日本を出る選択をする場合にも差は生じます。入管法24条の3の出国命令は、違反調査の開始前に自ら出入国在留管理官署に出頭した者(1号イ)、又は違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に速やかに出国する意思を表明した者(1号ロ)であることを含む5つの要件をすべて満たす場合に用いられ、主任審査官は15日を超えない範囲で出国期限を定めます(55条の85第1項)。その後の上陸拒否期間は、次のように分かれます。
- 出国命令により出国した者は出国した日から1年(5条1項9号ホ)
- 違反調査の開始後に出国意思を表明した者(24条の3第1号ロ)が出国命令で出国し、その後に短期滞在の活動を行おうとする場合は5年(同号ヘ)
- 要件を満たさず退去強制となり、それ以前に退去強制歴・出国命令歴がない場合は退去の日から5年(同号ハ)
- 既に退去強制歴・出国命令歴がある場合は10年(同号ニ)
ただし、自ら出頭することは在留を諦めることと同じではありません。在留を求める道と、いったん出国して再来日を目指す道のどちらを選ぶのか、出頭のタイミングをどう設定し、その前に何を準備しておくのか。ここは事案ごとに設計すべき部分であり、準備のないまま窓口に行くことはおすすめできません。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所は、東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階にあります。松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号59077、2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。
体制の特徴は3つあります。第1に、最初の接見から公判の結審まで、松村弁護士が全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。第2に、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。第3に、刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携の行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例/観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻・認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされましたが、憲法的観点から当局と交渉して婚姻・認知を実現し、刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 不法就労助長で強制退去の危機にあった女性の事案/冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
初回のご相談は無料です。費用は事案の内容に応じてお見積りいたします。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
おわりに
在留特別許可をめぐる手続では、申請できる時期が法律で区切られており(50条2項・3項・4項)、退去強制令書が出た後は申請の道が閉じます。刑事処分の重さは50条1項ただし書を通じて在留の見通しに跳ね返ります。どの段階で誰が何をするのかを初動の時点で決めておくことに、意味があります。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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