未成年の子がいる場合の出頭申告で気をつけること
2026/08/27
在留期限を過ぎたまま日本で暮らしていて、しかも小さなお子さんがいる。自分ひとりのことなら覚悟を決められても、お子さんが日本の学校に通い、日本語で友達と話し、本国の言葉をほとんど話せないとなれば、「出頭したら、この子はどうなるのか」という不安が先に立つのは当然です。しかし、待っているあいだにも選べる道は狭くなります。ここでは、未成年のお子さんがいる方が出頭申告を考えるときに、法律上どこが評価の分かれ目になり、何を準備すべきかを、入管法の条文に沿って整理します。
未成年の子がいれば、出頭申告は有利になりますか
お子さんがいることだけで結論は決まりませんが、法律上、重要な考慮事情として明記されています。入管法50条5項は、在留特別許可の判断にあたり、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性を考慮すると定めています。未成年のお子さんの存在は、このうち「家族関係」と「人道上の配慮の必要性」に正面から関わります。ただし同項は、内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情も考慮するとしており、お子さんがいることが自動的に許可へ結びつくものではありません。分かれ目は、お子さんの生活の実態を資料で具体的に示せるかどうかです。
子どもも一緒に退去強制の対象になりますか
お子さん自身の在留状況によります。お子さんも在留期間を過ぎて日本に残っている場合は、入管法24条4号ロ(在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者)に該当し、親と同じく退去強制事由のある方として扱われます。日本国籍のあるお子さんは、そもそも退去強制の対象になりません。まず確認すべきは、お子さん一人ひとりの国籍、在留資格の有無、在留期限です。家族であっても、在留資格を失った経緯や、過去に退去強制・出国命令を受けたことがあるかは一人ずつ異なり得ます。ここを曖昧にしたまま出頭すると、家族の中で手続の進み方が食い違い、後から説明に困ることになります。
日本の学校に通い、本国の言葉を話せない子の事情は評価されますか
50条5項の「本邦に在留している期間」「家族関係」「人道上の配慮の必要性」に関わる事情として主張できます。在留特別許可に係るガイドライン(令和6年3月改定、令和6年6月10日施行)も、考慮事情ごとに評価の考え方を示しています。もっとも同ガイドラインは、在留特別許可を「本邦からの退去を強制されるべき外国人に対して例外的・恩恵的に行われる措置」と位置づけ、不法滞在の長期化自体は消極要素として評価します。お子さんの定着と滞在の長期化は表裏の関係にあります。だからこそ、長く住んでいると漫然と述べるのではなく、通学状況、学業や部活動、地域とのつながりを具体的に示すことが必要です。言語についても、「話せない」と述べるだけでは足りません。日常会話はできても読み書きができない、学齢に応じた教科学習を本国の言語で受けた経験がない、本国に受け入れてくれる親族がいないというところまで示して、初めて人道上の配慮の必要性につながります。逆に、長期休暇に毎年帰国している、本国の学校に籍があるといった事情は、本国とのつながりが保たれていると評価される方向に働きます。有利な事情も不利な事情も、事前に洗い出しておくことが大切です。
出頭申告の前に、子どもについて何を準備しておくべきですか
身分関係と、日本での生活の実態が分かる資料を揃えます。おおむね次のものが基本です。
- お子さんの旅券、在留カード(ある場合)。旅券がない、期限が切れている場合は本国大使館での再発給手続の状況が分かるもの
- 出生に関する書類(出生届の記載事項証明書、本国の出生証明書とその訳文など)
- 婚姻・認知に関する書類。手続が未了であれば、その進行状況が分かるもの
- 在学証明書、通知表、出席状況が分かる書類、学校からの連絡文書
- 母子健康手帳、予防接種の記録、通院歴(持病や治療がある場合は特に重要)
- 住居に関する資料、家計を支えている方の収入と納税の状況が分かるもの
- 地域とのつながりが分かる資料(習い事、地域行事、支援者の陳述書など)
枚数を揃えれば足りるものではありません。お子さんの生活が日本のどこに根を下ろしているのかを、読む人に伝わる筋道で並べることが大切です。
子どもがいれば収容されずに済みますか。在留特別許可はいつ申請できますか
収容されないと約束できるものではありません。退去強制手続では、違反調査(入管法27条以下)を経て、収容令書による収容(39条)または監理措置決定(44条の2第7項)に進みます。どちらになるかは個別の事情で判断され、未成年のお子さんの監護養育に関わる事情も、その判断で考慮される事情のひとつです。在留特別許可の申請は、50条2項により、収容令書によって収容された外国人または監理措置決定を受けた外国人が、法務省令で定める手続により法務大臣に対して行うものとされています。申請権はこの段階で初めて生じ、それ以前は職権の発動を求める活動という位置づけになります。そして50条3項により、退去強制令書が発付された後は申請できません。退令が出れば、残るのは取消訴訟や執行停止の申立てといった裁判所での争いです。なお、在留特別許可をしない処分をするときは、速やかに理由を付した書面で知らせなければならないとされています(50条10項)。
執行猶予が付けば、日本に残れますか
残れるとは限りません。ここは誤解の多いところです。在留期間を過ぎて日本に残ることは入管法70条1項5号の犯罪にあたり、法定刑は3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科です。この法定刑は滞在期間の長短で変わりません。変わるのは検察官の処分の選択と量刑の幅であり、期間が短く、自ら出頭し、生活の基盤や家族関係が明確な事案ほど軽い処分に向かいやすく、期間が長期に及び、不法就労や偽造文書といった別の違反が重なる事案ほど重い方向に向かいやすい傾向があります。もっとも、事案により幅があります。
そのうえで、24条4号リは無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としつつ、刑の全部の執行猶予を受けた者などを除いています。しかし不法残留は、もともと24条4号ロによって退去強制事由に当たっています。執行猶予が付いても、不起訴となっても、退去強制手続はそれとは別に進むのです。逆に実刑で1年を超えると、50条1項ただし書により、在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があるときに限る、という加重された要件がかかります。不法残留(24条4号ロ)だけの事案はこのただし書の対象ではなく、これは有利な事情です。だからこそ、刑事処分を軽くする活動と在留特別許可を目指す活動は、初動から一体で設計しなければなりません。
摘発される前に、自ら動くことの意味
お子さんがいる家庭にとって、この差は特に大きく響きます。入管法24条の3の出国命令制度は5つの要件をすべて満たす場合に使えるものですが、その第1号は、イ=27条の違反調査の開始前に、速やかに出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署へ出頭した場合と、ロ=違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に、入国審査官または入国警備官に対して速やかに出国する意思を表明した場合とを区別しています。この区別が、次に日本へ来られる日を左右します。出国命令により出国した場合の上陸拒否期間は、出国した日から1年です(5条1項9号ホ)。ところが24条の3第1号ロに当たる方が出国命令で出国し、その後に短期滞在の活動を行おうとする場合は、出国した日から5年となります(5条1項9号ヘ)。さらに、摘発により出国命令の要件を欠けば退去強制となり、退去強制歴・出国命令歴のない方で退去の日から5年(5条1項9号ハ)、既にそれらの歴がある方は10年(同号ニ)です。お子さんの進学や、家族が再び日本で会える時期を考えるなら、この年数の違いを抜きに帰国か在留かを決めることはできません。あわせてガイドラインは、「当該外国人が、不法滞在を申告するため、自ら地方出入国在留管理官署に出頭したこと」を積極要素として考慮すると明記しています。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士は、第一東京弁護士会所属(登録番号59077、2019年登録)です。
当事務所では、接見の初動から公判の結審まで松村弁護士が全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。お子さんの生活状況やご家族それぞれの在留の経緯といった細かな事情の積み重ねが結論を左右する事案では、同じ弁護士が最初から最後まで話を聞き続けることに意味があると考えているためです。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳をご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等は、提携の行政書士とワンストップで対応します。
解決事例として、次のようなものがあります。
- 観光目的で来日した相談者が日本人女性との間にお子さんを授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案。婚姻・認知が未了で当局から一旦不受理とされたところ、憲法的な観点から交渉して婚姻・認知を成立させ、国籍国の公的書類がほとんど存在しない状況でも有利な証拠を集め、過去の許可事例を分析して、1回の手続で在留特別許可を得ています。
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案。退去強制事由には故意・過失が不要とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りいたします。
おわりに
未成年のお子さんがいる出頭申告では、準備すべきものが親一人の場合より確実に増えます。しかし増えるのは負担だけではありません。お子さんの日本での生活の実態は、入管法50条5項が正面から掲げる考慮事情に直結する、主張すべき材料でもあります。どの資料を、どの順序で、どの段階に出すのか。それを決めるのに残された時間は、待っているあいだにも減っていきます。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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